41話 兄弟の賞金首
すっかり夏の暑さが終わり、秋の寒さがやってきた頃、今日も変わらず旅は続いていた。
黒茶の長い髪をなびかせ、森の中を進んでいく。
「なぁ、この森長くねぇか?」
「そうかしら、一ヶ月ぐらいだよ」
国を出て一ヶ月。ほぼその頃から、森の中で過ごしていた。途中、村がありそこでも寝泊まりはしたていたが長くは滞在していない。
理由は、冬が来るからである。
フェクトが加わり、結界がより強固なものになったとはいえ、このダイナール大陸の冬は厳しいものである。
「でももうすぐ、この森を抜けられるはず」
「本当か!? そしたら早く行こうぜ」
フェクトは、なんとも調子のいい魔神である。先ほどまで、文句を言っていたはずの口は、ルカが歌っていた歌を口ずさんでいた。
そうして、森を抜けようとしたその時だった。
「排除」
魔法が飛んできたのである。
「お兄ちゃんごめん、避けられた!」
「チッ、まったくよ世話の焼ける弟だ」
魔弾が私たちに向けて飛んできていた。
「誰に攻撃したかわかってるんでしょうね……イークス兄弟」
突然名前を呼ばれたことに動揺する二人。
「どうせ、手配書で知ってるだけだ! インフェルノ」
兄が言ったことは真実である。コイツらは、金貨百五十枚の大物賞金首である。
インフェルノを、完全に掻き消し地面に降りた。
「攻撃したってことは、殺されても文句言わないってことだよね」
弟の方は、完全に戦意喪失している感じだ。命乞いを必死にしている始末である。
先ほどまで、イキイキしていた表情が今は青ざめている。
「そこまでにしておいてやれよ、完全に怖がってんじゃねか」
フェクトが、遅れて地面に降りてきた。
そして、周りを見渡しそんなことを言う。
「フェクトよく聞いててね。コイツらは、殺人犯なの、冒険者はそれを生死を問わずに対処しないとなの」
「そうか、なら仕方ねぇな」
その一言を聞いた弟は、一瞬救いが現れたと思ったのか、青ざめていた表情が明るくなったが、一瞬のうちにして逆に戻っていた。
「コイツ……」
「何かしら?」
兄の方は、私の顔をジッと見つめて一言言って黙り込む。古い記憶でも遡っているかのような、考えた顔をしている。
「相手が悪かったな、俺たちの負けだ」
「え、お兄ちゃん何言ってるの?」
お兄ちゃんまで諦めた表情だ。それを見た弟は、完全に終わったことを理解した顔になっている。
それでも目は死んでいない。
「ウッドゴーレム」
大体、私より一回り大きなゴーレム瞬時に生成する。
「そんなので私は止まらないよ」
大ぶりな拳を振りおろすゴーレム。それを片手で止める。だが、それは悪手だと後悔した。
瞬時に、何重にもツルで全身を拘束される。
「マジか……」
「笑いながら言うなよ」
瞬時に、フェクトのツッコミが入る。
「お兄ちゃん早く!!」
お兄ちゃんをなんとか立ち上がらせたが、弟を跳ね除けた。
「お兄ちゃん何やっての!?」
弟はまだ理解できてなかったのだろう。自分の兄が最期の抵抗を見せようとしていたことに。
「雷光!」
フェクトに、渾身の一撃を放つお兄ちゃん。
ただ、それはまったく効かなかった。
「嘘だ、なんでだ?」
「たかが、人間数人殺した程度で俺に敵うと思うな」
その言葉の重みは、凄まじかったといえるであろう。それでも弟を逃すためならと、戦おうとする姿は敵ながらあっぱれと言える。
「フェクト、悔いの残らないように相手してよ」
「言われなくてもわかってるよ」
「雷光波」
繰り出される魔法は、どれも一般人が食らえば一撃で終わるであろう魔法だ。
それを、薄い結界一つで最も簡単に守られてしまう。
「まだ、俺は死なない」
必死に魔弾を放つが届くことさえしなくなった。魔力切れだ。
それでもなんとか放とうとする姿勢は、素晴らしいことだと言えるであろう。
心臓を、自ら握りつぶすような感覚で放つ魔法はどれも、儚くも綺麗だったと言える。
「お前の魔法は良かった。こんな魔法で、人を殺したんだなと思える魔法だ」
「……まだ……まだ行かせない」
もう立つことでさえ、やっとうであろうその体を立たせる力は、弟を逃がしたいという信念からだ。
その一心で、立ちはだかっただ。
「いいじゃねぇか、お前の最期をちゃんと伝えるよ」
お兄ちゃんは、全てを悟ったかのように笑みを浮かべる。
「あなたは、近接戦闘派ですよね……最後に一撃お願いします、剣聖様とそのお仲間様。それと弟に先で待ってるとお伝えください」
「そうかわかった、魔武式・突き」
……
なんていう一撃だ。心地よいとすら思ってしまうほどだ。ごめんな、スーク。
でも、お前の逃げる時間は、稼げて俺は良かったと思っている。
俺は、殺人という罪の代償を死というものでようやく償はじめたんだ。
俺は、後悔なんてないから心配すんな。
……
「お疲れさん、死体に関しては回収しておくよ」
「冒険者っていうのも大変なんだな」
フェクトは、それ以降その日は何も喋らなかった。
そして、弟を探すのが始まったのだ。
それは、日にちを跨いでもまったくと言っていいほど、手がかりすらつかめなかった。
早めに対処しておかないと、それはそれで大変になるのがわかっているからだ。
「早めに見つけないとな」
「そうだね、おそらくもアベンジャーにはなってる頃かもだろうね」
あの時、どうしても二人を対処しておいた方がよっぽど楽だった。
アベンジャーは、本当に厄介であるからこそ必死に探すのだ。
それだけ、アベンジャーという存在は魔族より厄介とも言える存在なのだから。
「これ本格的に、探すぞ」
「お願いするわ」
そう言うと、気配が晒されているかのような気分になる。
秋だというのに、大量の汗をかき、一呼吸入れてフェクトが言うのだ。
「見つけたよ、アベンジャーになりかけって感じかな」
「ありがとうね、それじゃあ決着をつけに行こうか」




