40話 初討伐
「いつでも飛び出して来いよ、それともビビってるのか?」
茂みが音を立てたその時、一匹のホーンラビットが勢いよく飛び出てくる。
それを見て一気に飛び出す奴らごとまとめて、一気に斬り伏せた。
「――すごい、ツノ部分だけを綺麗に斬るなんて……」
ホーンラビットは、ツノが命だ。それを斬ればいいだけのことなのである。
一切、体部分を傷つけずに取れた方が買取価格が上がる。
「あれだけのホーンラビットを、こんな正確に斬れるなんて本当にお強いのですね」
「ありがとう」
ホーンラビットの死骸を回収しつつあることが頭に浮かぶ。最期の顔、少し怯えていた様子だった。
それは、私に殺されるからではないと確信を持って言える。それは、自分よりも圧倒的に強い存在から逃げてきたということだ。
フェクトが、わざわざ離れているのにも理由がある。私の思っている通りなら、魔族がこの森のどこかに潜んでいることになる。
「ねぇ、魔族って最近だと目撃情報いつかな?」
私と同じく、ホーンラビットの死骸を回収していたルカが動きを止める。
「えっとですね、最近だと二週間前とか十日前後っていった辺りでしょうか」
「それって複数体?」
「はい、三ぐらいですかね」
ルカは、言い終えるとまた作業に戻る。
おそらく、周辺の魔物を使った何かしらの作戦が動いているはずだ。
ここ最近で、姿をわざわざ見せたというのには大きな理由があると言われている。
魔族が、国を攻めるという合図だと言われているのだ。
そういった事例が過去にも多く見られていたと、師匠が言っていたのを思い出す。
「魔族の討伐経験ってある?」
「いや、ないですないです」
ルカは、とても大きく横に首を振る。
「魔族を倒せるレベルって、白銀の冒険者とかですよ」
「私もサポートするから、倒してみない?」
ルカの顔がこわばっている。だが、覚悟を決めた顔でこちらに訴えかけるかのように見つめてくる。
「やります!」
「その返事が聞けて何よりだ」
ルカは、おもむろに剣を取り出し、刃こぼれなどがないかをチェックしている。
そんな時だ。私の待っていた連絡が飛んでくる。
(アリア、そっちに魔族が逃げてってたわ)
(了解〜)
この感じからすると、一体は確実に倒していると思って問題ないであろう。
さすがは、私の使い魔だと自画自賛する。
「剣聖少女様、今までに感じたことのないような気配がこっちに向かってきていますけど……もしかして」
「そうだね、間違いないね」
それにしても、なんとも焦り切ったように逃げている。相当フェクトが怖かったのか、それとも演技なのかはわからない。
それがほんとだろうが演技だろうが笑ってしまう。
「来るよ」
ルカは、その言葉に反応して剣を構えている。いい姿勢だと。私は思った。
「人間、人間、いた!」
右横の道なち道を、必死に出てきた魔族。
言葉から察するに、私たちの存在には気がついてたみたいだ。
そして、目をキョロキョロさせ、どちらを攻撃するか見定めているようだ。
一気に飛び出し鋭い爪は、私なんかに目もくれずルカ一直線で飛びついて行った。
「私が攻撃されることぐらいわかっていました。踊り喰い!」
激しくぶつかる。だが、圧倒的にパワー不足だ。ルカは、一瞬のうちにして、木々にぶつかりながら吹っ飛んだ。
そんな好機を見逃す訳もない魔族。なんともゲスな顔つきで、ルカに攻撃を仕掛けていく。
「一殺一刀」
地道に鍛錬をしてきたのがわかる一撃だ。その一撃は、魔族に傷をつけ、反撃の狼煙を上げるには最高の一撃だと言えるであろう。
「おのれ下等種族が、我に傷をつけるだと」
「私の使い魔から逃げてきて、よくそんなことが言えるね」
先ほどまで、見向きもしなかった魔族がこっちを睨んでいる。太い枝の上で座っている私を見ている。
本気で、殺したいと思っている目だ。
「お前……どれだけの魔族を殺したらそんな匂いをはなてるようになる?」
「知らないわよ、最初の一体しか数えてないから。そんなことなんてどうでもいい、まだ勝負は始まったばかりでしょ」
ルカの一撃が、魔族の体を貫く。私と話している最中でも隙を見せなかったのが、仇となった。
「――お前、どうやった?」
「剣聖少女様の言う通りに動いただけですから」
魔族は再度私を睨む。
私は、微笑み返すだけで何もしない。
その頃には、ルカは一定数の距離まで離れている。私が魔族との、意味のない会話を楽しんでいる時にテレパシーで教えた通りに動いている。
「ふぅー、こっからは私だけの力で倒して見せる」
「ほざけ、お前なんかに敗れるほど弱くねぇぞ」
空気が一気に変わる。なんとも言えない空気感だ。呑まれたら、ルカでは太刀打ちできないと判断できる状況だ。
魔力の密度が一気に跳ね上がっていくのを感じ取る。
「魔法に切り替えるのか」
そう言った瞬間、強力な魔弾がルカを襲う。さすがは金の冒険者と言えよう。
「そんなので、私は負けません! 舞斬り」
踊り喰いは、激しい踊り。舞斬りは、しなやかにかろやかに対象まで近づくための踊り。
それを完璧に近い状態で、進んでいく。
もう、勝敗が決したようなものである。
「邪魔すんなよ」
私の横を通り抜けることなんて不可能なのだから。
それを見て、動揺が走る魔族。
一瞬、私を見たのが敗因だ。
「踊り喰い!」
渾身の一撃が、魔族を襲う。そして宙に舞い魔族は息絶えたのだ。
「お疲れ!」
まだ現実か夢かわからなかったルカを、現実に戻って来さる。
ルカは、辺りを見渡し自分のやったことを再確認したのだった。
その後は、お祭り騒ぎどうぜんだ。彼女の魔族討伐は、国だけには収まらず国外にも反響を呼んだのだ。
「本当にありがとうございました」
ルカは、深々と頭を下げた。ギルマスも嬉しそうだ。
「ルカ、これからもっと精進するだよ、またどこかで会ったらよろしくね」
「はい! 私頑張ります」
「じゃあ、これからは堅苦しい剣聖とかいらないから、アリアって呼んでね」
ルカは、真っ赤な顔になりながらも小さな声で私の名前を呼んでくれたのであった。
「それじゃ、元気でね。あ、忘れてた! ギルマス、イデリアが訪れた際に言っておいてくれる。これ以上私の友達にちょっかいかけるな、容赦しないって」
「わかった、言っておこう」
そうして、イデリアから逃げるようにこのシャイから去ったのであった。




