33話 フェクトの実力
「フェクトってさ、戦ってる時は全身が真っ黒だったのに髪色とかは違うんだね」
「まぁ、あれは魔人としてのイメージカラーみたいなもんだよ」
白に明るい薄茶色が混ざったかのような髪を、触っていた。
「まぁ、これからよろしくね」
「いつか殺すからな」
「期待してる」
そんな会話をして、この村を後にした。
好奇心で寄った村で、こんな出会いができると思っていなかったから、鼻歌混じりで歩いていく。
「あ! 忘れた」
その声に、フェクトは体をビクッとさせている。
「鼻歌を歌ってたかと思ったら、いきなりなんだよびっくりするじゃねぇか」
「フェクトって魔法以外にも得意な武器とかある?」
「武術だな、アリアには見せなかったがな」
即答で答えるあたり、自信があるのだろう。私との近接戦闘で使いたくないのは、正直自分でもわかる。一方的に蹂躙されるのを予測していたのだろう。
「箒とかで飛べる?」
「箒!? 使わなくても飛べるだろ」
「飛べるけどさ、魔力の減りが早いじゃん」
そう言うと、呆れ顔で箒を生み出していた。
「え、すご!? そんなこともできるんだ、さすがフェクトだね」
「……っ」
フェクトがとても顔を赤らめている。
「フェクト?」
「……なんでもねよ」
そうして上空に飛び上がる。夏の日差しを感じつつ進んでいく。
「魔物の気配がする、俺の武術を見せてやるよ」
魔物の群れはどうやら、オークのようだ。オークは、発情期を迎えているのか気性が荒くなっているのがわかる。
フェクトは、とてもイキイキした表情で地上に降りたのだ。
……
「元気なのはいいことだな」
一瞬で、その場が凍りつく。目の前に突然現れた魔神に、誰も動くことができなくなっている。
「おいおい、魔物だったらかかってこいよ、こねぇのならこっちからいくぞ」
オークの一匹が粉砕したのだ。そして肉片すら残させなかった。
「さぁ、やる気にはなったか?」
一匹が怒り狂ったかのように、こちらに向かってくる。俺はニヤリ笑う。
「そうだ、それでいい! 魔武式・正拳一徹突き」
「あのさ、もうちょっと威力を下げてくれない? 食料にできないじゃん!!」
主人の怒りがこもった声が、地上にまで届く。
「しかたねぇな、魔武式・突き」
「さすがだね、その調子で頼むね! 私は解体とかしてるから」
なんとも人任せな主人だ、そう思っているのにどこかほっとけないと思ってしまっていた。
そんなモヤモヤを解消するべく、オークをサンドバッグの代わりに痛めつけていた。
……
「早いね! 蹴りの威力もすごいし今日は、私が料理を振る舞うから期待してて」
「ほどほどにな」
オークの解体を終えた時には、辺りはだいぶ茜色に染まっていく。
「今日はこのまま泊まるから、結界の生成をよろしく」
気だるそうに、結界を生成する。
そうして、さっき解体したオーク肉で料理を作りフェルトに振る舞ったのだ。
フェクトは、人間の子供のように美味しそうに食べていた。見た目は、一般的に見たらイケメンなどに分類されそうだが、この姿を見る限りそんなようには感じなかった。
「明日からは、私がみっちり教えるから作れるようになってね」
食事をしていたのが、その言葉を聞いた途端に止まった。
「交代制だろな」
「そういうところは、鋭いんだね。まぁ、それでいいよ」
「絶対だからな! そこは守れよ」
使い魔との契約上、信頼度が低いというのはあまりいいこととは言えない。
使い魔を、虐待や無理な指示で信頼関係にはヒビが入る。それをやり過ぎると、主人を攻撃してくる。
それが、両者のどちらかが死ぬまで続くのだ。
そして、その後は色々なことを聞いていると眠気が襲ってきていた。
今日は、色々なことがあった。そして眠そうにしているのは、フェクトも同じみたいで、今にも眠たそうにしている。
そして、そのまま眠ってしまったのだ。
起きると、まだ暗い時間帯だ。それでも、目が冴えたて二度寝もできず、剣の素振りをしながら時間を潰すことにしたのだ。
一方、フェクトは完全に爆睡していた。よだれを垂らして眠っているほどだ。
昨日まで、五十年間宝玉の中で長い年月を過ごしていた。その影響もあり、とてもテンションが上がっている様子であった。
私はそんなフェクトの顔を時々眺めながら、素振りを続けるのだった。
そうして、太陽の日差しに照らせたフェルトを起こし朝ごはんを食べたのち旅は再開した。
まだ眠たそうに、目を擦るフェルト。
「あれだけ寝ておいてまだ眠たいの?」
「どんだけ寝ても足りねぇよ」
「でもそろそろ、目は覚ましておいてよ」
「わかってるよ」
フェクトも、気がついたようだ。ここの近くに、ダンジョンの存在に。
マップを発動し、周辺を確認すると危険のマークがついたダンジョンが近くにあることがわかった。
危険のマーク、それはそのダンジョンで死亡者が多発した際に発令されるものだ。
「近くのダンジョン、相当危険みたい」
「攻略はされてるみたいだけど」
「その後、攻略から数ヶ月経ったぐらいから死亡事例が急増してる」
それで考えられる要因は、何個かある。
一つ目は、攻略が完了したため、強い冒険者が撤退しそこそこの冒険者や低級冒険者が攻略に失敗したため。
二つ目は、強い魔物がダンジョンに入りこみ、冒険者が死亡しているため。
三つ目は、魔族が入りこみダンジョンを徘徊しているのが原因として考えられる。
可能性として、高くあって欲しいのは誰だって一番目である。それなら、ギルドとしても対応できるためである。
横でジッとダンジョンの方に向いてる、フェクトに声をかける。
「近くまで行ってみようか? 気になることもあるから」
「奇遇だな、俺もだ」
その表情は、どこか察している表情だと私は思ったのだ。
そして、それは当たることとなる。
フェクトの表情が、どこか覚悟が決まっている顔つきだ。
「魔族だ、あのダンジョンに魔族がいる」
「探知できるんだ、今から攻略するわけだけど、私は容赦なく殺るからね」
「別に構わねぇよ、魔族なんていたところで俺の敵ではない」
フェクトは、はっきりと答える。そして口角を上げてこう言ったのだ。
「ダンジョン攻略が楽しみだ!」




