31話 老婆の助言と日記
夏の厳しさが続く最中、今日も変わらず箒に乗って次に訪れる国をのんびりと目指しているところです。
最初は、夏の暑さに嫌気もさしていたが、時間も経てばもうどうでもよくなっていた。
その要因となったのは、おそらく体が慣れてきたからであろう。
そうして、平原を進んでいる最中何個かのテントが建てられていたのです。
冒険者ならまだわかるのだが、上空から見るにほとんどが老人である。若いものといっても、五十以上のなのは間違いない。
「あら珍しい人だね」
どうやら気が付かれたようだ。老婆は、どこか嬉しそうな表情をしてこちらを見ている。
そして、近くにいた老人たちにも声をかけていた。
「こんにちは! ここで一体何をなされているのですか?」
当然の疑問である。ここは、国からも村からも離れた平原地帯。そのど真ん中にポツンポツンとテントが建っていたら誰でも気になって突然であろう。
「旅人さんこそ、珍しいと思うがね。私たちは、死に場所を探す旅人だ」
「それは、なぜですか? 国や村に暮らすのでは違うのですか?」
「あぁ違う。私たちは、そんなものにとらわれず死に場所という旅を楽しんでいるのさ」
本質は、私と何も変わらない。違う所は、明確な目的のある旅だということである。
今の私には、そんな夢なんというものはない。
ただ、あてもない旅を楽しんでいるだけに過ぎないのである。
「珍しいお客さんだ。せっかくだ、ご飯でも食べていかないかい?」
「ありがとうございます、いただきます」
一番大きなテントに案内され、入っていくともう食事の準備が整っているところであった。
みんな、楽しそうな表情をしているのが印象的だ。
いつ、どんな時に死ぬかもわからない旅を全力で楽しんでいるように思えたのである。
「ごちそうさまでした、美味しかったです。またいつかどこかで会いましょう」
「ちょっと待て」
先ほどの老婆とは違う、老婆が話しかけてきた。食事している時も、あまり会話している人ではない印象だったのを覚えている。
次の瞬間、細目だった目が見開いたのだ。
内心びっくりしてしまう、それをなんとか顔に出さないように徹底する。
「ここから、ちょっと先になある廃村に近づくな」
「どういう意味でしょうか? 私は冒険者でもありますから魔物退治は専門なのですが?」
「そんなの関係ない、お主が剣聖だろうと勝てはしない」
周りの老人たちは、驚いている。先ほど酔った勢いで、おふざけをしようとしていたおじいちゃん連中は青ざめていた。
「私の正体に気がつけられていたのですか、それでも関係ありません、私は自分の行きたいところに行きますから」
「若いのに、死ぬというのか」
「若さなんて関係ありませんよ、旅人は好奇心には勝てませんから」
私は、そう言い残して後にした。行く直前まで、あの老婆はずっと危険を知らしてくれていた。
それほどまでに危険な地帯といっていいのだろう。
今の私は、自分を殺せるかもしれないナニカに興味が湧いていたのだった。
そうして、箒をその廃村に向けて飛ばす。先ほどから、剣が疼いて仕方ない。
それほどまでに、今の私は楽しみなのだと理解するのに時間は掛からなかった。
そうして次第に森の方に向かっていく。
辺りに魔物の気配はない、ただ嫌な気配はする。
そして何より、ここ一体森があるといっても元気がなさそうにも見えたのだ。
それもあってか、より雰囲気が出てきていた。
そして、見えてきたのである。もう何十年も前に滅んだ廃村が、お出迎えしてくれる。
村の規模は小さく、暮らしていても数十人程度であっただろう。
そんな村に足を踏み入れたのだ、家はだいたい人為的に破壊されており、推察にはなるが魔物にやられたのが妥当であろう。
「この村には、ギルドがなかったんだな」
一周して、だいたい確認したはずだがギルドはなかった。ギルドは、昔から存在しているため無いはずは到底考えられなかった。
そして、半壊しているものの中に入れそうな家もある。
「ごめんください」
誰も居ない家に、返事して入っていく。
入った先に、人間らしき人骨死体があった。年季が入っていて、鑑定でやっとわかるほどだ。
そして、大ごとそうに本を持って倒れている。
「なんだろうか、この本?」
興味が恐怖心を打ち負かしたかのように、本を手に取る。埃まみれで、ボロボロな本である。
今にでも、消えそうな本である。
それを、神経を使ってページを開いていく。どうやら中身は、日記のようだ。
この人骨死体の日記かはわからないが、この本の主は男みたいだ。
今からおおよそ五十年前の日誌なのが読み取れる。ほとんどのページは、何気ない日常を書いているものだが途中からおかしくなっていくのを、読み取れいく。
「魔族が結界を一部ぶち破った」
「それが何日も何日も続いた」
「逃げる術は無い、もう全て終わりだ」
まだ、転移が確立されて数十年程度。この頃は、まだ馬車移動が当たり前だった。
それより前の出来事であったのが、この文章からわかる。
「魔族が、我は魔神と名乗ったの」
「剣聖を名乗る男が、見るも無惨な姿で殺された」
「国は、もう助けてくれない」
「これ見ているものに言う、私たちは封印を得意とする魔法使い」
「封印に成功はしたが、次々に呪われたかのように村人が死んでいく」
「封印は五十年が限界だ、それを誰かあの方に伝え」
そこで、文章は途切れていた。
おそらく、この文章は誰にも見つかることはなかった。おそらくどこかの国が、隠蔽したもの。
この五十年、誰一人この村に来なかったのであろう。
そして、それを知るものはほとんどが老人、それかエルフなどの長命種のみ。
「まさか今年で、五十年とはなんとも運がいい」
魔神と書いてあった。おそらく魔族の最上位で間違いない。剣が疼いていしかたない。
今すぐにでも、斬りたい。戦いと思ってしまうのであった。




