26話 学園の話
「何もできなかった」
シューミンの悔しそうな声が聞こえてくる。
それをミニシアが必死に、慰めていた。
「シューミン、あなたは強いと思います。ただ相手が悪かった」
「でも、これで私も強くなりたいと思いました、あなたを超えられるような魔剣士になります」
シューミンの切り替え速度は、早いものだ。
さすが、そこは長年の使用人として携わってきたのが影響しているのだろうと私は思うのだ。
「剣聖少女様、私もいつかあなたと一緒に戦えるぐらい強くなりたいんです」
「それは、さっきの戦いを見て?」
「この国は、よく魔物の被害に遭うんです。それをいつかは、私もこの手で食い止めたいんです!」
ミニシアは、第五王子と結婚する身でありながらそれを言い切ったのだ。
だが、結婚といった未来は訪れないかもしれないかもという不安もあるのだろう。
誰かに殺されるかもしれない。ミニシアは、そう言った。
その時の声は、震えていた。
それを誰に打ち明けたりしても、自分の行いでの結果が返ってきているだけかもしれない。
それでもミニシアがこの数日で、変われたのはとても良いことなのだと思うのだ。
「それは良いお考えです、提案なのですが、私たちしかいない時は、お二人ともアリアと呼んでください、お友達なのですから」
ミニシアもシューミンも驚きを隠せない様子である。
それもそうだ、貴族社会は縦の上下関係がとても厳しいのだ。
それを長年遂行してきた、彼女たちにとってそれはとても厳しいかもしれない。
それでも、私は剣聖としてではなく、友達として今を分かち合いたいと思った。
「もしかしてアリア様、王都にある学園のルールを知ってるからでしょうか?」
王都にある学園?? 何を言っているのか全くわからない。まず、学園って何状態である。
「まず一つ聞いて良いかな、学園って何?」
二人の驚いた顔、貴族としての常識なのだろうか、私は一般市民に過ぎないから、聞いたことがない。
まず大体、大抵のことは親から教えて育つものだからだ。
「学園というのは、貴族や王族の子供たちが十五歳から通う場所でして」
「さすが貴族や王族っていい教育っていうのかな? 受けられるんだね」
「魔法が扱える生徒は、六歳から魔法学園に入っておられるんですよ、私も卒業しました」
魔法学園……あ、聞いたことがあるわ。確か、イデリアも通ってるとか師匠が言ってたような。
「魔法学園の生徒は、そのまま王都ダイナール学園という貴族や王族の方と学ぶケースも多いのです」
「もしかして、ダイナール学園のルールって私の似たようなことがルールにでもなっているの?」
「そうなのです、学園は学び合いともに成長するものと言われています、それをそんな大人が決めたルールのもとで過ごさせないという理念があるそうなのです」
おそらくそこのトップは、自分の子供時代とはまるで違うことを体験してほしいとでも、考えているのであろうか。
昔は、今よりも厳しかったと聞く。
昔の古臭い考えよりも、今を生きる若者たちのためを思った考え方か、とても考えられたトップだと私はそう思う。
「あの、もしよろしければなのですが、アリア様も十五歳になったら入学なさりませんか?」
え!? 脳裏に先ほどまでの考えがこの一文字に変わる。
興味があるが、行きたいとまでは思わないのだ。
私は旅人であり、冒険者でもある。
そんなところで、数年間を無駄にしたくはないのだ。
「すぐには結論を出さなくても構いません、まだ私も三年の月日がありますから」
この時私は、初めて知ったのだ。
同い年であることに。
「え、同い年だったの? 私も十二歳なんだよ」
「はい、新聞の方で読んでいた際に書いてあるのを見ました」
嬉しそうに答えていた。
会えたことがこんなにも、嬉しかったのだろうと改めて思った。
「シューミン、体調の方はどんな感じ? 痛むところとかない?」
「だいぶ楽になりました、お気遣い感謝します」
「それはよかった! ミニシアはそろそろ素振り見てあげるわ」
シューミンは、ボックスから即座に椅子と机を取り出し、お茶の準備を進めていた。
私は、腰掛けつつマメシアの素振りを見たのである。
その光景を、遠くから他のご令嬢が見てくるのを感じながら、マメシアに指導を続けたのであった。
「最初に見た時より、だいぶ良くなってるよ! これを続けていって、シューミンとの手合わせをおいおいやっていこう」
夕暮れどき太陽を背に、私は二人に手を振りながらお風呂やに向かうのであった。
……
アリアが見えなくなった頃、シューミンの緊張が少し解けていた。
「シューミン、お姫様だっこどうだった?」
「寝ぼけた顔で、アリア様を見た瞬間イケメンに抱き抱えられているのかと思いました」
確かにシューミンは、顔を真っ赤にさせていた。
それから少し緊張しているのを、少し眺めているのは楽しかった。
そして、何よりお茶を作っている最中の全身の震え、素振りをしていても感じ取れるシューミンのあの感じ、アリア様のおかげていいものを堪能させてもらった。
「シューミン、これからさ他のメイドさんたちにもきちんと謝罪しないとだね、私のせいでとても怖い思いをさせてしまったからね」
「いつか、お嬢様の熱意に応えてくれますよ……きっと」
歩いて屋敷に戻っていく。
その帰り道は、どこか楽しくもいつまでも終わってほしくないと思えたのである。
近いうちに殺されるかもしれない恐怖。それをどこか感じたまま過ごす日々も、いつの日かいい思い出になればいいと心から願うのであった。
「お嬢様、お屋敷にもうすぐ着きますよ」
「そうね、今日はたくさん運動したから、お腹が空いたわ」
……
その頃、剣聖様はいいお風呂やを見つけ、テンションが上がってしまい、とても嬉しそうな表情しているところを、新聞に書かれたのを、翌朝の新聞の記事で知ったのであった。




