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6.鍛錬

「外が暗くなる前に帰ってきてね」


 シンシアが家を出ていく俺に向けて、優しく声をかけてきた。


「分かってるよ、シンシアさん。 行ってきます」


 更に5か月の月日が経過した。言葉は大分流暢に話せるようになり、ジーク、シンシアとも打ち解けることができた。ミアは相変わらず俺のことが嫌いなようで、目を合わせてもくれないが。まあ、仕方ないだろう。ゆっくりと打ち解けていくしかない。

 俺は入口付近に立てかけてあった木剣を手に取り、以前ジークが鍛錬していた広場へと足を進めた。



「ふっ!」


 軽い吐息と共に、木剣を上から下に振り下ろす。剣の重さに僅かに体が引っ張られ、体勢が崩れる。

 最初の頃よりはましかもしれないが、まだまだ体が木剣についていけていない。木剣でこれなら、本物の剣を振るなど夢のまた夢なんだろう。

 毎日、木剣の練習を暇さえあれば行い、腕が上がらなくなるまで続ける。振っているうちに、少しずつだが重心のブレが少なくなっているのを感じる。いきなり理想通りに動けるなんて初めから思っちゃいない。


「ふっ!」


 無心で繰り返すのではなく、一回一回を丁寧に行う。たまに、良い感じで振れたな、と感じる時が来る。その手応えを忘れないうちに、その良い一回が普通になるようにする。その時の良い振りが普通に振れるようになると、更に良い手応えを感じる。これをただひたすら繰り返す。

 より速く。

 より強く。

 想いと共に木剣を振り切る。


「ふっ!」


 その後、30回ほど剣を振り、腕に疲れが溜まりすぎたことを感じる。


「少し、休憩するか」


 太陽が真上へと昇り、気温がじりじりと上昇してきているのを感じる。

 木陰に座り、俺はこの世界に感じている疑問を自問自答し始める。

 この世界では何故か365日を一年としているようだ。過去に、地球人がこの惑星にたどり着いていたのだろうか? 


 遠隔地での人体再構成は魂と言うべき非物質粒子が発見されて以降、徐々に確立されていった技術である。魂自体の発見は100年ほど前、遠隔地での再構成が確立されたのは30年ほど前である。仮に30年前に地球人がこの地に降り立っていたとしても、そのわずかな期間で常識と言えるほど365日を1年と考える概念は広がらないだろう。非常に信じがたいことではあるが、この世界にはそれよりはるか前に地球人が訪れていた可能性がある、ということになる。


 気になるのはそれだけじゃない。

 ジークが俺を助けたときに言った『術式展開(アクセスコード)』という言葉。アレはどう考えても地球での英語だ。言語体系が似ているのかとも思ったが、どうやらそうではない。魔力というものを使い際に詠唱が必要な場合があると彼は言っていた。魔力がそもそも何なのかという疑問や、言語の謎など考え始めればキリがないがいくら考えても答えは見つからないだろうな。判断材料があまりにも少なすぎる。


 考えながら、シンシアから貰った木の水筒の水で喉を潤す。ただそれだけの行為にも、最初の頃は感動すら覚えていた。一度死ぬかもしれない経験をしたから、何気ないことにも幸せを感じるのかもしれないな。などといい加減な自己分析をしていると、視界の端に見覚えのある姿が入ってきた。


「ん? あれは……」


 白金色の髪をなびかせたミアは、おどおどと周囲を見渡しながら森の中へと入っていった。俺は木陰に座っていたためか、見つからなかったようだ。

 これは、どうするべきだろうか。

 追いかけるのが正解なのか?

 村の付近の魔物はジークが大方駆除してはいるが、全て駆除できているわけではない。森にいる生物全てを殺すなんて不可能である。細かな、人間にあまり脅威ではない魔物の存在はよほど暇でもない限り黙認される傾向にある。

 脅威ではないとはいっても、村のように複数人の大人が即座に集まれるという状況を想定したものである。とても7歳の少女が一人で立ち向かえるわけがない。だからこそ、ジークは森の深くまで行ってはいけないと俺とミアに念を押していた。森の怖さは、恐らくミアよりも俺は知っている。

 ジークは多分別な場所に向かっているだろう。今からあの人を捜す時間を考えると、最悪、手遅れになる可能性がある。

 これ以上、迷っている暇はない、か。

 俺は木剣を手に握り、ミアが入って行った茂みから森へと侵入することにした。



読んでいただきありがとうございます

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