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呪いを受けて少女は魔女になった  作者: 冬野月子


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21/38

21.魔女の死

「ん…」

息苦しさを覚えて私は喘いだ。

身体が重く…動かない。

何かが私の口を塞いでいる。

生暖かいものが口の中に滑り込んできて———!


「…ふ……ん…ぁ…」

喘ぎながら目を開けると、差し込む月明かりを受けて怪しく光る黒い瞳が目の前にあった。

「———流石にここまでしたら…起きるんだね」

私から唇を離すと、熱い吐息を漏らしながらラウルは笑みを浮かべた。

「…ラウル!」

慌てて起き上がろうとするが、私に覆い被さるラウルの身体に抑えつけられてわずかに身動ぐ事しかできない。

「何してるの…!」

「貴女の顔が見たくて…見ているうちに我慢できなくて」

何それ!

「…夢を見たんだ」

ラウルは私を抱きしめた。

夢?

「最近やっと見なくなったと思ったのに…アデル様の話なんかしたから……フローラ様までいなくなるんじゃないかって…」

「ラウル…?」

様子のおかしいラウルに戸惑う。

「…何の夢をみたの?」

「———アデル様が死んだときの夢だよ」

ラウルは私の肩に顔を埋めた。

「嫌なんだ…あんな……」


そうだ、ラウルは私の…アデルの最期を看取ったんだ。

私が死ぬときはいつも同じで…ある日突然身体に力が入らなくなる。

まるで大地に引きずり込まれるように…身体が重くなっていって、やがて意識がなくなるのだ。

私はそれで終わりだけれど、ラウルはその後も私の……。


「ラウル」

本当はラウルを抱きしめたかったけれど、腕を動かす事ができないので代わりに顔をラウルにすり寄せた。

「…ごめんね、あなたには…迷惑かけたでしょう。まだ子供だったのに、後始末とか……」

「———後始末?」

ふいに身体が解放される。

見上げるとラウルが無表情で私を見ていた。


「貴女は…やっぱり知らないんだね。自分が死んだらどうなるか」

「え…?」

どうなるって…

「どうなるの…?」

「消えるんだよ」


消える?

「跡形もなく…影一つ、髪の毛一本残さずに何もかも。全部消えるんだよ」


疑問には思っていた。

私は一人この家で死んだはずなのに、数年後生まれ変わって戻ってくると、そこには死体が残っていないのだ。

誰かが入ってきた形跡も、動物に食べられた跡もなく———


「愛する人が目の前で消えるんだよ。手を伸ばす間も無く、あっという間に」

ラウルの手が私を撫でる。

「アデル様の身体はもうどこにもない…俺には何も残らなかった」

頭、頬…私の存在を確かめるように、何度も何度も。


「フローラ様…貴女は…消えないで……」

私の胸に頭を埋めたラウルを、私はただ抱きしめるしかできなかった。





目を閉じたままでも明るさを感じる。

…朝か。

昨日は……

ゆっくり開いた目の前にあるラウルの寝顔に一瞬心臓が止まりそうになった。

———そうか、あのまま眠ってしまったんだ。

ラウルに腕枕をされたままで…重くないのかなこれ。


また寝起きざまにキスされるのはなあ、ともぞもそとラウルに背を向けた所で背後から抱きしめられた。

「…おはよう、フローラ様」

私の顔を覗き込むように、頬をすり寄せてくる。

「ちょっと…」

「昔は朝起きるとアデル様よくこうやってたよね」

う…それは…。

「だってあの時のラウルは…子供で可愛かったからつい…」

「俺だってフローラ様が可愛いからやるんだよ」

子供と大人じゃ違うから!


「———そうだフローラ様」

ラウルはすり寄せるのを止めた。

「俺今日は森の調査に行くから」

「え?」

調査?

「封印がどれくらいの範囲と深さに広がっているのか調べるんだ」

「どうやって…?」

「探知魔法を使えばできると思うんだよね。上手くいけば封印されている魔物の強さも分かるかもしれないし」

「それは…危なくないの?」

「たぶんね」

たぶんって。

「初めてやる事だから、危険かどうかは分からないよ」

本当にラウルは突拍子も無いことを思いつくのね。

「…私も一緒に———」

「うん、来て」

反対されるかと思ったけれど、あっさりとラウルは言った。

「本当は留守番していてもらおうかと思ったけど。俺がいない間にあの王子が来たら嫌だから」

それは確かに…私も、ジェラルド様と二人きりになるのは気まずい。


「じゃあ準備して出かけようか」

起き上がったかと思ったラウルはそのまま身をかがめて私にキスをした。

「おはようのキスを忘れる所だった」

そう言ってラウルはにっこりと笑った。


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