冒険者の先生?
「珍しいね」
「珍しいんですか……」
「うん。近くに竜人の里でもあれば別だけど、この辺にはないしねぇ……」
おじさんはちょっと私を疑っているみたいだ。
でも、私がドラゴンの血を引いていることは間違いないし、見た目だって別におかしくはないはずなんだけどね。
「まあ、いいか。じゃあ、これで登録してしまうよ。ちょっとだけ待っててね」
おじさんはそう言うと、カウンターの奥の部屋に入っていった。
「どうだ、無事、終わったか?」
背後から声をかけられた。どうやらクラウディオはずっと待ってくれていたらしい。
「クラウディオ、ありがとう。今、登録してくれているみたいです」
「ん。べつにいい。カードが、できたら、メンター登録を、しよう」
「メンター登録……って何ですか?」
聞きなれない言葉に、私は首をかしげた。
「そいつに、聞けば、いい」
ちょうどおじさんがプレートを手に戻ってきたところだった。
「では、こちらがギルドカードになります。無くすと、お金がかかるから気をつけてね」
私はおじさんが差し出している赤銅色のカードを受け取った。
「なんだか、クラウディオのと色が違うね?」
「ああ、ギルドランクが上がれば、プレートの材質が変わりますから」
クラウディオではなくおじさんが答える。
なるほど。たしか、クラウディオのカードには星が三つついていたなあと、思い出す。
「では、ギルド冒険者の登録料としてギルド銀貨五枚を引いておくから。あ、支払いはあっちの窓口になるよ。それと、今すぐ払えなくても大丈夫だから。クエストの報酬から支払ってもいいし……。カードの裏を見てごらん?」
私は受け取ったプレートをひっくり返した。
「ここに書かれているのは、ギルド預かり金といって、うちで預かっているお金が書かれているんだ。これは、マイナス銀貨五枚だね」
私は隣に立っているクラウディオを見上げた。
彼がうなずくのを見てほっとする。
やはり数字だけでも早急に覚えないとまずい。
「今日から一年以内に支払えば大丈夫。ただし、一年が過ぎても支払いできない場合は、冒険者登録が抹消されてしまうから注意してね」
「はい。わかりました」
ということは、早々に銀貨五枚以上を稼がないといけないということか。
「まじめにクエストをこなしていれば、一ヶ月もすれば支払えるようになるから、心配ないよ。あと、ギルドではお金を預かることができるんだ。どんな国へ行っても、その国の通貨で引き出したり、預けたりすることができるから、とても重宝されているよ。まとまったお金があるときは、ぜひギルド銀行を使うといいよ。さて、ほかに質問はないかい?」
「えっと、クエストというのは、どうやって受けることができますか?」
「ああ、これは大事な説明が抜けていたね。ごめんごめん。クエストはあそこの掲示板にギルドランク毎に貼られている。受けたいクエストがあったら、紙をはがして受付で受注すればいい。詳しい条件や内容を教えてもらえるからね。たくさん受けてもいいけど、完了できなければ、罰則がある場合もあるから気をつけてね。条件はクエスト毎に書かれているから、よく見ておいて」
そっか。受けるだけ受けて、きちんとお仕事をこなさないのは困るもんね。
「メンター登録、について、説明を」
クラウディオがおじさんにそう告げた。
「メンター登録だね。久しぶりだなぁ」
おじさんはとても嬉しそうだった。
「メンター登録というのは、冒険初心者のために師匠を登録する制度だよ。メンターは弟子として登録した初心者の面倒を見る義務があるんだ。メンター登録中は弟子と一緒にクエストを受けなければならない」
ってことは、クラウディオが師匠になってくれるということ?
「初心者は冒険者として先輩であるメンターと一緒に冒険をすることで、基本的なことを学べるんだよ」
だけど、それだとメンター側にはあまりメリットはないよね?
「メンターとなる冒険者にもメリットがあってね。一定以上にギルドランクを上げるためには、必ず一度はメンターを務める必要があるんだ」
まあ、それなら両方にとって意味があることなのかな。
「メンターを解消するときは、二人でギルドに来れば登録を解除できる。まあ、たまに不幸な事故が起こったりするけど、そのときは、どちらかがこのギルドカードを持ってくれば、メンターの解消は可能だよ」
説明を聞き終えた私は、クラウディオを見上げた。
いいのかな?
彼は無言でうなずいている。
「じゃあ、お願いします」
私はギルドカードをおじさんに差し出した。
クラウディオも首からギルドカードを取り出して、おじさんに手渡す。
私も早くクラウディオみたいに銀色のカードになれるように、がんばろう。
おじさんはすぐにギルドカードをなにか機械らしきものに入れて、いじっていたけれど、すぐにカードを返してくれた。
私は自分のギルドカードをじっと眺めた。
なんだか文字が増えている気がする。
「ここに、メンターと弟子の名前がそれぞれ書き込まれているからね」
まあ読めないけどそうなんだろう。
あー、本当に早いところ文字を覚えてしまわないと。
「あなたの旅路に幸多からんことを」
おじさんはにっこりと笑って手を振った。
どうやらこれで登録は完了らしい。
「あとは当たり前のことだけど、冒険者がクエストに命を落としたり、怪我をしたりしとしても、当ギルドには責任はないからね」
もちろん自己責任ということだね。
「クラウディオ、改めて師匠としてよろしくお願いします」
「ああ」
一緒に魔物を倒すだけなら、あんまりこれまでと変わらない気もするけど……。
早く一人前になって、恩返しできるようにがんばろう!
と、その前に。
「あ、魔石の買取ってどこでしょう?」
「あっちだ」
クラウディオは受付とは別のカウンターを指した。さっきおじさんに登録料を支払う所だと言われた窓口だ。
私は意気込んで窓口に並ぶ列の後ろについた。
登録窓口とは違って、こっちの窓口は混んでいる。
しばらく待って、やっと私の番がきた。
登録窓口と同様に、やはり私の顔はカウンターの下だ。
さっき使った踏み台を、クラウディオがさっと持ってきて置いてくれる。
「ありがとうございます。クラウディオ」
さすがは師匠だ。
「買取をお願いします」
私はずっと腰につけていた袋をベルトからはずして、カウンターの上に置いた。
窓口のお兄さんはごとりと音を立てた袋を少し開けて、中身を確認すると、ぎょっと目を見開いた。
あわてた様子で私に魔石の入った袋を押し返す。
「ここでは無理です。個別の買取窓口へご案内します」
お兄さんは立ち上がると、カウンターの中から出てくる。
私はクラウディオと顔を見合わせた。
「どういうこと?」
「いや、たぶん……。ちょっと、見せてみろ」
クラウディオが袋の中身を見せるように言った。
私はクラウディオに袋を手渡した。
そうして、袋の中身を確認したクラウディオは、窓口のお兄さんと同様に大きく目を開いた。
「……なるほど」
クラウディオもまたすぐに私に袋を押し返してきた。
何かまずかったのだろうか? だんだん不安になってくる。
「こちらです」
ギルドのお兄さんが案内に立って建物の中を進む。
私は袋を手にクラウディオと一緒にあとをついていった。
「こちらに出していただけますか?」
私たちはいくつか衝立で仕切られた小部屋が並んだ一角に案内された。その小部屋のうちの一つに通された私は、テーブルの上に置かれた布の上に、魔石を出すように指示された。
今度は先ほどの窓口のお兄さんではなく、眼鏡をかけたきれいなお姉さんが担当のようだ。
私は袋を逆さにして、入っていた魔石を布の上にごろごろとあけた。
昨日、角兎から回収した、爪の先ほどの小さな魔石もあれば、イチゴくらいの大きさの魔石もある。こっちはうちの近くで修行中に、ドラゴンブレスで倒したワニっぽい魔物から回収したものだ。結構大きな魔物で、倒すのに苦労した覚えがある。
そんな感じで、大小さまざまな魔石が布の上に広がった。
魔力を含んでいる魔石は、私にはちょっと光って見える。大きなイチゴくらいのやつは、赤く光っている。小さな魔石は所々がかすかに光るくらいにしか見えない。
きっと、光っているものの方が高く買い取ってもらえる気がするけれど、どうだろう?
お姉さんは手袋をはめた手で、魔石をより分けていく。
大きさだけではなく、宿している魔力の量や、質でも分別しているようだ。私の目には同じような光の分量のグループで分けられているように見えるので、覚えておくといいかも知れない。
一掴みほどあった魔石は、お姉さんの手で四つほどのグループに分けられた。
「まず、魔石にランクがあるのはご存知ですか?」
お姉さんは眼鏡の縁をくいっと上げ、じっと私を見つめた。
「知らないです」
「では、ご説明いたします。魔石はおおよそ下級、中級、上級、最上級の四つのランクに分類できます。これが下級。日常的に使う魔道具の材料となりうる魔石です」
お姉さんは小さな魔石のグループを示した。角兎の魔石もこの中にあった。
「そしてこちらが中級。下級よりも、魔力の量や質がよいほどランクが上がっていきます。この街の近くの魔物から採取できるのは、中級ぐらいまでですね」
ふんふん、と私はうなずいて先を促す。
「こちらが上級です。ダンジョンで回収されることが多いです」
私の持ってきた魔石は大半が上級のものだ。ってことは、うちの周りはダンジョン並みの魔物がうじゃうじゃしているってこと!? どう見ても初心者の私が、上級の魔石を大量に持っているのって、不自然だよね?
私の顔はさっと青ざめた。
「このギルドで普段買い取るのは、上級までが一般的なのです。そして、これは……」
お姉さんは一際大きな一つの魔石を指した。
「最上級、と言いたいところですがもしかすると、特級になるかもしれません。詳しく調べてみなければわかりませんが……、うちのギルドよりも、王都のギルドへ持ち込んだほうが高く売れるかもしれません」
うん、やっちまったね、私。
もうちょっと小出しに換金すべきだった。
冒険への期待が高すぎて、自制心とか慎重さとかが完全にどっかに行っちゃってた。
遠い目をした私をよそに、クラウディオが口を開いた。
「買取の、金額について、教えて、やってくれ」
「はい。下級の魔石は一つ半銀貨、中級はその倍の銀貨一枚、上級は銀貨三枚で買取をさせていただいております」
なんだか最上級とか特級の魔石の値段を聞くのが恐ろしい。でも言われても物価がよくわかってないので、どれくらいの価値なのかちょっと想像がつかないけれども。
「こちらの魔石が最上級であれば、金貨一枚、特級であれば金貨五枚ほどになります」
おっと、いきなり銀貨から金貨にランクアップしたぞ?
あとでクラウディオに貨幣価値を教えてもらおう。
「すべて換金されますか? こちら以外はすぐに用意できます」
最上級だか特級だかわからない大きな魔石以外はすべて買い取ってもらえるようだ。
全部換金してしまったほうがいいのかな?
私が迷っていることを感じたのか、クラウディオが口を開いた。
「特級と、上級は、残して、おいたほうが、いい」
クラウディオの言葉に、お姉さんもうなずいた。
「はい。この国だけで活動されるのであれば、すべて換金しても問題ないと思いますが、ほかの国へ行かれるのであれば、魔石のほうが換金しやすい場合がありますので、手元にいくつか残しておく冒険者が多いです。下級と中級の魔石はすべて換金して、上級は半分ほど残しておけばいかがでしょう?」
クラウディオを見上げると、うなずいていたのでそうすることにする。
「では、すぐに計算しますね」
お姉さんは残った魔石を私に返すと、手早く計算書に記入している。
私は魔石をもう一度袋にしまって、わくわくしながら見守った。
「お待たせしました。合計で銀貨五十五枚となります。すべて銀貨でお支払いしますか? それとも金貨四枚と銀貨七枚にいたしますか?」
ん? もしかして銀貨十二枚で金貨一枚ってこと? うわっ、計算が面倒くさそう。
「銀貨で」
私がダースの世界に戸惑っていると、クラウディオが代わりに答えてくれていた。
「あ、登録料!」
私はギルドへの登録料を支払わなければならないことを思い出した。
「では、ギルドカードをお貸しいただけますか? 差し引き銀貨五十枚ですね」
「半分ほど、預けて、おくといい」
「あ、じゃあ、二十五枚はギルドに預けます」
「承知いたしました」
お姉さんはさっさと私のカードを機械にかざして処理すると、カードと銀貨を渡してくれた。
魔道具って便利だ。
カードの裏を見ると、刻まれたギルド預かり金のところが変化していた。
やった! 借金が消えたよ! そして、軍資金もゲットです!




