紅い正義を撃て・其の六
「まさかここで寝泊りする羽目になるとは……」
クローブちゃんが全てカレーを胃に収めてしまった後、仕入れ先の確認をしていたら、気が付くと夜中になっていた。電車はとっくに終電を過ぎており、今から歩いて帰っては夜が明けてしまう。まぁ、椅子を並べて座布団を敷けば何とかなるだろう。
そう思っていたのだが。
「……何でクローブちゃんまでここに?」
「基地に戻るの面倒だから」
そうか、彼女はあの秘密基地に住んでいるのか。確かにここから基地は遠い所にあるし、こんな少女をこの時間に歩かせる訳にもいかない。
「うーん、まぁ今から返す訳にもいかないか……じゃあ、この座布団使っていいから、適当に椅子を並べて……」
椅子を四個程並べ、座布団を敷いた簡易ベットを作る。狭いし固い。お世辞にも寝心地がいいとは言えないけど、何も無いよりはマシだろう。
「じゃ、クローブちゃんはこっちで寝て良いから」
「……田中は?」
「俺は、適当に、座りながらでも寝れるから」
次からは寝袋でも容易しておこうかと思ったが、まぁ、ここに泊まる事なんてそうそう無いだろう。
「……座りながら寝るのは、私も慣れている」
「え?」
「いつも研究机で寝てる。別に私が座って寝ても構わない」
確かに、研究者の彼女ならそういう事もあるだろう。
だが、それでも彼女に横になってもらうべきだと考えた。
「でも、今日はちゃんと横になってくれ」
彼女はこちらをじいっと見てくる。
これは……不満を訴えているのだろうか?
「明日は、クローブちゃんにも仕込みを覚えてもらいたいんだ。だから今日はゆっくり休んでくれ。……慣れない仕事は、大変だと思うから」
実際、明日の予定はハードだ。仕込み、味の研究、メニュー考案。これらに加えて、彼女には経理の仕事もしてもらわないといけない。
俺も、彼女も、まだまだクリアしなければならない課題が、山ほどある。
「……」
しばらく、クローブちゃんはこちらを見つめていた。だが、俺の断固とした気持ちを感じ取ってくれたのか、諦めたように目を伏せ、寝る準備を始めた。
「今日は、言葉に甘える」
それだけ言うと、座布団に横たわり、背を向けて寝てしまった。
それを見て、俺も机に突っ伏して眠る体制に入る。明日は早くから起きて仕込みを始めねば。そう考えながら俺はゆっくりと目をつぶった。