第3話 森林サバイバル開始
見渡す限りの緑。やっと天を仰いだ時に見えたのは朝焼け———何気にこの世界に来てからこうやって朝を迎えるのは初めてだったかもしれん。
こうして見ると綺麗だな。……なんて感想は少しばかりチープかもしれないけど、木々の隙間から差し込んでくる木漏れ日を見たらそう思わされるのも仕方ないんじゃなかろうか。
何せようやく、ようやく……目的地の近くまで辿り着いたのだから‼︎‼︎
ただ———流石に疲れた。何せ一晩中走り続けていたんだ。道中魔物から身を隠したり———想像以上に苦労した。ほんとに……。
とりあえずひと休みしよう。そう考え丁度良さげな岩陰に腰を下ろし、やっと一息つけた。
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現在地と目的地である『城郭都市・エケメネス』は目と鼻の先。さっさと入ってしまえばいいじゃないかと思うだろう。わざわざ危険な森の中で休む必要などないじゃないかと。だけど、それができない訳がある。
現状俺は身元不明の不審者でしかない。
それに対しこの国は、町一つ立ち入るにしても身分証が必要らしく、俺みたいな異世界人にはそんなものはないから入ることができないってわけだ。
これがわざとかどうかはわからないけど、こうして俺は見事に足止めを喰らった。
俺はこっから次の方針を考えなきゃいけないわけだが……あぁ、流石に眠すぎる。とはいえ無防備を晒すわけにもいかないし———というわけでぇ……ワンポイント盗賊スキルー‼︎
イェーイパチパチ!つって、なんか深夜テンション入ってる気がするけど気にせずやっていこう。
———この辺りでいいか。それじゃ———、
「盗賊スキル・罠設置Iっと。えーっと……そうだなぁ……」
目の前に現れたゲームの選択コマンドのようなボード。そこには落とし穴、箱罠、トラバサミその他etcetc……実に十数種類の罠の名前がずらっと並んでいる。
正直俺はどれがどんな罠でどう扱えばいいかとかはわからない。一般人が引っかからないようにだけ配慮しつつ、テキトーに仕掛け置いてと———ん?
魔力探知に反応があった。数は4。大きさ的にゴブリンっぽいかな。それなら———や、れ、る……かな?ちょっと不安だけど。
俺は腰に刺してあるダガーを抜くと、小さく呟く。
「盗賊スキル・忍び歩き」
スキルを発動して気配を消す。そのまま息を殺して奴らが姿を現すのを待った。
瞬間、木々の合間から子供ほどのサイズの化け物が次々出てくる。
緑色の体色、異様に尖った耳や鼻、手にはボロボロのナイフを持っており、よく見るゴブリンのテンプレートみたいな容貌だ。
画面越しじゃ何も感じなかったけど、実際に見るとその不気味すぎる外見に嫌悪感を覚えるぜ。
俺は陵辱モノはNG出してるから詳しくないんだけど、そりゃあゲームの女の子たちもこんなんに襲われたら泣き叫ぶわ。怖いしキショいもん。
だがまあ、逆に殺しやすくて助かりはする。
え?なんでわざわざ殺すかって?いい質問をありがとう。答えは簡単だ。
今俺は死ぬほど腹が減っている。そんな俺の前に、食材がのこのこ姿を見せたらどうなると思う?
……イグザクトリー食卓行きだ。
ゴブリンはあんな見た目をしているが、その肉は結構美味しい。育成施設や王宮でも出されるようなちゃんとした食材なのだ。
どちらかといえば俺が4体のゴブリン相手に勝てるのかってほうが問題。いや、ここでビビってちゃあ何も始まらない。
たとえ命の危険があったとしても、背に腹は変えられないのだ。所詮この世は弱肉強食。生きるか死ぬかは自分次第。故に、その御命頂戴いたす!
……よし、それじゃあ始めようか。奴らの進行方向には俺が仕掛けた罠が一つ。俺はこっそり後ろに回り込んで引っかかるのを待つ。
———ゴブリンに知性はほとんどない。ヒトの知性を10とした場合、ゴブリンはせいぜい1〜2程度だ。
当然盗賊の罠に気づくはずがない。
ゴブリンが獣道に足を踏み入れた瞬間、地面が沈み二メートルほどの穴が空く。
落とし穴だ。もっとも古典的で、俺の中じゃもっとも有用な罠だと思っている。
とはいえハマったのは二匹。残りの二匹は突然の事態に鳴き声を上げながらキョロキョロと辺りを警戒し始めた。
だけど、もう遅い。
俺は木の影から間合いまで接近し、茂みの中から狙いを定める。
「風魔法・ウィンドカッターI!」
ダガーに風を纏わせて、そのまま思い切り振る。すると風が収束していき、鋭い刃へと変わった。
最初こそこの攻撃一つでカッケーと興奮していたわけだが、見慣れてくると———全然カッコいいんだよなぁこれが。……まあ威力はそこそこなんだケド……。はあ、いと悲しけり。
眼前のゴブリンたちは気持ちの悪い喚き声を上げながら風の刃に切り裂かれ、鮮血を飛ばす。
だが絶命には至らない。やっぱり火力が目に見えて足りない。
俺がゴブリンに勝っている要素は少ない。
そもそも盗賊職があんまり実践向きのステータスをしていないんだ。
火力は低いし魔法適性も低い。誇れるのは素早さと手先の器用さぐらいのもの。
多分、ソロで戦うような職業じゃ無いんだろうな。スキルビルドを確認しても罠関係とかデバフをばら撒くみたいな支援、暗殺向きのスキルばかり。
だからこうして不意打ちで殺りにいくのが、最善策かつ俺にできる精一杯だ。
「盗賊スキル・ブラインドI」
デバフスキルで一瞬だけゴブリンたちの視界を奪う。
そうして作り出した混乱を利用して、ゴブリンの内傷の浅い方を狙ってダガーを突き立てた。
王国がくれた品なだけあって切れ味は素晴らしい。刃が上手く急所を裂き、一体仕留めることに成功する。
そのまま二体目も同じ要領で殺しにかかる。
幸い反撃を受けることもなく、なんとか喉元を裂き仕留めることに成功した。
「———ふう。なんとかなった……」
額をぬぐって一仕事終えたぜみたいな空気を出したが、全然仕事は終わってない。それどころか、ここからが本番だ。
俺は穴の中の奴らもしっかりトドメを刺して回収し、先ほどの岩陰へと戻る。
……もう疲れすぎて頭が回らないし、今すぐにでも眠りにつきたいところだが、腹が減っては戦はできぬというし、先ずは腹を満たさねば。
ということでレッツクッキングー‼︎……の前に、下処理をしていく。
なあに任せておけ。こんなこともあろうかと、魔物の捌き方はちゃんと教わっているのだ。
何せこの世界は魔物を倒したからといって都合よく消えたりはしない感じの世界。魔物の処理は義務付けられているし、ちゃんと然るべき形で処理を施さないと疫病とかにも繋がってしまう。
美味しく食べることもできないしね。下処理大事。あ、そうそう。ここからはショッキングな内容が流れるからお子様は今のうちにブラウザバックすることを推奨するぜ!
まずは首のあたりにある頸動脈に切り込みを入れ、逆さにして吊るしておく。
ようは血抜きだ。これをしないと肉の状態が悪くなる。少し時間がかかるし、この間に水を汲んだり罠を張り直したりしておこうか。
血抜きが終わったら次は皮を剥いでいく。
逆さ吊りの状態のまま、手首や内腿に切り込みを入れていって……よし、完璧。
ちなみに腹部は使わない。
ゴブリンの内臓は何食ってるかわからない上毒性があるからね。少し申し訳ないけど破棄しなければならない。あとで穴を掘るとして、とにかく処理を続けよう。
剥ぎ終わった部位を水で洗い、風魔法で乾燥させる。ちゃんと水気が飛んだら、あとは肉を骨に沿って切り分けていくだけだ。
———こうして見ると、ゴブリン一体で思ったより量取れないんだな。
まあ苦労した分美味しいだろうし期待はできるな。
と言ってもここには調理器具なんてない。なるべく大きく食べ応えのありそうなやつを選んで……この棒でいいや。これに刺して……と。よし。
起こしておいた焚き火の元に、串を刺し焼いていく。
一度はやってみたかった焚き火での串焼き。まさかこんな風に叶うとは思わなかったな。……まあ、ゴブリン肉なんだけどね。
———そろそろ焼けただろうか。
ちょっと中を見せてね〜と、うん。ちゃんと火が通っている。素晴らしいネ。
さてと、それじゃあ待ちに待ったぁ……、
「いただきます‼︎」
齧り付いた瞬間、溢れんばかりの肉汁が口内に広がった。不思議と獣臭さとか、そういった類のエグ味もない。若干焦げている部分もあるが、むしろアクセントとして大歓迎。味付けなしでも肉自体のジューシーさと空腹感が最高のスパイスとなって全く気にならない。これはつまり……、
「最っ高に美味いっ‼︎」
心が満たされていく。久々にこんな充足感を感じた気がした。
ああ、満足だ……って、別にこのまま死ぬわけじゃないけど……なんか、久しぶりに飯が美味いと感じられた気がした。
———そっか。やっと、スタートラインに立って、やっとあの息苦しいクソったれ施設から逃げられたんだ。
……なんか、柄になく感傷的になってるのかもしれない。はは、そうだとしたら笑けてくるな。
そうだ。俺は帰らなきゃいけないんだ。———元の世界に。
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森林の奥深く、道無き道に荒い息遣いが響く。
そのさらに後ろでは———禍々《まがまが》しい咆哮が。それを耳にした二つの影は加速する。
今はただ、生き残るため。そのために、彼女達は今いる地点からもっとも近い“城郭都市”を目指して森を駆け抜ける。
そしてその進路は、神影の滞在する地点に———着実に近づいていた。




