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第1話 異世界に召喚されたらしい

 ケモ耳の獣人が行き交い、大きなトカゲに引かれた馬車が路上を走るファンタジーな街並み。中には武器を担いだ人々も。


 今食べているのは魔物まものの肉から作られたステーキに、なんかよくわからない水色の液体。


 中世ヨーロッパ風の美しい夜景は情緒的じょうちょてきで、ここが“異世界”であることを再認識させてくれる。


 少し前の俺ならこんな景色クソ喰らえだなんて思ったりしたかもしれない。

 だが、人は変われる。俺はこの理不尽な世界で、この一人旅を通して変わっているのかもしれない。


 ま、どっちにしろ元の世界に帰る手がかりを探すのには時間がかかるだろうし、せっかくの異世界を楽しむとしようか。

 


——————————



 ———さて、さてと、さて。まずは状況の整理を試みようか。


 俺が見ているのは、確実に見慣れた教室の景色ではない。なんて言ったらいいんだろうか。とりあえず床にはレッドカーペットが敷かれ、天井からはステンドグラスを通して月明かりが照っている。

 西洋の教会風の建物といったらわかりやすいか。

 荘厳そうごんな雰囲気に若干圧倒される。


 俺の周りにはクラスメイトたち、それに担任までいる。みんな動揺を隠せず騒ぎたて、中には泣き出す者もいた。

 まあ、これが普通の反応。

 実際俺も「異世界召喚キター!」って感じじゃなく、普通に怖さが勝っている。

 俺も泣きたいし、帰りたい……。


 というか、家という楽園ユートピアが奪われ、こんな陽キャが大半を占めるようなクラスと、もしかすれば一生共に生活しなきゃいけないなんて無理だ。


 ———いや、まだそうと決まったわけじゃない。

 そうだ。俺はテンプレの如くクラスごと異世界召喚された主人公なんかじゃない。俺が生きてたのは科学技術が発展して、そこそこな人生を歩めるリアルの世界なんだ。

 これはただの夢もしくは集団ヒステリー的なやつで次の瞬間には見慣れたベッドからの景色が広がるに違いない。


 うん、そうだ。きっとそう———ということで頬をつねってみる。———痛い。次、目を擦って、もう一度周囲を———、


 「よくぞお越しくださいました勇者様方。突然のことで混乱しているようですし、ひとまず一から説明させていただきます」


 ———オーケーわかってたさベイビー。

 そうだよな。これが現実だよな。クソ。

 なんてこったい異世界召喚だとさ。馬鹿げてるぜ。


 壇上に立ついかにもという容貌ようぼうの女性が話し始めていたため、そっちに目を向ける。

 多分世界観の説明パート。

 始まった説明は、どこかで聞いたことがあるような、それでいて信じ難いようなものだった。


 まず、ここは日本ではなく『バルティア王国』という王国らしい。

 とにかく日本———それどころか地球ですら無い。つまり異世界。


 それで、俺らは勇者としてそこの銀髪———名をシェリルという女神?の手によってこの世界に召喚されたとのこと。


 なんでもこの世界の人類は魔族というバケモノの侵攻によって滅亡の危機に瀕しているらしく、そんな状況を打開するために俺ら勇者の力が必要だった。以上説明終わり。


 ———なんか、結構ベタな設定だな……。

 俺は詳しいんだ。いつもこんな感じの設定の小説ライトノベルを読んでいるから。

 とすると、これからの展開もなんとなく察しがつくわけで……、


 「待ってください。これはテレビか何かの撮影では無いのですか?もしそうなら早急に帰していただきたい」


 嵐谷あらしたに先生が凛とした声を上げた。俺たち2年3組の担任で、少し不器用ながらも生徒思いのいい先生。だからこそ、こんなふざけたことは許せないだろう。


 そんな嵐谷先生の言葉に呼応するように、次々と「家に帰せ」という声と、「ドッキリだよね」というような会話が飛び出し始めた。


 もう一度言う、俺は詳しいんだ。当然ここまでセオリー。そして、淡い希望はすぐに打ち砕かれるものだということも当然知っている。


 「残念ですが全て現実です。どうしても信じられないと言うのなら空を見上げてみてください」


 言われるがまま見上げると、そこには月があった。———ただやはり、普通の月では無い。


 まずおかしいのは数だ。三つある。

 それと、ステンドグラス越しではっきりしないが、確実に俺らの想像する月の色ではなく、燃え上がるような赤色をしていた。

 確かに俺らの出身地ではお目にかかることなど不可能な光景だ。


 ———やっと、全員が理解した。

 ここが、異世界であることを。


 「———理解いただけたようで何よりです。これより皆様方は勇者として王国の庇護の元、教育を受けていただきます。何卒、よろしくお願いいたします」


 そう告げたシェリルはその場を去ろうとする。


 「待ってください!」


 そんな言葉が聞こえた。


 声の主は倉里真琴くらさとまこと。このクラスの委員長で、生徒会でもある人物。俺とは真逆の人間で交友関係も広い。そして根っからの善人。


 「もし私たちがその魔族を倒して人類を救うことができたら、私たちは元いた世界に帰れるのですか?」

 「———それは不可能です。この魔法はあくまで異世界より勇者となる者たちを“召喚”する魔法であり、帰還のことは考えられていないのです」

 「———そんなッ」


 流石に理不尽すぎる。それに勝手すぎる。そう思ったのは当然俺だけじゃ無い。みんな口々に「ふざけんな」などと罵声を浴びせ始めた。

 だが、当の女神様はどこ吹く風である。


 「受け入れてください。その代わり、待遇は保証いたしますので」


 そう言い切ったシェリルだが、その程度で納得できるはずもない。

 抗議の声が止むこともなく、遂に事が動いた。


 「おいババア!女神だかなんだか知らないがさっきっからふざけたことばかり言いやがってよ!」


 ボクシング部所属のチンピラ、桐山聡きりやまさとしが怒鳴ると、シェリルのいる方に走って行った。

 それを止めようとする人間はいない。


 いつもは鬱陶うっとうしいと感じている人物だが、今は素直に応援したい気持ちが湧いてくる。

 ガンバレ桐山。負けるな桐山。


 俺に応援されていることなどつゆ知らず、桐山は殴ろうとごつごつの岩石のような拳を握った。その瞬間、バキッという音が響く。

 見れば、桐山の身体は床に叩きつけられており、完全に気を失っていた。

 それを行ったのは、見下ろしながら籠手こてを付け直している騎士。


 容赦なく振るわれた暴力に、全員が息を呑んだ。


 「女神様に対する侮辱は、例え勇者であっても許されない。そのことを肝に銘じておけ」


 そう言うと騎士は持ち場に帰って行った。


 一連の出来事は俺たちを震え上がらせるには十分すぎる。

 ……これは逆らえない。そう思わされた。

 次元の違う強さだ。なんせ、現実で人間の残像をあんなにはっきりと見たのは初めてなのだから。


 結局俺たち2年3組は王国の言いなりになるしかなくなったという訳だ。

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