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俺は、妻子を持たないと決めていた。

それなのに、俺は彼女を愛した。


彼女の本当の名は柊結衣(ひいらぎゆい)

俺の本名は黒川一郎(くろかわいちろう)だということを互いに話した。


やがて俺と結衣の間には子供ができ、これ以上ない幸せな時間を過ごした。

しかし、幸せはそう長くは続かなかった。



二年が過ぎた頃。

結衣は歩道橋の下で亡くなった。

そのことをニュースで知り、俺は今まで味わったことないほどの絶望に打ちひしがれた。


その頃の俺は、複数の殺し屋から命を狙われていた。

俺の居場所を突き止めるためなら、連中は家族すら利用する。

だから俺は、誰にも明かさなかった。


結衣のことも、結衣との間にできた双子の父親が自分であることも。

それが、家族を守る唯一の方法だと信じていたからだ。


俺は父親にはなれなかった。

名乗ることも。

抱きしめることも。

成長を見守ることさえ許されなかった。

それでも、子供たちが生きていてくれれば、それでよかった。


結衣と最後に会った日のことは、今でも鮮明に覚えている。

別れ際、双子を身ごもっていた結衣は静かに微笑み、俺の左手を優しく掴んだ。


「しばらく会えなくても、あなたを愛してる。それを忘れないで」


その言葉に、もう嘘はなかった。

人を試すような笑顔も、芝居がかった涙もなかった。

ただ一人の女として、まっすぐ俺を見つめていた。


俺は結衣を愛している。

それは今も変わらず、この先なにがあっても変わることはない。


結衣は逝き、俺は生きている。

自分は父親だと、名前すら名乗れない我が子…。

今はどこで、何をしているのかすら分からない。


数多くの殺し屋に命を狙われている俺が自分の子供に会えば、

その子供は命の危機に晒されることになる。


俺という存在を消すことで子供たちを守れるのなら、俺はあの子たちの父親でなくてもいい。

どうかどこかで幸せに暮らしていてほしい。

俺は今もそう願っている。



結衣が亡くなって十年、俺は結衣が何者かに殺されたと思い、

復讐をする為だけに今まで生きてきた。

俺は警視長の男と共に死に物狂いで情報を集め、ある一人の男に辿りつく。


俺の協力を受け入れた警視長の男が言った。


「この件が終わったら、あんたには全ての罪を償ってもらう。それを忘れるな」


俺は静かに頷き

「わかっている」

と男の方を見る。


真っ直ぐな目をした警視長の男の名は風間瞬(かざましゅん)

他でもない、マンションの元隣人だった。




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