第5話:会議室で始まった、俺の公開処刑。
会議に呼ばれた。今後の経営方針の話だという。厨房の最高責任者であった俺にも声がかかるのは当然だった。
会議室の中央には新社長――俺の弟――がいた。いつもながら、無表情で冷たい顔をしていた。
会議室には、接客部門、メンテナンス部門、経理担当、その他、各部門の責任者が勢揃いしていた。
「――それでは、経営方針会議を始めます」
社長秘書が会議の開催を告げた。
弟は、各部門責任者を次々と詰めていった。どれもこれも、「効率が悪い」「悪習は刷新しろ」という点だった。
さすがは「効率の鬼」である。その指摘は的確で、どの責任者も、しどろもどろになって、まともに対応できている人間は、ほとんどいなかった。
「――では、次に、総料理長」
俺の番がやってきた。
「まず、レストランの利益率が横ばいです。改革が進んでいません。理由を説明してください」
「利益率が横ばい?そりゃ、食材の流通経路を急に変更したり、AIロボットを導入したり、料理人の育成時間が削られたりしてるんだ。その分のオーバーヘッドを考えたら、今期は横ばいでも十分健闘してるぜ?『今の時点の数字』じゃなくて、もっと長期的視野で見てくれないか?」
「つまり、私の刷新が間違ってる、と言いたいのですか?」
新社長が言った。冷たい声だった。
「完全に間違っているとは言わない。だが、この状態が続けば、このホテルの『格式』は、守れないね」
「ほう……それは、私が『間違っている』と言っているに等しいと思うんだが?」
「……社長の刷新の意図は尊重します。ただ、『効率』だけを求めては、解決しない問題もある。逆に『格式』を落とすこともある。そのことを理解していただきたい」
俺は答えた。俺は、俺自身の考えを曲げる気はなかった。
「……わかりました。あなた自身を『刷新する』必要があるみたいですね……」
会議室がどよめいた。新社長に逆らうとどうなるか。それを皆、実感したのだ。
「では、あなたの処遇等については、後ほど連絡しますよ。総料理長」
新社長は、冷たく俺に言い放ったのだった。
次回予告:
職場を追われ、婚約者も去った。
全てを失い、男は、途方にくれる。
男の手に残されたのは、師匠から譲り受けた包丁一本のみだった。




