第4話:婚約者の目から、尊敬が消えた理由。
「何か、疲れているみたいね」俺の部屋で、婚約者は言った。
「……あぁ、『効率』、『効率』、『効率』。口を開けば、そんな言葉ばかりで、疲れているのさ」
俺は思わず、愚痴を吐いた。
「効率がいいは、確かに越したことはない。それはわかる。けれど、効率ばかりを追い求めた結果、大事なものが失われることもある。一度失われると、それを取り戻すのは、並大抵のことじゃない。あいつは、そのことを知らなすぎる。あいつ個人が、これまで『挫折』を経験してないから、わからんのだろうが……」
新社長のやり方は、正直、危うすぎる。俺にはそうとしか見えなかった。
「あら、そうかしら?」
婚約者の口から、意外な言葉が漏れる。
「新社長は、短期間で成果を出しているわ?それは事実でしょう?それが『間違い』と断言できるの?」
俺は戸惑った。彼女が、新社長のやり方を肯定するとは思わなかった。
「……短期的に成果を上げても、長期的に見てマイナスになってしまっては、意味がないだろ」
俺の言葉に、彼女は反論した。
「その『マイナスになる』根拠はあるのかしら?ただ、あなたが新社長の方針についていけないだけじゃないの?」
俺は手にしていたウイスキーのロックを口に含んだ。
「新社長の経営方針は理解しているの?あなた?」婚約者の声は冷たかった。
「いつまでも『古臭い』手法にこだわっていたら、新しい人はついていけなくなるんじゃないかしら?」
「『古臭い』から『悪い手法だ』とは限らない。また、俺たち料理人は、『どのように食材が作られているか』を知らないと、いい仕事はできない」俺は、ホテルの料理人に伝えた言葉を、繰り返した。
「その考え方自体が、すでに『古臭い』んじゃないかしら?」
婚約者の言葉に、俺は驚くのだった。
「結果的に、『美味しい料理』がお客様に提供できるのなら、その過程はこだわらなくていいんじゃないの?」
俺は、言葉を失った。
俺の料理を「美味しい」と笑顔で言ってくれた婚約者の姿は、もう、そこにはなかった。
次回予告:
「君の方針は、今のホテルの方向性とは違う」経営陣に詰められる俺。
俺を擁護する経営陣は一人もいなかった。
新社長が俺に告げた言葉とは――




