第3話:効率こそ正義――そう言い放った弟が現れた日。
季節が巡った。株主総会の季節になった。
風の噂では聞いていたが、株主総会において、俺のホテルの社長の交代が決定した。
新社長は……なんと、俺の弟だった。
俺は、今日、この日まで、弟が新社長になることを知らされていなかった。あいつは、なぜ黙っていたのだ。それとも、あえて、俺には告げなかったのか。
新社長が弟である現実。正直、恐怖しかなかった。俺は、あの弟の性格を熟知していたからだ。
「効率の鬼」。
一言で弟を表現するなら、その言葉が最も正確だった。むしろ、それ以外の言葉が見つからないくらいだった。あいつは、非効率な事柄をとことん嫌う。徹底的に排除する。それが「正義」だと信じて疑わない。たとえ人間関係が壊れようとも、「効率」を最優先する。それが、あの弟だった。
新社長の就任挨拶が始まった。「効率の鬼」らしく、余計なことは一切言わなかった。
「経営の効率を上げ、SNS等で宣伝し、このホテルの稼働率・収益を、今の2倍にする。それが、この私に課せられた使命です。みなさん、ご協力のほど、よろしくお願いいたします」
テレビの向こうの就任会見会場は、新社長の言葉に拍手で溢れ返っていた。この不況を打破する気概を、新社長は具体的な言葉で宣言したからだった。
しかし、新社長の言葉を聞き、俺はこう思った。
「料理に、効率もSNS映えも関係ない。俺は、このホテルの『格式』を守るために、それに相応しい料理を作るだけだ」と。
今までそうやって、俺は、このホテルの厨房を支えてきた。それだけの自負があったのだ。
新社長の改革が始まった。それは「厨房」も例外ではなかった。
まず、食材発注の適正化を行なった。結果、食材ロスが減った。
下拵え済みの食材を導入することで、提供スピードが上がった。料理人の手間が減った。
インフルエンサーを使い、SNSで話題を提供することで、ホテルのレストランの予約が増えた。
予約が増えたことに反して、効率が上がったため、若手スタッフが「楽になった」と喜んだ。
その光景を見て、一瞬だけ、俺は言葉を失った。
実際、売り上げは上がった。料理人たちの待遇も良くなった。給料も上がった。
だが。
素材の見極めもできず、包丁も研げず、味にこだわりを持たない。それで、本当に「料理人」と呼べるのか。
俺には、どうしてもそうは思えなかった。
このままでは、このホテルの「格式」が崩れる。俺は危機感を持ったのだった。
厨房の料理人たちも、皆、そう思っている。と、俺は思っていた。
次回予告:
俺を見る婚約者の目が、どこか冷たくなった。
「その料理、今の時代に合ってる?」
その一言が、静かに俺の胸を削っていく。




