表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

第2話:超一流ホテルの厨房で、俺は15年包丁を握っていた。

師匠――先代の総料理長――に誘われ、このホテルの料理人になって15年になる。

師匠との修行は、厳しかった。厳しかったが、確実に自分の腕が上がっていることも実感できた。腕が上がることを実感するたびに、師匠への尊敬の念は強くなった。

師匠が引退した後、師匠から受け継いだ腕で、俺は、このホテルの総料理長になっていた。

今の俺は、厨房で料理人を怒鳴りつけることも厭わない。手を抜いた料理をお客様に提供することは、このホテルの格式に関わることだからだ。

師匠に約束したのだ。「このホテルの格式を守り続ける」と。

その意識の足りない料理人は、容赦無く怒鳴りつけていた。気を抜いた仕事でこなせるほど、このホテルの厨房は優しくはない。俺はそう思っていた。


ある日。一人の料理人が遅くまで厨房に残っていた。

そいつは、正直、不器用な料理人だった。どうして料理人を目指したのかわからないほどに。ただ、厨房の中では、誰よりも真面目で真剣だった。新米がやるような作業も自ら進んで黙々とこなす。そんな奴だった。

「……どこが、わからないんだい?」俺は、そいつに声をかけた。

「総料理長!」そいつが驚いた声を上げる。

「……いえ……総料理長のお手を煩わせることじゃないです……」消え入るような声でそいつは答えた。

「いいから、言ってみな」俺は問いかける。

ふと見ると、まな板の上に、一尾の魚が乗っていた。

「三枚おろしか……まぁ、基礎中の基礎だな」

「……すいません。基礎ができてなくて……」

「基礎からやり直し?結構なことじゃないか」俺は告げた。

「『目で見て盗め』だけじゃ人は育たない。きちんと『基礎から教える』のもまた修行だ。って、俺の師匠はよく言ってたもんさ」

そう言って、俺は、そいつに「魚の三枚おろし」の基礎を、改めて教えたのだった。

翌日から、来る日も来る日も、そいつとの修行は続いた。俺も、そいつに教えることで、自分が「手癖」としていた部分を見直すことができた。

そうやって育ったのが、今の副料理長だった。


しかし、当時の経営陣の判断はこうだった。

「一人一人に修行なんてしてる暇はない」

「育成なんて時間の無駄だ」

「とにかく数を回せ」

それらの声に対して、俺はこう跳ね返していた。

「修行を、料理の基礎を疎かにして、このホテルの料理の『格式』が守れるわけねぇだろ!」

俺の言葉に、副料理長も頷いていた。

二人で、このホテルの格式を守っていく。そう思っていた。そう思っていたのだった。


次回予告:

ホテルの新社長。それは、俺の弟だった。

「効率の鬼」である弟が、ホテル経営の刷新を試みる。その対象は、ホテルの厨房も例外ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ