第12話:一口食べた男が、言葉を失った理由。
俺は、今日仕入れたプリプリの新鮮な鱈の白子を、塩水につけ、丁寧に筋やぬめりを洗い流した。
沸かしておいたお湯に、ふたつまみ塩を入れ、白子を湯通しする。
日本酒とポン酢を和え、紅葉おろしを上に乗せた。
緊張した。果たして、客は気に入ってくれるだろうか。
「お客様、今日のおすすめはこちらになります」
俺は、料理を客に出した。
「……白子ポン酢か。季節だものねぇ。それじゃ、いただくよ……」
俺の白子ポン酢を客は一口食べた。その顔が驚きの表情に変わる。
「……なんだ、これ……」
そう言って、客は日本酒をあおった。
「……美味いねぇ。オヤジさんにも負けてないよ、この味は。少なくとも屋台で出すレベルじゃない」
そうして、客は、またひとつまみ、白子ポン酢を口に運んだ。
追いかけるように、日本酒を飲む。
客の表情は、満足げだった。
「いやいや、どうしてこうして。さすが、あのオヤジさんに任されるだけのことはあったね。美味しかったよ」
客は上機嫌だった。俺は、心の底から安堵した。
「それじゃ、また来るよ。次は、別の美味しい肴を期待してるよ」
そう言って、俺の初めての屋台の客は、店を後にした。
「今後とも、どうぞご贔屓に」
俺は、帰りゆく客の背中へ向けて、頭を下げたのだった。
次回予告:
過去の肩書きは、もう通用しない。
それでも、包丁の腕だけは裏切らなかった。




