第11話:最初の客は、ただの酔っ払いだった。
昨日も、一昨日も、客足はなかった。
今日もないものだと思っていた。
路地裏の屋台。大通りは人通りは多いが、この路地裏にまで入ってくる人間は多くない。一見さんなら尚更な立地である。
今日は、早めに屋台を畳もうか。そんなことを思っていた時。
「邪魔するよ」という言葉と共に、暖簾が上がった。
「いらっしゃいませ」俺は客に声をかける。
「ん?あれ?オヤジさんは?」今日の客も、これまでの客と同じ言葉を俺に投げかけた。多少、酔っているようだった。ここは二軒目か、それとも締めの一杯か。
「……お休みでして。今日は私に任せられてます」
俺の言葉で、この客も、また帰るのだろう。そう思っていた。
「そっかー、じゃあ、『いつもの』って言っても通じないか……」
そうして、客は、腰をかけた。
「じゃあ、あんたの得意料理を頼むよ。あのオヤジさんに『任された』ってことは、腕は確かなんだろ?」
俺は驚きを隠せなかった。初めての客の言葉だった。
「わかりました!では、お飲み物は如何しましょう?」
「それも任せるよ。料理に合った酒を出してくれ」
「ご注文、承りました!」
俺の声は、明らかに弾んでいた。
「そんな、堅苦しい言い方はやめてくれ。『はいよ、お酒一丁』くらいでいいんだよ、ここでは」
俺の言動を見て、客は笑うのだった。
俺は、早速、料理に取り掛かるのだった。
次回予告:
「美味い」の一言が、これほど重いとは思わなかった。
屋台料理人としての、最初の試練が始まる。




