新居探しと移動の理由
あれは10月まで遡る。
吉野兄弟から移動先の集会に来ないかと言われ、週末の集まりに参加した。その集会ではその日は巡回訪問の最終日だった。それで吉野兄弟もその集まりにいた。
集まりが終わり、多くの人がまだ集会場に残っている時に吉野兄弟は僕を指差してこう言った。
「清原兄弟、兄弟のパートナーです。」
誤解なきよう説明するが、この宗教では同性の開拓者が一緒に住んで家賃を節約することがある。これをパートナー生活と呼んでいる。断じてカップルのことではない。単にルームシェアと言えばよいのだが、一緒に住むだけでなく協力して集会の役に立ってほしいという願いを込めてパートナー生活と呼ばれている。
吉野兄弟の唐突で強引な発言で僕と清原兄弟はパートナー生活をすることになった。
後で知ったのだが、清原兄弟は9月からこの集会に移動しているが、実家から通っている。実家は隣の集会の区域にある。新聞配達をしながら開拓者である彼の収入は低く、この集会の区域内で家を借りることが困難だったのだ。
清原兄弟の移動にも吉野兄弟が関与していた。それで集会の区域内で家を借りることができない清原兄弟を不憫に思い、僕を推薦したのだった。来年の9月を待たずに1月からの移動ということにもそれで合点がいく。
それから僕は、集まり、集会での仕事、伝道活動の合間を縫って清原兄弟と一緒に引っ越し先の家を探した。清原兄弟は僕より2つ上なのだが、不動産屋との交渉はすべて僕に任せるのであった。この宗教の人以外の人と話す自信があまりないらしい。清原兄弟が負担できる金額は月3万円までとのことだった。それで僕の負担分と合わせると合計家賃6万円までで探さなくてはならない。6万円で2K以上となると中々難しい。しかも、振分間取りだとさらに難しい。やはり直間は避けたいところだ。彼は新聞配達をしているので朝2時半には起きる。しかも彼は体が火照るからという理由で窓付きの部屋を希望していた。火照るのと窓の関係性は良く分からないが、本人がそういうのだから仕方がない。でもそうすると、直間の場合、2時半には必ず彼が部屋で寝ている僕のそばを通り抜けることになる。
僕たちは限られた予算で快適な生活ができるよう、必死に探した。家賃6万円で2部屋以上、しかも振分となると僕たちが回った有名な不動産屋にはなかった。集会の兄弟姉妹たちにも探してもらったが、家賃は8万円が相場のようだ。それで個人でやっているような小さな不動産屋も回った。ついにその町で最後の不動産屋になった。その不動産屋はみすぼらしかった。
その不動産屋では築40年のマンションの1階を紹介された。分譲住宅なのだが、家主が広島におり、その部屋を貸しに出しているとのことだった。その部屋は3Kで4畳半の部屋が2つ、6畳の部屋が1つ、外には物置があった。4畳半の部屋は北側と南側にあり、両方の部屋に窓があった。しかも4畳半の2つの部屋、6畳の部屋それぞれ互いの部屋を通らずに自分の部屋に入ることができた。風呂とトイレも別で風呂はシャワーがなく、追い炊きをする古いタイプのお風呂だった。それでも好条件に思えた。しかし、家賃が問題だった。家賃は6万5千円、5千円オーバーしているのだ。しかし選択肢はほかにない。それでこの部屋に決めた。僕が物置を使うことで予算オーバーの5千円を負担することにしたのだ。
「すいませんが。」
不動産屋の主人が僕に言った。
「何度も確認してすいません。本当に大丈夫ですよね。」
不動産屋の主人が心配しているのは僕と清原兄弟がカップルではないか、ということだった。断じてそれはない。
「こうして何度も確認するのは、前にあったんですよ。」
主人は続けた。前に契約したのは親子ほど歳が離れている男性二人だったそうだ。僕たちと同じルームシェアということだったので了承したが、契約のあと二人が恋人同士だったことが分かったという。色々な愛の形があるのでそれを他人がとやかく言うことではないが、家主の意向で避けるように言われていたらしい。今、僕たちが契約しようとしている部屋についても家主の意向でそういう人なら断ってほしいとのことなので何度も確認しているということだった。
「大丈夫です。本当に彼とは何もありません。家賃を安くするためのルームシェアですからご安心ください。」
僕は言った。しかし僕たちも隠していることがある。厳密に言うと、聞かれたら話すが聞かれないなら言わない、というものである。それはこの部屋を宗教活動に使用することがあるかもしれない、ということである。たまに数名の集まりを開くかもしれないし、伝道活動の休憩場所として使うかもしれない。しかしそれを言うと相手はどう感じるだろうか。この宗教は知名度があると言えばあるが、十分周知されているとも言えない微妙な立ち位置だ。悪いことは決してしないが何か誤解されれば契約してもらえない。それでこちらからはあえて言わないのだ。
敷金40万円、二人で20万ずつ出し合い、契約書にサインした。
こうして僕は1月から必要の大きな集会への移動をすることになった。




