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親友

 寒い12月が来た。


 毎年冬は嫌いだ。伝道活動が寒さ故、厚着になって動きにくいとか、朝布団から出たくないとか、自炊するのが億劫だとか、そういうのではない。一人暮らしの僕にとって冬は孤独を強く感じる季節だ。


 どう表現したらよいのだろう。日が落ちるのが早くなり、暗く寒い冬は3LDKの部屋が果てしなく続く闇のように思えるときがある。独り言を言っても何も返ってこず、ただ暗く、そして寒い。


 今いる集会の若者は僕のような外から来た人間ではなく、同じ集会で育ってきた幼馴染と好んで遊ぶ人が多い。1年ほど前までは積極的で人をもてなす独身の若い長老がいて、よく食事招待や遊ぶ機会を設けてくれた。そのころは冬についてそこまで嫌いではなかった。それから近隣の6つの集会が5つに再編されたのだが、その時その長老は隣の集会に行ってしまった。ちーちゃんと僕、その他数名は他の集会の人たちと一緒になって今の集会を構成している。今は、一緒に遊ぶ人も少なく、今年は特に寂しい冬を越そうとしている。


 それで、隣の集会のある兄弟にメールをしてみた。歳は5つ下なのだが、とても快活で、話しているととても楽しかった。彼は1年ほど前に職場の転勤で隣の集会に来たらしい。普通に週5日働いていて開拓者ではなかった。彼からメールが返ってきた。それからボクたちはラーメンを食べに行った。冬の夜、外で友達と食べるラーメンほどうまいものはない。ボクたちはその日を境に友達になった。


 彼と知り合ったのは7月下旬で、いくつかの集会が集まって花火大会が行われた。その時、彼は色んな兄弟姉妹に話しかけ、子どもたちと一緒に遊んだりしていた。それで声をかけたのだが、歳が5つも下なのには驚いた。本当に彼はしっかりしていた。


 彼とはラーメンの件からすぐに意気投合し、週のうち3日はどちらかの家にいるようになった。彼も一人暮らしだった。一緒にいるときは彼が好きな音楽を一緒に聞き、よく一緒に歌った。あるとき、彼は言った。

 「もっと、おしゃれにした方がいいよ。」

 彼は服装に気を付けていた。僕はというと、この宗教の伝道活動を中心とした生活に重きを置いており、服装は整っていればそれでよいと思っていた。

 「前田君がそう言うなら僕も服を買うよ。」

 それで次の日曜、彼と一緒に大阪まででて、ブランド物の服を買いに行った。僕は開拓者の中では収入がある方だったが、それでもあまり高い服は買えない。しかし彼は安くなっているものが売っている場所も良く知っていて、そのおかげで僕もまあまあ上手に服を選ぶことができた。


 それから彼は僕をスノーボードに呼んでくれた。それで僕はインターネットオークションを使ってスノーボードとウェアを安くで揃えた。型落ち品かつ処分品を探すと未使用品が格安で手に入るものだ。前田君が呼んでくれたスノーボードの会は彼がいる集会で企画されたものだった。それで隣の集会の若者とも仲良くなり、たくさん遊んだ。結果、今までの冬で一番充実していた。


 恋の話しもした。前田君は僕がいる集会の一人の姉妹のことが好きだった。彼女は前田君より4つほど年下だったが、とてもまじめで、開拓者だった。前田君は近隣の集会が再編成される少し前に引っ越してきて、その姉妹と知り合ったらしい。僕の前で照れながら彼女のことを話す前田君は本当に可愛かった。それで、僕は何度か彼女と前田君に話す機会が訪れるよう食事招待や遊びを計画した。だけど、決まってそういう時、彼は消極的になってしまうのだった。内心、自分が開拓者でないことを気にしていたのかもしれない。


 楽しい冬が終わり、春が来た。前田君は仕事の関係で関東に引っ越すことになった。僕は寂しかったが、自分にできる精いっぱいのことをしようと思った。彼女との関係がよくなるよう、最善を尽くした。


 彼が引っ越す前日、僕たちはほとんどすべてが段ボールに詰められた彼の部屋で別れを惜しんでいた。明日は僕が仕事なので彼を見送ることはできない。結局、夜まで一緒に歌い、そして寝てしまった。午前6時、僕たちは起きた。前田君が言った。

 「そうそう、あの子から手紙をもらったんだ。」

 前田君は彼女のことを名前で呼ぶのが恥ずかしいらしくあの子と言う。

 「どんな手紙?」

 僕は嬉しくなって彼の首を絞めながら聞いた。

 「待って、待って、言うから。」

 と言って彼は手紙の内容を教えてくれた。

 内容はいたって普通で、特別な感情があるとも取れないことはないが、今までのお礼と取った方が良いと思えるものだった。

 「告白したの?」

 それでも僕は彼に聞いた。

 「いいや、いいんだ。あの子には幸せになってほしいから。」

 少し寂しそうに彼は言った。

 「前田君と一緒になった方が幸せになるに決まっているだろう。」

 僕はまた前田君の首を絞めた。今度は前田君も僕の首を絞めた。


 午前7時半。これ以上いると会社に遅刻してしまう。僕は後ろ髪をひかれる思いで、前田君のマンションを後にした。

 彼と一緒にいた数か月は本当に楽しかった。

 その時は朝日も彼の今後を祝福しているように思えた。

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