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冗談じゃない

遅れました。すみません

 「団長、さすがにその冗談は面白くないっすわ」

 

 「おやじギャグにもほどがありますよ」

 

 「時と場所を弁えてください」

 

 団員からの怒涛の攻撃もとい口撃を受け、団長はあわあわしている。その光景はまるで、つまらない冗談を言ったおじいちゃんが孫たちに責められているようだ。

 

 これがいつもの王宮魔術師団のノリなのかどうか、俺には判断がつかない。俺としては、これがいつものノリであり、先の団長の言葉が冗談であることを望むのだが、果たして――

 

 「すまん。いつも冗談ばかりだから信じにくいかもしれんが、今回ばかりは本当なんじゃ。五つ持ってきたはずなのに、ポケットに三つしかないんじゃよ」

 

 団長の謝罪に、団員たちの口撃が止んだ。そりゃそうだろう。いつものように冗談だと思っていたら、こういうときに限って冗談ではなかったのだから。

 

 あまりの衝撃からか、四人の団員とシルヴィエは完全に言葉を失っている。団長も口を真一文字に結び、神妙な表情だ。辺りが暗いせいもあって、みんなが余計に落ち込んで見えた。

 

 しかし、俺には疑問がある。封印をするのに、そんなに多くの封印具が必要なのだろうか。呪龍の封印具は一つだけだったし、三つあっても余るくらいなんじゃなかろうかと。

 

 重すぎる空気を打ち壊すためにも、ここは俺が建設的な議論を持ち掛けよう。

 

 「封印具が三つもあれば、十分なんじゃないですか?」

 

 「君は……ああ、シルヴィエさんの兄さんか。ここでの、と言ってももう砦はないわけじゃが、これまでの活躍ぶりは聞いておるよ。こうしてワシに慰めの言葉をかけてくれるなんて、優しいんじゃのう」

 

 「いえ、慰めというわけでは……」

 

 慰めの言葉をかけたつもりはない。俺は本気で封印具なんて一つで十分だと思っていて、それを表明しただけだ。だが、周りの様子を見るに、俺は見当違いなことを言ってしまったのだろう。

 

 どう弁明したものか。そう俺が悩んでいると、シルヴィエが俺と団長の間に立って言った。

 

 「お兄様のおっしゃる通りです。今のは慰めの言葉ではありません」

 

 「どういうことじゃ? 三つの封印具では、さすがにあれだけの魔力を放つ水竜を封印するのは厳しいのはわかりきっておるはずじゃが」

 

 「確かに厳しいでしょう。ですが、そんなことをお兄様が承知していないはずがありません。それでも、お兄様は封印が可能だとおっしゃっているのです。ですよね、お兄様?」

 

 「え、いや――」

 

 「なんと、そんなことが!」

 

 ものすごい勘違いをされているような気がする。というか、実際にされている。

 

 俺はもちろん、敵の魔力に応じて必要になる封印具の数が多くなるなんて知らなかった。俺の知識の元となった本には、封印具というものがあります程度のことしか書いてなかったからだ。

 

 俺が内心で焦っているうちにも、シルヴィエと団長の話合いは続く。

 

 「理論的には、三つの封印具に収まる程度に水竜へダメージを与えればいいということになります」

 

 「理論の上ではそうかもしれんがのう……」

 

 「理論上可能なら、それを実証してこそ魔術師でしょう」

 

 「確かにそうじゃな。若い衆に魔術師とは何たるかを説かれてしまうとは、ワシもまだまだじゃ」

 

 「私のような学生と、王宮魔術師団団長では背負っているものが違いましょう。ただそれだけの話だと思います」

 

 声をかけるタイミングを逃し続けた結果、二人の話は何となくまとまってしまった。俺の知識不足による勘違いが生んだこの状況。俺の勘違いでしたと釈明するには、いささか話が進みすぎてしまったようだ。

 

 話を聞く限りでは、水竜にダメージを与えるとか言っていた気がする。そんなこと、本当にできるのだろうか。足止めとして使えたのが雷魔法だけだと言っていたから、ダメージを与えられるのも雷魔法だけだろう。

 

 しかし、そうなれば雷魔法を使えるシルヴィエが水竜と戦う羽目になる。もともとは封印具を運搬して、水竜を封印するだけのはずだったのに、それに余計な仕事が加わってしまう。しかも、とびきり危険な仕事が。

 

 妹をそんな危険な地に送ってもいいものだろうか。いや、シルヴィエなら俺が止めようとも、自ら赴くだろうな。そうなってしまえば、俺が止める権利はない。

 

 「……様、お兄様。聞いておられますか?」

 

 「え、ああ、聞いてるよ」

 

 シルヴィエからの問いかけに答える。本当は聞いてないけど、話なんてどうとでも合わせられる。人の話を聞かない歴二〇余年の俺を舐めるんじゃない。

 

 「では、作戦にご協力いただけるということでよろしいですか?」

 

 どんな作戦かは聞いていないが、俺にできることなんて限られている。それに、妹が危険な仕事をやる以上、俺も多少の危険を冒しておかないと、兄としての沽券に関わる。

 

 そうなれば、答えは一つしかない。

 

 「もちろんさ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「おお、心強いのう!」

 

 シルヴィエと団長から感謝の言葉。そんなに感謝されるとプレッシャーなんだが、そこまでの仕事じゃないだろうし、気にしないことにしよう。

 

 それにしても、と団長が俺の肩に手をかけてきた。

 

 「あんたは勇敢じゃなあ」

 

 「それほどでもありませんよ」

 

 「いやいや、水竜の口に飛び込んでいくなんて、誰にでもできることじゃないぞ。ワシ、絶対やりたくないもん」

 

 「は?」

 

 今、この人は何て言ったんだ? 水竜の口に飛び込むって聞こえたような気がするけど、聞き間違いだよね? しかも、まるで俺が飛び込むかのような口ぶりだったような――

 

 「お兄様は以前にも、呪龍の口内に入ったことがありますからね。きっと、この作戦は成功します」

 

 聞き間違いじゃなかった。

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