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追跡開始

 水竜の封印作戦。立案者は俺なのに、俺の仕事はほとんどない。この期に及んでまでサボっているというわけではなく、飛竜に一人で乗れない俺にはそもそもできることがほとんどないのだ。

 

 作戦では、最初にソーン砦突破後の水竜の進路を確認することになっている。これに関しては、もうすでに明らかになっている通り、やつは直進を続けている。つまり、狙いは古代竜人族の遺跡だというわけだ。

 

 それがわかったところで、しばらくは待機が続く。もし進路が変わるようならば、ここにいる飛竜部隊の面々が足止めに入る手筈だったのだが、そうならなくてよかった。

 

 待機を続けるのは、水竜が南の地平線に消える直前まで。それだけの距離を取って、水竜の追跡を開始する。その後も、距離はずっとギリギリ見えるほどを保つ。距離が詰まりすぎれば、一時的に停止して、水竜との距離を空ける。

 

 もちろん、これは安全策ということでもある。しかし第一義は、飛竜が低速で飛び続けるのが苦手であるという点を考慮したものだ。それを知らなかった俺は、最初にこの作戦を提案したときに部隊全員から難色を示されてしまった。


 それゆえ、今のように水竜をわざと見送って、距離を空けることをしているのだが――

 

 「やっぱデカいと動きはノロくなるもんなのか? 目の前に敵がいるのに動けねえってのは飽きてきちまった」


 一番強く難色を示していたフレイは、さっきからこんな感じで文句を垂れている。さすがの俺も、繰り返されるフレイの理不尽な文句を流すことはできなかった。


 「こちらが敵だと思っていても、あちらはこちらを敵だなんて認識していないでしょうね」


 「チッ。余計に腹が立つようなことを言うんじゃねえ」


 「じゃあ、そっちも決まった作戦に文句を言わないでくださいよ」


 最後にもう一度舌打ちをされたが、それきりフレイは黙った。立場が上の者に言い過ぎたかと思いもしたが、そんなに小さなことを気にするような人物ではないと思い直した。というか、そう思いたい。


 フレイとの言い合いから一時間弱。ようやくあの巨体が地平線に消えようかというところまで進んだ。「もういいか?」と言わんばかりの顔で、フレイが振り返ってくる。


 そんな顔に苦笑しながら頷くと、胡坐をかいていたフレイは立ち上がった。


 「よし、追跡は私が一番手だ。――行ってくる!」


 「ご武運を」

 

 「フレイ、気をつけてくださいね」

 

 俺やシルヴィエ以外からも激励の言葉を受け取り、フレイは飛び立った。高速で俺たちのもとを離れて行く。が、以前のように強風に襲われることはない。シルヴィエが風魔法で守ってくれているからだ。

 

 そんなこんなで開始された水竜の追跡。何を目的としているかと言えば、封印具を届ける場所をすぐに伝えられるようにするため、急な進路変更があったときに報告・足止めするための二点である。

 

 追跡係との連絡に使われるのは、お馴染みになりつつある《双子の手帳》。俺のものはアネモネのところにあるため、連絡方法について悩んでいたとき、シルヴィエから差し出された。フレイのものと対になっているらしい。二人がそこまでの仲だったとは、少し驚いた。二人とも銀髪に碧眼という容姿が共通していることが、仲を近づけることに貢献したのだろうか。

 

 「さて、私たちはまた暇になりますね」

 

 「暇と言えば暇だけど、予定外の出来事が起こる可能性もある。油断しないで待っていよう」

 

 ――と警戒態勢で二時間。予想外の出来事など全く起きず、『直進継続』の連絡があって以降、フレイからは何の連絡もない。作戦は順調も順調なわけだ。

 

 しかし、あまりに順調すぎてつまらない。俺は元来、スリルを求めるようなタチではない。そうでなければ、こんな辺境に異動するために心血を注ぐわけがない。

 

 そんな俺でも、今は暇だと感じるくらいには暇だ。もしかすると、激務続きで暇に対する耐性が下がったのかもしれない。暇を暇のまま過ごすほど贅沢なことはないから、暇に耐性がなくなるというのは厄介なことだ。

 

 そうして待機を続けて、もう日が暮れ始めようかというころ。一人の魔術師が立ち上がった。次の追跡係であるゴルドンだ。作戦変更前、水竜の足止めに向かった四人のうちのただ一人の生き残りである。

 

 夕日を浴びて逆光になってはいるものの、美丈夫であることがわかる。微笑みを浮かべながら、出発の意志を告げた。

 

 「そろそろ行こうと思います。低速飛行を長時間続けるには、フレイ副団長では忍耐力が足りないと思いますので」

 

 「本人にそう伝えておこう」

 

 俺が《双子の手帳》を取り出しながら言うと、慌てた様子で手をバタバタさせて、前言を撤回した。

 

 「う、嘘です、嘘! 冗談でもそんなことはやめてください! 任務に支障を来たします!」

 

 「書いた俺が怒られそうだから書かないよ」

 

 「そ、そうですか。安心しました。――気を取り直して、行って参ります」

 

 「おう、気をつけてくれ」

 

 それだけ言って、ゴルドンを送り出した。フレイの出発からは五時間ほど経っている。が、飛竜が全力で飛べば一時間とかからない距離だ。フレイと飛竜はそこで休憩を取った後、ゴルドンを追いかけて交代する手筈になっている。もちろん、交代時には《双子の手帳》も受け渡される。

 

 この方法では二人と二体の飛竜に負担がかかり過ぎるが、水竜の進路が確定しておらず、あらかじめ交代位置を決められなかったため、致し方ないだろう。しかも、雷魔法の使えない他の魔術師では、万が一の場合に危険が大きい。ここに留まっている魔術師の中で、シルヴィエは雷魔法が使えるが、最後に封印具を届ける係となっている。

 

 ここまではあまりに順調すぎて、拍子抜けなほどだ。このまま上手く行ってくれればいいものなんだが。


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