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プライド

 俺の真横で交わされるシルヴィエとフェイロンの会話に耳を澄ます。余計な口を挟むと、話の内容がわかってしまうことがバレてしまう恐れもあるため、今はとにかく黙って聞く時間だ。

 

 そうしてしばらく盗み聞きを続け、何とか話の大筋は掴むことができた。フェイロンの考えでは、水竜はソーン砦を越え、さらに南へ直進し、古代竜人族の遺跡を目指しているのだという。遺跡は全ての竜の起源とされており、神仙国の言い伝えでは、傷ついた竜はそこで幾星霜の眠りに就くのだとか。

 

 「だけど、そんな睡眠のために砦が壊さるのは納得いかないな」


 二人の議論が落ち着いたため、俺は久しぶりに発言の機会を得た。と言っても、何か建設的なことは言えず、子供じみた感想しか出てこなかった。


 ただの感想にも、シルヴィエは律儀に反応してくれる。


 「それには同感ですね。でも、なぜ急に眠り就く必要が出たのでしょう?」


 「それは俺もわからん。――ただ、発される魔気の強さからは弱っているようにも思えない。何か別の理由があるのかもな」


 「別の理由ですか……」


 フェイロンの言葉を受け、シルヴィエは考え込み始めた。その小さな頭の中で、いったいどれほど膨大な思考がなされているのか。シルヴィエより大きな頭を持っているのに、俺には想像もつかない。


 口元に手を当て、目を細めるシルヴィエ。ここが紙で溢れた副長官室でなければ、画家でも呼んで、絵を描かせたいくらいだ。

 

 一分ほど静寂の時間が続いた後、シルヴィエが急に声を上げた。

 

 「もしかすると、過剰に集まった魔力で苦しんでいるのかもしれません」

 

 「過剰に集まった魔力?」

 

 「そうです。私がフェイロンさんから魔纏を教わったとき、練魔で魔力を高めようとすると、集まりすぎた魔力が弾けましたよね? あれは、魔力が大きくなればなるほど制御しづらいからなんですよね」

 

 「ああ、バチッとなってたやつか」

 

 シルヴィエに言われて、あのときのことを思い起こす。練魔でずっと苦戦していて、青のような紫のような閃光が弾けるような光景を何度も見た。

 

 「そうです。それを限界まで高めて、上手く調節してあげると雷魔法になるんですけどって、今は関係ないですね。何が言いたいかというと、制御が困難なほど大きな魔力が水竜に集まってしまって、それを発散する術がない状態なんじゃないでしょうか」

 

 「それで水竜は苦しんでいると」

 

 「かなり大胆な仮説ですけどね」

 

 「いや、その仮説なら、急に巨大な魔力を感じるようになったことにも説明がつく。説明がつかないことと言えば、なんでそうなったかだけだな。――ありがとう、シルヴィエ。有意義な時間になったよ。引き続き、魔法陣の作成をよろしくな」

 

 「はい!」

 

 シルヴィエの朗らかな返事に少しばかりの元気をもらい、俺とフェイロンは部屋を後にした。

 

 俺たち二人は特に行く当てもなく、砦の上へと登った。日はすでに沈みかかっており、砦の前に広がる平原は、すでに夜と同じくらい視界が悪い。

 

 平原に背を向け、西の地平線へと消えゆく太陽を見届ける。どんどんと光量が減っていく様は、窮地に追いやられている俺たちと重なる気がした。柄にもなく、感傷的になっている。

 

 そんな俺の気分を察知したわけでもあるまいが、フェイロンが口を開いた。

 

 「お前としては好都合だったんじゃないか?」

 

 「どういうことだ?」

 

 「さっきの仮説が正しければ、この砦を放棄しても住民に危害が及ぶ可能性は低い。つまり、お前が責任の名のもとに死ぬ必要はないということだ」

 

 ときどき、フェイロンは小難しい言い回しをする。何か意図があるのか、それとも単にロウマンド語に不慣れなのかはわからないが、できれば簡単な言い回しをしてほしい。

 

 「お前が言いたいのは、逃げたければ逃げても大丈夫ってことか?」

 

 「その通りだ」

 

 俺の解釈は正しかったらしい。だが、その理屈だと――

 

 「フェイロンにはそもそも責任なんてないんだから、いつでも逃げられるだろ? なんで逃げないんだ?」

 

 「ふん。戦う前から逃げ出すなど、俺のプライドが許さないだけだ。――まあ、どうにもならないなら命を優先するがな」

 

 プライドか。基本的に、俺にプライドなどない。プライドを抱くほどの能力がないからだ。でも、今ばかりはフェイロンの言うことがよくわかる。

 

 「なるほど。俺がここから逃げ出さない理由と同じらしいな」

 

 「ん? お前にプライドなどあるのか?」

 

 「あるぞ。兄としてのプライドだ。シルヴィエにカッコ悪いところは見せられないから、ここで逃げ出すわけには行かないんだ」

 

 フェイロンは小さく口を開けて固まった。唖然という言葉がぴったりな表情だ。短い間だったが、面白い顔が拝めた。

 

 「聞いて損した気がしないでもないが、お前が逃げ出さないなら、俺も逃げ出すわけには行かなくなったな。お前より腰抜けだと思われれば、たとえ命があったとしても、生き地獄だ」

 

 「言い草がひどすぎるだろ。俺への悪口ランキングを更新したんだけど」

 

 「そんな悲しいランキングをつけるなよ」

 

 今の言葉も、悪口ランキングに追加しておいた。


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