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ゴロピカ

 「作戦名は、ソーン砦防衛作戦とかでいいだろ」

 

 「ダメですよ! もっとわかりやすくて、馴染みやすい名前じゃないと!」

 

 「そ、そうなのか……」

 

 「本来、作戦名は作戦内容を敵に気取られないような名前にしますが、今回の敵は魔物ですから、ロックの言う通りわかりやすい名前でもいいかもしれませんね」

 

 俺がロックの気迫に押されていると、アネモネが割り込んできた。真面目なアネモネが本筋から離れた話をするとは思っていなかったが、言っていることは納得できる。

 

 話の流れ的に、この話題を無視することは得策ではない。さっさと決めて、作戦内容を詰めるべきだろう。

 

 「じゃあ、何かいい案はあるのか?」

 

 「雷魔法を使うってことなんで、ゴロゴロピカピカ大作戦でどうですか?」

 

 「よくその程度のアイデアで発言しようと思ったな」

 

 「クソッ、ダメか。渾身の作品だったのに……!」

 

 「作品って、軽々しく芸術家を気取らないでくれるか?」

 

 自分の「作品」に対する思い入れが強いのか、ロックは本気で悔しがっているように見える。演技であることを切に願うばかりだ。

 

 早めにこの話を切り上げるべく、俺もよさそうな作戦名を思案していると、今度はマリアが喋り出した。俺一人に対して、おバカ二人では捌ききれない。

 

 「ゴロゴロピカピカってダメですか? 可愛くていいと思います!」

 

 「いや、否決されたのを蒸し返してくるなよ」

 

 「じゃあ、略してゴロピカ大作戦にしましょう!」

 

 ゴロとピカへの熱意がすごい。何が二人を駆り立てるのかはわからないが、もう何を言っても聞かない気がしてきた。

 

 「副長官、もうこれでいいんじゃないでしょうか? 諦めましょう」

 

 「そうだな……」

 

 アネモネからの降伏宣言もあり、作戦名はゴロピカ大作戦に決まった。果たして、これはわかりやすくて馴染みやすい作戦名なのだろうか。俺には疑問である。

 

 さて、予定外の議題に時間を割いてしまったため、俺たちに残された時間は四〇分弱。少し急いで話をまとめた方がよさそうだ。

 

 「ま、こうして作戦名も決まったことだし、作戦内容の方を詰めていこうか」

 

 「俺たちが雷魔法を使えれば、手っ取り早いんすけどねー」

 

 「そもそも、お前は魔術師じゃないだろ」

 

 「そうでした」

 

 俺の言葉を受け、シュンとするロック。ロックに魔法が使えるなら、我が国のほとんどの人間に魔法が使えることだろう。が、実際にはそんなことはない。魔法は才能ある者が、適切な教育を受けた末に……

 

 いや、そんなことはない。つい最近、誰でも魔法を使えるという、それこそ魔法のような方法が開発されたではないか。

 

 「魔法陣を使えないか?」

 

 「火球と同じように、雷魔法も魔法陣によって魔法が発動できると?」

 

 アネモネは目の色を変えて食いついてきた。突破口が見えたかもしれないという喜び半分、自分も雷魔法を使えるかもしれない喜び半分という風に見える。

 

 「詳しいことは聞いてみないとわからないけど、シルヴィエならやってくれるだろ」

 

 ひとまず、魔法陣による雷魔法が使えると仮定して、アネモネに作戦内容を考えてもらうことにした。新たな属性魔法を使えるかもしれないということで、真剣に考えてくれるに違いない。

 

 作戦を考えなくてもよくなったおかげで、俺は肩の荷が下りた気がした。胸に張り付いてた不安までが消えてくれたようだ。我ながら都合のいい身体をしている。

 

 自室のドアをノックする。なぜ自室をノックするのかと言えば、ここではシルヴィエが休んでいるからだ。副長官の部屋を使えるのは、単に俺の妹であることが理由で、地位の高さなどがその理由ではない。

 

 「入るぞ?」

 

 「どうぞ」

 

 ドアを開けると、シルヴィエは床に膝をついて何か作業をしていた。

 

 「何をしてるんだ?」

 

 「雷魔法の魔法陣を作れないかと思って、試しに描いているんです」

 

 さすがはシルヴィエ。俺たちが思いつく程度のことはすでに考慮済みらしい。これが上手くいけば、水竜の足止めは飛躍的に楽になるだろう。

 

 「できそうなのか?」

 

 「できることにはできると思います。しかし、水竜がここに到達するまでにできるかと言われると……」

 

 顔を下に向けたまま、シルヴィエは答えた。声音からは悔しさが窺える。

 

 「そうか。魔法陣頼りの作戦を考えてしまっているから、考え直さないとな」

 

 「すみません。私の力が及ばないばかりに……」

 

 「いや、謝る必要はない。魔法陣が完成するまでの時間を稼ぐ作戦を考えればいい話だ」

 

 「ありがとうございます。――今、他の宮廷魔術師団の方々も雷魔法が使えるように、フレイが指導をしているところです。それが上手くいけば、かなりの時間が稼げるかもしれません」

 

 「それは助かるな」

 

 休む気満々なのかと思いきや、部下に訓練をさせているとは意外だった。ソーン砦の防衛には興味がないのかと思っていたのが、そうでもないらしい。

 

 あまり得意なタイプの人間ではないと思っていたが、悪いやつじゃないんだろう。この作戦が上手くいった暁には、感謝と謝罪の意を込めた宴でもてなそう。

 

 って、俺も宴大好きなソーン砦に染まりつつあるな。


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