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雷魔法

 ピスカ湖小砦からの連絡は、巨大な魔物が出現したというもの以降、一つも入っていない。それゆえ、状況が全くわからない状態だ。

 

 「偵察部隊を出すべきだろうか」

 

 「しかし、竜車を使っても小砦まではかなり時間がかかります。往復を考えると、ここに帰ってくる頃には夜ですよ。状況は未知ですし、メリットよりもデメリットの方が大きいかと。それに、ソルティシアとスイートランドが潰えた今、この機に乗じて攻め入ってくる国もないでしょうし、そこまで急ぐことはないと考えます。シルヴィエさんたちを待ちましょう」

 

 「そ、そうだな」

 

 俺の提案は、さっきからアネモネに即否決されている。その度にアレクにからかわれるというのが一連の流れだ。

 

 「――ほら、噂をすれば」

 

 北の方から隊列を組んだ飛行物体。間違いなく、ロウマンド王国宮廷魔術師団の飛竜部隊だ。我が国におけるエリート中のエリート集団であるわけだが、そこに一介の学生にすぎない妹が参加しているというのは未だに理解できない。

 

 例のごとく、その姿を認識してから数分後には、俺たちの元へと到着していた。いったいどんな速度で飛んでいるのだろうか。

 

 一体の飛竜から二人の人間が降りて来た。一人はシルヴィエ、もう一人は副団長と呼ばれていた女だ。なぜ飛竜に二人乗りしていたのかはわからないが、二人とも険しい顔つきをしているところを見るに、何かよからぬことを感じさせる。

 

 形式的な挨拶を交わすこともなく、副団長は話を切り出した。

 

 「事態は切迫しているため、まずは飛竜で見て来た情報を伝える。ピスカ湖の南端を巨大な水竜が突破した。このまま直進を続けるなら、このソーン砦に衝突することになるだろう」

 

 「水竜か……」

 

 「ああ。それも、見たこともないくらいバカでかいな」

 

 少々言葉遣いの汚い副団長様だが、それだけ切羽詰まっているということなのだろう。

 

 一瞬の間ができると、アネモネは俺を押し退けるようにして前に出てきた。自己紹介をしてから、質問を投げかける。

 

 「小砦の方にいる隊員たちはどうなったのか、何かご存じでしょうか?」

 

 「あそこ自体は直接の攻撃を受けた訳じゃないみたいだが、水竜が暴れた余波を食らったらしい。ほとんどの隊員は崩壊した小砦に飲み込まれていた。今は私たちの仲間が一人残って、生存者を探しているところだ」

 

 「そんな……」

 

 何でもないことのように言う副団長に対し、まともな言葉も出ない様子のアネモネ。前線に出るような戦闘狂は、国境警備隊員の命なんて何とも思っていないことが多い。窓際部署の人間に割くだけの情など持ち合わせていないのだ。

 

 兄としては、シルヴィエがそんな人たちと行動をともにするのは避けてほしい。そうは言っても、この国で生きていく以上、魔法に非凡な才を持つシルヴィエがそうするのは困難であることはわかっている。もっと研究だけに専念するとか、そういう道はないものだろうか。

 

 「さて、今はこんな話をしている場合じゃない」

 

 「こんな話って――」

 

 アネモネが副団長に食って掛かろうとするところを止める。アネモネは不服そうな顔をしているが、ここは我慢してもらいたい。揉めても事態は好転しないし、そもそもこういう人間と揉めても、価値観が違い過ぎて議論にすらならないだろうからな。

 

 「落ち着いたようだから、早速本題に入らせてもらおう。例の水竜だが、すでに我々で一度攻撃を仕掛けている」

 

 「そうだったのですね。それで、効果のほどはどうだったのでしょうか?」

 

 王宮魔術師団副団長というのは、ソーン砦副長官なんかとは比べものにならないほど偉い。実際の地位の差以上に隔絶された距離があるため、俺はなるべく丁寧な対応を心掛ける。こういうのも、軍で穏やかに過ごすためには必要な技術だ。

 

 「効果はほとんどなかったな。電魔法だけは、足を緩めることくらいには使えたがな」

 

 「電魔法、ですか?」

 

 魔法のこととなると、アネモネも無視できなかったようで、俺を差し置いて話を進めている。

 

 「そうだ。――これに関しては、発見者から詳しい話を聞くといい。おい、シルヴィエ」

 

 「はい。電魔法は、新たな属性である雷属性の魔法になります。王都に帰ってから魔纏の練習をしているとき、偶然発見したんです」

 

 「つまり、従来の四属性に加えて、新たな属性を発見したということですか?」

 

 「ええ、そうです」

 

 アネモネは目を白黒させている。よほど衝撃を受けたのだろう。魔法に疎い俺だって、シルヴィエのやってのけたことの偉大さはわかる。二百年間のロウマンド式魔法の歴史を塗り替えたのだから。

 

 雷魔法が何たるかの説明が終わると、シルヴィエは引っ込み、また副団長が前に出てくる。

 

 「話が逸れたな。言いたいことは、辛うじて足止めができるくらいで、討伐は困難だということだ」

 

 我が国の武力の最高峰をもってしても、討伐が困難。それは、人類が束になっても勝てないことを意味する。

 

 「……それでは、ここはこのまま潰されると?」

 

 「そうは言っていないぞ、副長官。討伐ができないときは、封印をすればいい」

 

 なるほど、封印か。呪龍がそうされていたように、封印具に閉じ込めればいいわけか。

 

 「だがな、一つ問題がある。時間が足りない」

 

 「どれほどの時間が必要なのでしょう」

 

 「あの水竜がここに到達するのは、今から三〇時間程度かかると見積もっている。だが、我々が必要な封印具を入手するのにかかる時間、つまり、王都から封印具を届けてもらうまでの時間は六〇時間。差し引き、三〇時間ほどアレを足止めしなければならないということだな!」

 

 絶望の足音が聞こえた気がした。


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