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アレクとの任務

 南方前線攻略の連絡を受け取った二日後、今度はソルティシアを落としたという連絡が来た。シルヴィエが作戦に成功したことは喜ばしいことなのだろうが、やはりここ最近感じているやるせなさは晴れない。


 というか、この国は十六歳の少女を働かせすぎじゃないだろうか。シルヴィエが進んでやっていることだとしても、少しくらいは気を遣ってほしい。家柄や天賦の才に恵まれた者は、国に奉仕しなければならないという伝統の一番の被害者かもしれないな。何せ、その両方を持っているのだから。

 

 シルヴィエはこの後、王宮魔術師団とともにスイートランドを落としに行くことになっている。当然、成功するだろう。制圧能力において、ロウマンド国民六千万の頂点に君臨する彼らが本気になれば、攻略に失敗する国など存在しまい。

 

 ショトーをはじめとするはぐれシュガ族たちには、本当に申し訳ないことをした。結果的に、嘘をついて死地に赴くよう仕向けてしまったのだから。

 

 妹の心配と自分がしたことへの罪悪感で、深いため息が出る。こういう砦の警備って突っ立ってるだけだから、暇なんだよな。暇だと無駄な考え事をしてしまって、今のようにため息が出てしまう。

 

 「さっきからため息ばっかり何なんですか? うるさいんですけど」

 

 「え、そんなにうるさかった?」

 

 「十秒に一回のペースでため息ついてましたよ」

 

 「さすがに言い過ぎだろ」

 

 「いや、本当です」

 

 「マジか……」

 

 アレクに指摘され、思わず口元を押さえてしまう。十秒に一回ため息をついてるって、もはやただの呼吸である気がしないでもないが、うるさいと言われるくらいにはため息をついてたんだろうな。

 

 それはそうと、最近はアレクと組んで仕事にあたることが多い。俺は副長官だから別にこういう仕事に入らなくてもいいんだが、アネモネに入れって言われるから仕方なく入ると、かなりの頻度でアレクと二人組になる。

 

 再び眼前に広がる平野をただ眺めるだけの時間が訪れる。時折、シルヴィエから何か知らせがないかと《双子の手帳》を覗く以外、特に動くこともない。

 

 この平原の千キロメトル先で行われているだろう虐殺に思いを馳せながら、交代までの残り時間を過ごす。交代の時間が近づいて来ると、今度はアレクのため息が聞こえてくるようになった。俺のように十秒に一回とは言わないが、二十秒に一回くらいはため息をついている気がする。

 

 「さっきからため息ばっかり何なんだ? うるさいんだけど」

 

 「え、そんなにうるさかったですか?」

 

 「二十秒に一回のペースでため息ついてるな」

 

 「さすがに言い過ぎですよ」

 

 「いや、本当に」

 

 「そうですか……」

 

 肩を落とすアレク。何か悩み事でもあるのだろうか。ここは上司としてお悩み相談に乗るべきか、向こうが話してくるのを待つべきか。上司となって日が浅いし、そもそも俺自身がポンコツだしで、こういうときにどうすればいいか――

 

 「あの、副長官。お話しておきたいことがあるんですけど」

 

 「えっ、あっ、おう。何だ?」

 

 心の準備ができる前に話しかけられてしまい、上手く舌が回らなかった。

 

 「実は私、反乱を計画していたんです」

 

 「は、反乱!?」

 

 「ちょっと、声が大きいですよ!」

 

 ぐい、と口を押さえつけられる。思ったよりも力が強い。俺の口を押さえているアレクの手をどうにか外して、発言の真意を問う。もちろん、今度は声を潜めて。

 

 「反乱ってどういうことだよ。もしかして、俺の副長官の座を狙ってたとか?」 

 

 「違いますよ。ソーン砦の副長官というしょうもない役職に興味はありません」

 

 俺だって副長官を誇ってるわけじゃないんだから、わざわざ傷つけるようなこと言うんじゃないよ。確かに、ここへの移動は狙ってのものであるわけだけども。

 

 「さすがにその言い方はないだろ」

 

 「私が旧ジャミ王国領出身だってことは言いましたよね?」

 

 「あ、ああ」

 

 アレクが本当に何事もなかったかのように続けるので、俺も仕方なくそれに応じた。ツッコミに対するスルースキルが高すぎる。もしくは、俺の言うことなどどうでもいいと思っているのかもしれない。

 

 「そしてご存じの通り、私は男のフリをしているわけですが、それにはもちろん理由があります」

 

 「ほう」

 

 理由もなく男のフリをする物好きはそうそういないだろうし、何か理由があることくらい想像がつく。だが、ここではそれを尋ねることはせず、軽く相槌をするだけにした。わざわざ続きを聞くのは怖いという、情けない理由からだ。

 

 「なんでそんなことをしているかと言うと、身元を隠すためです。ジャミ王国王家の直系という身元を」

 

 「……それ、話してよかったのか?」

 

 まるで独り言のようにつらつらと話すアレク。衝撃的な告白だったが、俺は何とか返事を絞り出す。

 

 「いいんですよ。もう反乱計画は中止しましたから」

 

 「あの、さっきからその反乱って何のことなんだよ。それを教えてくれないと」 

 

 「相変わらず鈍いですね。王家出身の私が旧ジャミ王国領の民を扇動して、反乱軍を組織していたってことですよ」

 

 「マジか……」

 

 本日二度目の「マジか」。一回目とは比べものにならないほど大きな「マジか」だ。

 

 「俺以外に話したら、最悪の場合には殺されるぞ。――なんで急に話す気になったんだ?」

 

 「さっきも言いましたけど、反乱を止めたからですよ」

 

 「それまたなんで?」

 

 「なんでなんでって、子供じゃないんですから。ちょっとくらい自分で考えてくださいよ」

 

 それきりアレクは黙ってしまった。なんだか学園の教師に怒られたときのような気持ちになる。

 

 手持無沙汰になり、《双子の手帳》を開く。どうせ今回も何の知らせもないのだろうと思っていたが、そうでもなかった。

 

 『スイートランドの方も終わりました。あとで砦の方に伺います』

 

 たったそれだけの文章だった。しかし、俺に吐き気を催させるには十分だった。

 

 そして、俺はアレクが反乱を止めた理由を悟った。


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