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シュガ族の力

 シュガ族と言えば、一人で千の歩兵を倒すという戦闘民族。騎兵ですら、馬ごと捻り潰すことが可能だとも聞く。こういう話というのは、大体が脚色されてるから真に受けることはできないが、それでも火のない所に煙は立たぬと言う。最低限の実力があるのは、ほぼ確実だろう。

 

 目の前にいるシュガ族の男は、片言だが意思疎通はできる。話をして時間稼ぎをしている間に、フェイロンを呼びつけて叩きのめしてもらうか。それがいい、そうしよう。

 

 一分後にはフェイロンの姿が見えた。例のごとく、アルバートが連絡役だ。みんなに言伝を頼まれて、砦を走り回っているせいで、少し疲れているように見える。気の毒だが、代わってやるつもりはない。

 

 フェイロンが来ると、隊員たちがさーっと引いていき、自然と俺がいる場所までの道ができた。おかしいな、俺は自分で隊員たちの群れを掻き分けたのに。俺のときも、道を開けろよ。副長官に尊敬の念を示せよ。

 

 俺の横に来ると、フェイロンはつっけんどんに言った。俺のように昼食を中断させられでもしたのだろうか。

 

 「何の用だ」

 

 「ここのシュガ族のやつが、強いやつと戦いたいんだって。だから、こいつと戦ってやってくれ」

 

 「ちっ。すぐに叩き潰してやる。さっさと昼飯が食いたいからな」

 

 「おお、そうしてくれ」

 

 俺の予想通り、昼食を食べ損ねたらしい。食の恨みは強いって言うからな。八つ当たりされるこのシュガ族の男がかわいそうだ。

 

 「準備、いいカ? 殺されル準備」

 

 「こっちの台詞だ」

 

 そんな殺気じみた言葉のやり取りの後、ファーストコンタクト。先に仕掛けたのは、シュガ族の男。じりじりと距離を詰めた後、右足で蹴り上げた。長い脚が大きな軌道でフェイロンの顔に迫る。

 

 フェイロンはそれを防ごうと左腕を出したが、接触の直前、身体を沈めて躱した。もちろんそれだけで止まることはなく、シュガ族の男の左足を払いに行く。右足を軸にし、左足で回し蹴りを放った格好だ。

 

 決まったと思った。しかし、お互いの左足は衝突しただけで、何も起きない。何も起きないというのは、フェイロンの足払いが決まらなかったということであり、蹴りが効いていないということである

 

 ベストな体勢ではなかったとはいえ、フェイロンの蹴りを食らって平然としているなんて信じられない。この時点で、俺はこいつがただ者ではないと、ようやく認識することができた。

 

 奇妙な格好で止まった両者。先に動いたのは、またしてもシュガ族の男だった。蹴り上げた脚をそのまま振り下ろす。フェイロンは身体を左へ回転させ、そのまま男から距離を取った。

 

 男はすぐに追撃へと移る。男がさっきまでいた場所には、大人が一日かけて掘るような大穴が開いていた。脚を振り下ろしただけでこの威力。もしかすると、攻撃力ではフェイロンを上回っているかもしれない。

 

 砦前の大きく開けた空間を縦横無尽に駆け巡り、あちこちで衝撃音を撒き散らしている。二人を目で追うためだけに魔纏を発動し、どうにかこうにか戦闘の行方を見守る。互角のやり取りが絶え間なく繰り広げられていて、息をする暇もない。

 

 砦の外まで出てきている隊員たちには、きっとこの戦いは目に見えていないだろう。魔纏で高められた動体視力をもってしても、俺だってその全て捉えられていないのだから。それほどまでに、高速で高度な戦いだった。

 

 しかし、時間が経つにつれ、徐々に優劣がはっきりしてきた。フェイロンは平然としている一方、シュガ族の男の方は肩で息をし始めたのだ。体力勝負では、フェイロンに分があるらしい。

 

 いや、正確に言うと違うかもしれない。フェイロンの動きは洗練されていて無駄がないのに対し、男は一つ一つの動きが大味で無駄が多いのだ。武術を心得たフェイロンの文明的な戦いに、そんなものを一切知らない男の野性的な戦いといった感じである。それゆえ、ここまで体力の消耗具合に差があるのかもしれない。

 

 どちらにせよ、フェイロンの勝機は持久戦に見出せることだろう。反対に、男の方は短期決戦を望むに違いない。ここから数分が正念場になると思われる。

 

 そして、男はやがてフェイロンの動きに追いつけなくなった。畳み掛けるような連撃を避けることも防御することもなく、もろに食らう。しばらく立ち尽くした後、地面に手を着くことなく前に倒れた。

 

 「昼飯だ」

 

 それだけ言って、フェイロンは踵を返した。世界で一番カッコいい「昼飯だ」が聞けたと思う。周りの隊員たちにシュガ族の男の処遇を任せ、俺はフェイロンの後を追った。俺もお待ちかねの昼食タイムだ。

 

 昼食を取りながら、俺はフェイロンからさっきの戦いについての話を聞いた。

 

 「あいつ、強かったな」

 

 「シュガ族とは何回か戦ったことがあるが、あいつは別格だ。技は稚拙だったが、とにかく身体が硬すぎる。何かしらの特異体質なのかもしれん。」

 

 「なるほどな」

 

 フェイロンが硬いと言うんだから、よっぽどなんだろう。脚を振り下ろしたときも、地面が抉れてたからな。思い出しただけでも鳥肌が立つ。

 

 とはいえ、シュガ族の中でも別格の男を完封できるとは、さすがはフェイロンだ。もしシュガ族が攻めてきても、フェイロンのそばにいれば安心かもしれない。俺の警備役として雇いたいくらいだ。

 

 昼食が一段落したとき、またあいつが姿を現した。焦っているようだ。座っているため、もう逃げだすこともできない。

 

 俺とフェイロンの真正面で仁王立ちしたアルバートは、震える声で言った。

 

 「これから、百を超えるシュガ族が攻めて来るそうです」


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