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はぐれシュガ族

 アネモネのせいで、訓練場で仕事をサボることができなくなった。警備や見回りといった典型的な業務をこなしながら、平穏な日々を過ごしている。

 

 「暇なのは暇なんだけど、俺が求めてるのは本当に何もしない無駄な時間なんだよな。楽な仕事でもやりたくない」

 

 「怠惰もここまで来ると、どこか尊敬の念すら湧いてきますね」

 

 「怠惰じゃない。俺は自分の内なる声に従ってるだけだ」

 

 「サボれっていう内なる声ですね、わかります」

 

 「もうちょっと言い方があるだろ」

 

 「いいじゃないですか。副長官と私の仲じゃないですよ?」

 

 小首を傾げてこちらを見ているのはアレクだ。今日は久しぶりにアレクと二人で散歩、もとい見回りをしている。いや、やっぱりこれは散歩かもしれない。お喋りしながら、人っ子一人いない平原を歩くだけって、散歩以外の何物でもないだろ。

 

 結界は目に見えないが、結界があるだろうところに沿って歩く。結界は砦の魔術師隊とシルヴィエが協力することにより、すでに復活している。結界の発動には百人分の魔力が必要らしいから、シルヴィエは五十人分の魔力を一人で拠出したことになる。魔術師のやつらは軽く引いてた。

 

 「次の攻撃はいつになると読んでるんですか? だいぶ急ピッチで準備してますよね?」

 

 散歩の折り返し地点を過ぎたあたりで、アレクが切り出した。もちろん、俺ごときが敵の攻撃のタイミングを予想できるはずもない。

 

 「攻撃がいつになるかわからないから急いで準備してるんだよ。もうあらかた準備は完了したし、待つだけなんだけどな」

 

 「大した自信ですね。結局、住民からの希望者はどれくらい集まったんですか?」

 

 募集開始から一か月がたった先日、ようやく募集を締め切ったのだが、希望者総数は四五〇〇を超えたという報告を受けている。募集終了まで毎日新たな希望者が現れたというから驚きだ。

 

 「最終で四五〇〇人くらいだな」

 

 「そんなに集まったんですか!? この辺で一番大きな集落でも人口三〇〇〇人くらいなのに、そんな数いったいどこから……」

 

 「馬で一日かけて来ましたみたいなやつもいたからな。けっこう遠くからも集まってるぞ」

 

 「なるほど。みなさん、故郷を守るために熱心なんですね」

 

 「らしいな」

 

 そんな風に、終始話しながら散歩を終えた。

 

 魔纏を使えるようになってから、平常時の体力も増進し、見回りで距離を歩いても疲れなくなった。心地よい疲労感のもと、食堂で飯を食べるというのができなくなって、寂しい気もしているが。

 

 時刻は昼過ぎ。これから夜にかけては副長官室でのんびり過ごす――当然ながら、表向きは仕事をしていることになっている――ため、そのための英気を食堂にて養おうとしているところだ。

 

 食事は自分で空いている適当な席に運び、そこで食べるようになっている。自分の料理をトレイに乗せ、どこに座ろうかとキョロキョロしていると、アルバートが明らかに俺を目がけて走ってきているのがわかった。

 

 最悪だ。アルバートはアネモネの使い。何かしら仕事に関する話をされるのは確定している。それは嫌だ。今から食事というときに、トレイの上にベストメンバーを揃え終えたというときに、仕事なんてしていられるわけがない。

 

 人違いですよ、と言わんばかりにアルバートから目を背け、つかつかと食堂の端を目指して歩いていく。しかし、あと少しというところで肩に手が置かれてしまう。

 

 「副長官、来てください。敵が動き出したかもしれません」

 

 「えええ……」

 

 束の間の休息を取ることもできず、俺は仕事に引き戻された。副長官はつらいよ。というか、長官が働け、長官が。

 

 問題が発生したというのは、出入国者が通る門。出入国は素性が知れている者しか許しておらず、最近は度々トラブルが発生しているとは聞いている。今回に関しては、俺が呼ばれるくらいだから大事になっているのかもしれない。気分が重い。

 

 嫌だなー、嫌だなーと思いながらも、アルバートの案内で現場へと近づいていていく。人が集まっているのがわかる。もう明らかに問題が起きてるじゃん。行きたくねえ。

 

 が、目標に向けて歩いていれば、いつかはそこへ辿り着いてしまうもの。俺は隊員たちが集まっている現場へと到着してしまった。

 

 隊員たちを掻き分け、彼らの中心へと迫っていく。いったいどんな問題が発生したというのか。

 

 「お前、偉いのカ?」

 

 中心に入った瞬間、どこからともなくそんな声が掛けられた。片言のロウマンド語だ。少し見上げると、長官と同じくらいの背丈をした赤髪の男が立っていた。体型は、長官よりはスラリとしている。

 

 「そうだ。俺は偉いぞ」

 

 片言の相手に難しいことを言ってもわからないだろうから、それだけ言っておいた。でも本当は、「俺より長官の方が偉いです。しかも副長官というのは名ばかりで、みんなからも全然尊敬されてません」って言いたかった。

 

 「俺と戦エ。俺が勝ったラ、この城を貰ウ」

 

 周りの隊員たちがざわついた。俺の心もざわついたが、声は出さなかった。不用意に言葉を発してしまえば、本当に戦いが始まってしまいそうだったからだ。

 

 返事をする前に、こいつが何者なのかを考える。赤髪でこの体躯は、おそらくシュガ族。シュガ族と言えば、スイートランド。スイートランドと言えば、目下の敵国である。

 

 敵国の人間が俺に戦いを求めてきて、しかも勝利の対価にこのソーン砦を要求している。これはもう、明らかな宣戦布告だろう。

 

 「それが、スイートランドの意志なのか?」

 

 俺は覚悟を決めて問うた。戦争の意志が感じられる答えが返って来れば、今すぐにでも魔法陣を展開して――

 

 「スイート? それは何ダ?」

 

 「は? お前はスイートランド人じゃないのか?」

 

 「違ウ。俺に国はなイ」

 

 国はない。つまり、これは宣戦布告ではないということか。え、どういうこと?

 

 「お前はなんでここに来たんだ?」

 

 「俺は戦闘民族。戦うことが生きるこト。だかラ、偉いやつと戦ウ。ついでに城も貰ウ」

 

 偉いやつってのは、強いやつってことなんだろうな。戦闘民族だから、強ければ強いほど偉いみたいな文化に生きてるんだろう。


 で、今起きていることをまとめると、スイートランドとは何の関係もない、ただの戦闘マニアがやってきたってことになる。このタイミングで、紛らわしいんだよ!


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ブクマ・評価ありがとうございます!大変嬉しいです!


コ□ナ、個人的にはしんどかったので、みなさんもご自愛ください。

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