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責任回避

 「お兄様、一つ報告したいことがあるのですが」

 

 「なんだ?」

 

 夜が更け、このささやかな祝勝会も終わりを迎えようというとき、シルヴィエがやや深刻そうな顔をして切り出した。何かよからぬことを言われるのは想像がつく。

 

 「飛竜で上空を飛んでいたとき、数百人規模の軍隊を見ました」

 

 「そうか」

 

 そういうこともあるかもしれないと思っていた。しかし実際にそうだと聞くと、戦争や侵略というものを間近に感じて、胸が締め付けられるような感覚すら覚える。

 

 「さすがに領土外で人を殺めてしまっては、明確な侵略行為とみなされる可能性があったため、手は出しませんでしたが。魔物を倒すだけなら、いくらでも言い訳が効くんですけどね」

 

 怖いことをしれっと言うシルヴィエ。言い訳が効くとか、国政の汚いことまで一体どこで覚えてきたんだか。

 

 「俺たち国境警備隊だって許可なく人を殺すことはできないし、一学生の判断としては妥当なところだろうな」

 

 「そう言ってもらえてよかったです」

 

 南方前線で歴史的な成果を上げた人材に対して、ただの学生と言うのも無理があるとは思うけど。

 

 それにしても、これで『黒の刃』の事件から魔物の襲撃までが他国による侵略行為だったのが明らかになってしまった。シルヴィエの目撃証言だけでは確たる証拠にはならないが、これまでのことを考えれば、ほぼ間違いないと言っていいはずだ。

 

 問題は、どこの国かという話だ。フェイロンが言うには、『黒の刃』が出てきた時点で、少なくともソルティシアは関わっているだろうとのことだった。他にもスイートランドも関わっているかもしれないと言っていたが――

 

 「参考までに聞きたいんだけど、どこの国の軍だったとかわかった?」

 

 「特徴的な赤髪ばかりだったので、シュガ族の戦士、つまりスイートランド軍だと思います。――あ、一応、スイートランドの軍に偽装しているという可能性もありますけど」

 

 「なるほど、ありがとう」

 

 シュガ族か、聞き覚えのある名前だ。スイートランド建国者の子孫だよな。戦闘民族だという情報は、図書館の本で読んだ気がする。

 

 スイートランドとソルティシアは緊密な関係があるから、二国による共同作戦だったという可能性が高いかもしれないな。面倒なことだ。

 

 「それにしても、アンデッドによる侵攻だって簡単に退けられてしまったのに、よく飽きもせずやりますよね。それもこんな短期間に」

 

 「え?」

 

 「こんな短期間のうちに、二回もお兄様のいらっしゃるソーン砦を攻めるなんて、命知らずだと言いたいのです」

 

 「ははは、言えてるな」

 

 口では適当に合わせたけど、意味がわからない。二回も攻めて来たって、アンデッドが大量発生したのもスイートランドが仕組んでたって言うのか。確かに、十万ものアンデッドが自然発生するというのは考えづらいと思ってたけど……

 

 あれがスイートランドの侵略行為だと気づいていれば、もっと準備をして、今回は簡単に対処できたんじゃなかろうか。つまり、今回苦戦してしまった原因は、俺の職務怠慢。もしかして、責任追及とかされちゃう?

 

 そんなことになってしまえば、どんな処分を受けるかわかったもんじゃない。異動では済まずに、下手したら何かしらの罪に問われる可能性すらある。国に損害を与えたとなれば、国家反逆罪とかで極刑だってないわけではない。

 

 これはまずい。非常にまずい。極刑に処されるくらいなら、まだ前線に送られる方がマシだ。何と言っても、俺は前線から自力で逃げ出した実績があるからな。だが、逮捕されて牢獄にぶち込まれてしまえば、逃げる自信はない。

 

 俺は何でも人のせいにするのが得意だが、これに関しては自分のバカさと怠惰さのせいだから、誰にも文句が言えない。強いて言えば、侵略行為を仕掛けてきたスイートランドとソルティシアということになろうか。そうだ。先に仕掛けてきたその二国が悪いのだ。

 

 なんて妄想をしてみたが、現時点で俺の責任が問われるようなことは考えにくい。国境警備隊の仕事は、あくまで国境の警備で、他国の謀略を未然に防ぐことではないからだ。

 

 とはいえ、これ以上攻撃を受けてしまえば、どこか綻びが生じ、侵略を許すような事態もありうる。そうなってしまえば、それはもちろん俺の責任問題だ。責任を取る取らない以前に、戦死というのもある。


 どうにかして二国がこれ以上の侵略行為を起こさないようにできれば、余計な責任を負わなくて済むし、戦死も避けられる。まあ、そのどうにかしてって言うのが、一番難しいんだけど――

 

 「今は南方前線の攻略が最優先となっているので難しいですけど、そっちが終われば、スイートランドは私が叩き潰してまいります」

 

 俺の内心を見透かしたように、シルヴィエは言った。もしシルヴィエが言っていることが実現されれば、俺の立場は安泰だ。叩き潰すとかいう物騒なワードチョイスは気になるけど。

 

 「……それ、本当?」

 

 「はい、もちろん」

 

 「えっと、ソルティシアも侵略行為をしてたんだけど、そっちもお願いできたりする?」

 

 「お兄様がおっしゃるのなら」

 

 なんてことだ。どうにかしようと思ってたら、勝手にどうにかなりそうではないか。

 

 「南方前線での戦闘が終結するまでは、国境の警備をどうかよろしくお願いします」

 

 シルヴィエは頭を下げながら言った。頭を下げたいのはこっちの方なんだが、ここはとりあえず鷹揚に頷いておいた。

 

 「――それはそうとお兄様。あの件はどうなりましたか?」

 

 「どの件だ?」

 

 顔を上げたシルヴィエからの質問。俺は心当たりがない。

 

 「闘技場で見たあの妙な魔法の件です」

 

 「ああ、それか。あれの使い手なら、なぜかまだこの砦にいるから、明日にでも直接教わって来れば?」

 

 「本当ですか!?」

 

 シルヴィエの目が、今日一番の輝きを放った。


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