仕掛けるか、仕掛けられるか
「さ、作戦も何もないのに、総攻撃だなんておかしいですよ!いくら長官だって容認できません!」
「ワシは長官だ!誰の容認がなくとも、ボンドを助けに行くぞ!」
アネモネの必死の制止も聞き入れず、超ノリノリで敵地に乗り込もうとしている長官。いつも無駄に豪快な長官だとは思っていたが、砦の危機に際してもこんな調子でいられると、お目付け役的立場のアネモネが少しかわいそうだ。
かと言って、ここでアネモネに同調するわけにもいかない。今のアネモネの主張は、どう考えても中途半端で何の解決にもならないものだからだ。
「アネモネ、こうなった長官はもう止められないだろ」
「そうかもしれませんけど……」
砦のツートップから説得を受け、アネモネの態度も少しずつ軟化しつつある。畳みかけるべきときは今だ。
「それに、作戦がないわけじゃないんだ」
「……本当ですか?」
「あー、まあ、作戦というほどじゃないかもしれないけど」
「とりあえず、それを聞かせてください」
「よし、わかった」
作戦を説明する上で、最初に敵の戦力について簡単に話した。
敵の主戦力は幹部とボス。それ以外はそこら辺のチンピラで、俺一人でも時間を掛ければ五十人くらいは相手にできる程度だ。全力のフェイロンなら二百人は余裕で相手ができると話すと、アネモネ含め周りの隊員たちは顔を青くしていた。
というわけで、俺たちが重きを置かねばならないのは、敵の幹部とボスである。ボスは別格すぎるらしいから、とりあえず幹部の方から話をすることにした。
「今回、この砦に来た幹部は四人だとラヴは言っていた。しかし、今日捕らえた幹部はここにいる三人だけだ。だから、まだあと一人どこかに――」
「副長官、すでに四人捕らえております」
「え?」
俺が饒舌に喋っていると、誰かが口を挟んだ。辺りを見回しても、声の主は見当たらない。周りの隊員たちもキョロキョロしている。
「あ、ここです。ここ」
隊員たちの隙間から現れたのは、縄で縛られた隊員とそれを連れるアレク。まるで犬の散歩みたいだ。
「おお、アレクか。何それ、ペット?」
「ペットじゃないですよ。さっき副長官が上でぶん殴ったやつです。『黒の刃』の幹部で、変装を得意としているみたいです」
「え、幹部だったんだ。てっきりただの下っ端かと」
俺がそう言うと、縄で縛られたそいつは、ジタバタともがいて抗議の意を示した。が、周りにいた隊員たちに押さえつけられてしまう。
「はい。なので、四人全員の捕縛に成功したってことですね」
まさかの展開だった。行方の知れない幹部がアジトに逃げ帰ってしまった場合も考えていたのだが、これでそれは考えなくてもよくなったというわけだ。それはつまり、こっちから総攻撃を仕掛けることに集中できるということでもある。
「ほう、そりゃ朗報だ。――ということは、この砦には今、『黒の刃』の幹部五人がいるわけだ。幹部は全部で十人だから、アジトに残る幹部は、簡単な引き算で求められるな」
「十五人!」
「違うよ。五人だよ。なんで捕まえたのに増えちゃってるのかな?」
「あ、そうでした」
足し算と引き算がごっちゃになるほどのバカと言えば、この砦ではマリアくらいしかいない。舌をペロッと出して、やっちまったという顔をしている。というか、お前はいつの間にこの場にいたんだ。
「えーっと、何の話だっけ。――ああ、そうそう。敵の戦力についてだ」
マリアのせいで話が逸れてしまったが、俺はなんとか元の話題に戻った。マリアのやつ、敵のスパイじゃないだろうな。
「幹部五人くらいなら、フェイロン一人でも余裕、だよな?」
「当たり前だろ」
バカにするなと言いたげに、フェイロンは俺へ鋭い視線を送ってくる。フェイロンの自信満々な様子を受け、俺は話を続けた。
「というわけで、幹部五人をフェイロンにやっつけてもらう間に、俺と長官はボスの足止めを試みたいと思う」
「よきかな、よきかな!組織の長同士、手合わせといこうではないか!」
アネモネも疲れてしまったのか、今度は長官に小言を言うことはなかった。
「で、残るチンピラどもの対処についてだが、魔法陣兵器を使う。というか、ボンドさんを救出したら、まずアジト全体を魔法陣による魔法で一掃して、それから残ったのを総力挙げて叩くって感じだな。もしかすると、最初の急襲で幹部も何人かやれるかもしれない」
「仕方ありませんね。その作戦で行きますか」
アネモネは諦めたように言った。普段からこんな感じで長官に振り回されているんだろうが、今日は俺にも振り回されて大変だと思う。が、今日のところは許してほしい。
「そうと決まれば、早速出撃準備だ。千発くらいの魔法が発動できるだけの人員を連れて行こう」
「となると、一般隊員を半分くらい連れて行けば、ちょうどそのくらいになると思われます」
「じゃあ、魔法陣も半分くらいここに残しておくか。俺たちが潰されて、そのまま攻め入られる可能性がないわけじゃないしな」
「それがいいと思います。そのときのため、ここの指揮は私がやりましょう」
「よし、任せた」
やることが決まれば、アネモネは即座にその順応性を見せた。今も、自ら指揮を執ることを申し出てきてくれた。長官よりも長官っぽいし、副長官よりも副長官っぽい。
ボンドさんを助け、かつ向こうから総攻撃を受けないようにするには、先に総攻撃を仕掛けるしかない。が、フェイロンとシルヴィエが作ってくれた魔法陣さえあれば、どうとでもなる気がした。気がかりは、フェイロンですら警戒する正体不明のボスだけだ。
「俺と長官で、ボスをどれくらい足止めできると思う?」
「そうだな。お前があのときみたいに姑息な手を使えば、三十秒くらいは時間を稼げるんじゃないか?」
「三十秒……」
リアルすぎる数字に、俺はフェイロンの言葉を反復することしかできなかった。しかも、二人で模擬戦をしたときみたいに、俺が魔法陣を仕込んだ状態で三十秒だという。とんだ化け物だ。
「その間に、五人の幹部を片付けられるのか?」
「問題ない。二十秒もあれば十分だ」
「じゃあ、俺は十五秒だけ頑張るから、フェイロンは十秒で五人片付けて俺を助けてくれ」
「改めて言っとくが、俺は部外者だぞ?副長官が部外者に頼りっぱなしでどうする」
「部外者じゃないさ、副長官の師匠なんだから」
「またお前は調子のいいことを言いやがって」
フェイロンは腕を組んで言った。そろそろ俺も、それが照れ隠しだということがわかってきた。
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