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政権の政策発表

来たる総選挙に備えて。

2013.07 参院選挙に備えて。


2013.06 今も大差ありませんが、

特に2012年の政治状況を風化させず、当時を印象付けるため

内容を一部修正しました。


題 名 世界に挑む平成建国政権       2012.08.15   大国主 みこと   


第2章 政権樹立


 国会議事堂、元衆議院議場、5月2日、NWH記者・轟太一は空港同様のセキュリティチェックを通過し、元衆議院議場入口にやって来た。入口にはA4左隅をホッチキス止めした粗末な4頁両面プリントの資料を置いていた。轟は皆と同じ様にA4資料を手に取り元議場に入った。

 轟は元議席の空席を探し歩いた。混み合う人々の腕章から察するにテレビキー局、全国紙、地方紙の新聞社、ネット局は云うに及ばず、週刊誌、業界紙記者に至るまで津々浦々の報道関係者を総動員して元議席を埋め尽くしていた。相当数の外国特派員も交じるが、それほど目立ってはいなかった。

 暫定憲法が発効して僅か8日目の新政権が5月2日、早々と統治機構の説明を行うとのネット発表を見て駆けつけた面々である。占拠中は対国民へのニュースすら黙殺したが、権力を認めた途端に彼等のネットを隅々まで注視する。轟は私語もなく殆ど全員が手元のA4を繰って読み漁る姿に権力の重みを実感した。A4資料のタイトルは"暫定憲法統治機構"(注 第0章【国家設計の設計仕様】)であった。


 巨大なスクリーンが取除いた元議長席あとに据付けられ、若い女性が速記者席に座り、パソコンを操作しスクリーンの表示画面調整に余念がなかった。元議席には議員の表札に変えマイクが設置されていた。大臣席ひな壇の左右両端に各々2台のテレビカメラが元議員席を映す方向へ、元議場の後方からひな壇を映す方向へ2台の計6台が設置され、NHKの腕章をつけるカメラマンが撮影を担当していた。元議場内の両側面と後部の3方には夫々十数人の衛視が立つ。

 30代半ばスーツ姿の筋肉質な男がやって来て元議長席下方、かつて議員達が頻繁に演説を行った演壇に立った。一部の記者は演壇に立つ男が、議事堂参議院を占拠した第2中隊長・日野靖男三佐だと忘れていなかった。

「大変お待たせしました。国民の絶大な賛成票が得られたと云え、私達を敵視する多数の視線を感じておりますが、私達は新日本を建国すべく期間を限定して独裁政治を行います。但し国民との対話、諸政策の情報公開はこの場を活用し、如何なる政権よりも公明正大に実施する積りです。本日はその一環として統治機構の決定をお知らせします」

 日野の声が拡声器を通して流れた。記者達はプリントから目を離し日野を見詰めた。

「その説明をお願いする前に、どなたが国務総理になられますか?」

 元議員席のマイクに添えられた*質問はご随意に。釦早押し者が優先*に従い早速質問が拡声器から流れた。

「ネット発表通り5月7日連休明けの認証式後、午後に大臣の政策発表を行います。それまでは判りませんが、香山隊長か中西隊長が就任するでしょう。お二人は若い時からの盟友であり、私達の理論的指導者です」日野が答えた。

 日野は元議場の記者達を見渡し、質問が続かないと見定め説明を始める。

「まず国権の意思決定は国議で行います。国家非常事態には国家安全保障会議を招集し、4区分の指令部を発足させます。非常事態は発動、発動待機、発動準備、レベル2、レベル1の5段階とし、レベル1は怖れありの事態であり、常設の国家情報分析部が独自に発令し該当指令部に通告します。レベル2は国家安全保障会議が召集され、怖れありを確認する事態です。指令部は発動レベルに応じ機能と人容を拡充します。非常事態最高レベルの発動では、該当する指令部が意思決定と国権執行の最高機関となり、全ての情報と必要な人材が集結します」

 日野はA4資料"暫定憲法統治機構"に従い説明した。

「国富管理指令部はどの様な役割ですか?」

「国の財政状況及び国内外の国有資産や民間資産を掌握し、適切な管理を指令する役割を担います。特に国外では日本国資産凍結のリスク調査や資産取得の情報収集、国際通貨危機などにも対処します。まぁ経済・資源指令部が対外経済資源紛争とそれに伴う国内経済危機、又は深刻な経済不況に対処する指令部に対し、深刻な国富棄損の事態に対処する指令部とお考え下さい」

「指令部の指令官は総理ですね?」

「国家安全保障会議の議長も指令官も総理ですが、指令部はその権限の一部を副官に委譲する事ができます。副官は省又は国務府の大臣が就任します」日野は質問に答える。

 TVカメラが議場と日野を追う。日野はカメラを意識するでもなく淡々と喋る。

「国務府の治安行政総局は警察庁、海上保安庁を外局とし、警察庁、海上保安庁、検察庁の治安当局に対し組織規律と運用の両面から監督します。また警察庁は海上保安庁同様に管区本部、県警本部とは一体組織として運用します。機密情報総局は機密情報の諜報と防諜を行いますが、詳細は担当大臣の説明に委ねます」

「先走った質問ですが、機密情報総局は資料最後ページの機密捜査学校と併せ、私の様な年配者は旧陸軍中野学校、スパイ養成の話を父より聞いていますが・・・」

「統治機構の政策は本日の説明外と心得て下さい」日野はするりと質問を避けた。

「日野隊長は独裁政権のどの様な立場でお話していますか?」

「アァッ、申し遅れました。私は国務総理継承2位の官房長官を内定して臨んでいます。それから私達は独裁政権と呼ばれる事に何ら抵抗は感じませんが、皆さんも日本国民なら対外的な体面から別な名称でお呼び頂けたら幸いです」

 日野は申し訳なさそうにチョコンと頭をさげ説明を続ける。

「さて、各省の役割変更を説明します。まず予算編成は戦略予算総局が予算の枠組みと、重要戦略予算を決定し、決定に従い戦略予算と民生予算を別け財務省が編成します。民生予算とは国民の生活保障、医療介護、乳幼児と弱者政策、消費者保護、教育、消防と救急、防災対策とその活動の予算でして、それ以外を戦略予算としています。総務省は消費者保護行政、統治機構全公務員の給与規定などを担当し、くじとギャンブルを一元管理しますが、通信行政は通信行政総局に移管します。財務省外局の国税庁に預集部を新設して生活保障掛け金、医療介護保険金を集め預かります。経済産業省外局の特許庁に機密知財部を新設して、国家戦略上の重要な機密知財の登録と管理を行います。この機密知財は機密情報総局の防諜対象となります。国土交通省は防災政策を地方と共に担当し、消防庁を外局とし、海難審判所は司法府に移管します。ではお手元の資料に沿う質問をお受けします」

「通信行政総局のメディア対策とは情報統制とか検閲ですか?」

「そう云う被害妄想をお持ちでもよろしいが、意図は逆でして情報公開対策です」

 記者達は爆笑するが、その本音は不安がよぎる顔付きであった。

「最高裁長官も国務総理と同様に立候補し、キチッと選挙運動して選ぶのですね?」

「最高裁長官は各界推薦者を総理が3候補を選定し、選挙期間はこの7、8、9の3カ月を関西以西と、中部以北の選挙日に分け、全有権者の過半数獲得者を当選とします。国務総理と同様に過半数に達しない時は決選投票となります」

「最高裁長官の選挙日程は少し急ぎ過ぎていませんか?」

「その通りですが、最高裁長官の国家権力継承に鑑み無理を承知で実施します。ただ長官は司法の専門家の要素も然ることながら、司法府を統括する行政手腕が必要です」

「最高裁の判事はどの様に決めるのですか?」

「最高裁判官は最高裁長官と国務総理が推薦する者を国民官が選任審議し、国民官の過半数採決で選任します。分野別15名が毎年3名ずつ選任され、5年間で一巡交代します」

「国民官の任務を判り易く説明して下さい」


 佐原元幹事長家の居間、佐原はソファー端に凭れてテレビを凝視する。国民官の任務に質問が及ぶ。暫定憲法では完全なまでに国会議員の職が排除された。若造にしてやられたの感があり、じくじたる思いで失職の日々を過す。ただ若造が憲法草案作成の首席を約束通り任すなら、捲土重来の復権を果す希望がなくもない。拘束中は奴らの考えや情報が遮断されたまま、若造の考えに乗っかった軽率に悔恨の念を禁じ得ない。浜室も今頃は臍を噛んでいるに違いないが、今更彼と手を組むには自尊心が許さなかった。


 テレビは日野官房長官の答弁に入る。

「他に司法府関係の質問はありませんか?」日野は質問を促した。

「ないようですから国民官について説明します。今年7月政党推薦の国民官だけを抽選し2014年8月末まで1年任期で就任します。市区町村の首長選挙を9月に行い、10月1日就任、次回選挙16年9月とし任期3年とします。今年9月の首長選挙結果を反映し政党推薦、無所属応募の国民官を来年14年7月に抽選し、残り任期3年の17年8月末とします。16年9月の首長選挙を反映し、17年7月に任期4年の次期国民官を抽選します。これが国務総理の就任を今年9月1日とし首長と国務官の就任経過措置とします」

 日野は質問を待つそぶりを見せ一呼吸おいたが、質問がないと確かめ話を続けた。

「さて国民官の主な役割ですが、その1は行政府提出の予算案と法案を審議します。抽選された約千万人立法権者の投票過半数で予算案と法案は可決します。その2は国と地方の行政府、司法府、立法府の全統治機構の予算執行監視及び決算監査を行います。このために基準部会は、専門委員が立案する企業会計に準じる会計基準と監視対象を決定します。その3は罷免ついてですが、国務総理と最高裁長官、大臣と最高裁副長官、副大臣と最高裁判官の罷免審議をします。大臣と最高裁副長官は国民官過半数で罷免を可決し、且つ立法権者過半数の採決で罷免できます。国務総理と最高裁長官は国民官の罷免可決と全有権者過半数の採決で罷免できます。副大臣と最高裁判官、国民官自身は国民官過半数で罷免を可決できます。最高裁判官は選任審議を経て国民官過半数の採決で選任します。但し、タ・ダ・シですよ、暫定憲法では予算案や法案の立法権者の採決、国務総理と大臣、最高裁長官の罷免審議と採決は行いますが、総理はその結果に拒否権を行使できます。故に意のままに独裁政治ができると申し添えます。なお今日までの議員諸氏とは大いに異なり、国民官や罷免審議の対象になる官職者は、健康に支障のない範囲で通常勤務に加え、必要に応じて土日祝日や24時間勤務も有り得ます」

「7番目の抽選役職の選任と任期及び解任に記述する国民官の無所属割当応募者の資格審査は、何を審査するのですか?」

「国民会議事務局が無所属割当応募者の公募を受付けると、日本国籍で20歳以上、国家公務員試験合格者、政党員でない事又は選挙運動や、宗教活動の経験がない、5名の推薦人などの書類記載を審査します。なお全ての国民官は不正、怠慢、公募時の虚偽記載等があった時は、適正審査委員会の審査規定により審査し罷免します。刑事起訴の時は国民官の役割を停止し、有罪判決の時は罷免となります」

「適正審査委員会の決定だけで罷免ですか?」

「詳しくは8月末までに審査規定を公開します。罷免委員会で全員一致の時は委員会採決のみ、罷免反対者の主張によっては国民会議過半数採決で罷免となります」


 佐原家居間、佐原はテレビを見詰め聞き入った。ただ独裁を臆面もなく吹聴する意図を計りかねた。奴らは国民まで銃剣で威しつける意図を見せつけたいのだろうか。佐原は先ず推薦枠で国民官の配下を固め、選挙マシンをフル活用し自治体の首長を勝取る算段を考えた。佐原は携帯電話を取出し活動を始めた。佐原は権力を握る算段が次から次と溢れた。


 元の議場、日野官房長官と記者達の質疑応答が続く。

「国民官は予算案修正や法案を提出できないのですか?」

「勿論できます。但し修正や法案の提起前に国務総理の承認が必要です」

「ところで、この抽選では小政党は殆ど国民官が選ばれないですよねぇ。国民の少数意見は無視されるのですか?」目敏い質問であった。

「小政党は国民の信頼に足りる首長に選ばれる。まずこれが先決ですが、国民要望受付委員会を設けており、国民の少数意見を受止める配慮をしています。ただですねぇ、国民官の審議力、立法権者の判断力、私達の説明力、皆さんマスコミの報道力、この4つの能力を共に機能させ得ると国民を信じていますが一抹の不安は残ります。また多数の国民に立法権者を経験して頂くため、状況次第では任期を2年とするかも知れません。国務総理の

拒否権はこれら4能力の習熟期間を確保するためとご理解下さい」

 轟は日野が独裁政治に上手い口実をつけたと感じた。

「なぜ暦年予算に変更するのですか? 大変更を敢えて行う理由は?」

「11月に国家予算を確定し、12月に地方予算を確定し、正月を心おきなく休む。また国民が長年慣れた暦年の確定申告に合せました。それに寒い時期に企画し、暖かい時期に執行する。長年月の復興事業には特に必要だし、今後の国家事業を考えると良い機会だと考えたからです」

「まるで昔の一時期に存在した政権が望んで諦めた暦年予算ですか? 土建国家には都合がよいらいしいですが・・・」

「そうお考えになりたいなら反論はしません。長期に亘る震災復興も念頭にありましたし、国民が慣れている税務申告の期間にも合せました。但し国民が慣れ親しむ入学時期4月を変更する意思は全くありません。留学生のためなら夫々の学校が知恵を絞りなさい」

 轟は同年代の日野が原稿も読まず、時には皮肉で受け流す答弁に政権の片鱗を感じた。

「国と県庁、県庁と市区町村の関係が今一良く判りませんが・・・」轟が質問した。

「国の出先機関の大部分は県庁組織に統合します。地方総督は知事を統括し、県庁組織は国家戦略遂行の要となります。首長は民生を担い、個人の問題は市区町村が担う。知事は市区町村の格差是正などの調整役を担い、企業の問題は都道府県が担う。要するに国は幕府、総督は藩主、知事は家老、首長は家老に所属する侍大将の関係で地方を統治します」

「と云うことは、各省の権限が強化され巨大な中央集権国家になるのですね」

 若い男が質問した。日野はこの若い質問者が歴史を知らないと感じた。

「江戸時代の幕府は統治のため確かに巨大な権力を有したが、藩主も領民を統治するため広範囲な権限を保有していた。私達政権は地方毎に異なる制度を排除する中央の統治機能は護持します。外交、防衛、治安関係を除く中央官庁は国家戦略の企画監督を担い、相当程度の予算は地方域に配分し、市区町村が民政を執行しますから、それなりの地方分権になります。国土の狭い日本ですから地方に自治権と云える程の独立性は認めません。一例をあげますと、選挙単位であり且つ財政単位である民政執行の市区町村千7百余は、合併が無理なら財政単位に統合して減らす方向とします。逆に財政単位の大都市を区割し選挙単位の分割は地方の裁量とします。この場合の市が財政単位を担う限り、区との役割分担も地方の裁量とします。但し国は民政執行を司る財政単位の変更には必ず関与します」

「地方に相当程度の予算配分とはどの程度ですか?」

「現時点で計算しておりません。少し私達政権の意思決定を説明します。チョッと失礼」

 日野は喋り疲れたのか演台の置いた水差しの水をコップにタップリ注ぎ飲み干した。

「省の意思決定は総理から大臣へのトップダウンであれ、大臣から国議へ提出するボトムアップであれ、大臣指示のもとに副大臣、政務官と局長と課長が共に政策を練る。副大臣と政務官が省内横通し政策調整を行い、大臣と副大臣と政務官と局長の省会議で政策を決定します。副大臣は省内統率を担い、大臣は他省庁や地方総督との協議調整を行います。協議調整の事務手続は国務官房政策調整室が行いますが、この段階では総理補佐官が参加し、必要に応じて省の政務官や局長から聞取りを行い、他省庁政策との整合性や対外折衝の必要性などを含め官房長官宛に書類で意見を具申します。この意見を参考に政策は国議の全員一致でなく過半数賛成で決定します。閣議とは異なり国議は国務官すなわち大臣の過半数決定です」日野は過半数を強調し、

「但しですね、国務総理はその決定に拒否権を有します」と付加えた。

 日野は一呼吸おいて説明を続ける。

「外交上の対外折衝を必要とする案件の国議決定後は、指名された大臣がその折衝を担います。外務省は対外情報収集と提供、当該大臣の対外折衝の事務手続を支援します。各大臣は国議決定までは自由な発言を認めますが、国議決定後は反対を認めません。なお反対なら去って頂く、これは大臣も政府要人及び官僚も同じです。ただ政策決定には省益拡大や身贔屓が付着しますが、これは聖人君子や神様でない限り完全に防げせん・・・」

 記者席から“エェー”とも“ホォー”とも聞分け難い声が漏れる。記者達は正直過ぎる発言に戸惑いを隠さなかった。

 轟は気負い込んで釦を押し、

「政治家を退治した貴方達が官僚に今から尻尾巻くのですか? 国民は官僚も退治すると期待して支持したと思いますがねぇ」辛辣な質問をした。日野は笑いながら、

「官僚は何しろ洗脳と云う武器を駆使しますから、私達大臣が官僚と長年過ごせば洗脳されない保証はありません。それに身贔屓は人間の本能でして私達が重視する道徳教育や職業倫理教育でも歯が立たんでしょう。要するに私が云いたい事は省益で毒す者、毒される者を完璧に駆除すると上段に構えず、勿論その実態が皆さんと国民の力を借りて明らかになれば大臣であろうと罷免しますが、取敢えず官僚とは上手く付合います」

 言われて見ればその通りかも知れない。官僚を敵視して対立し、仕事ができない大臣は数え切れない。皮肉を込めながらも官僚の不安に対するメッセージを計算したのかも。

「統治機構の資料になぜ教育改革を記述しているのですか?」

「就任する大臣は全員が教育に一家言あります。国民も亦大多数が一家言を持っている筈です。統治機構と同様にこの国民的関心を無視できません。この際あえて申しますが、学校運営は住民に委ねます。しかし教育内容は国家が関与します。特に私達政権は道徳教育と職業倫理教育、歴史教育を重視します。各県には複数の教員研修所を設け、教員の教育能力の向上を考えています。公立、私学の教員を問わず教員研修を行います」

「それは全教員対象ですか? 思想研修も含みますか?」

「国家試験による教員免許制度に変えます。従って小中高の全教員が対象となります。新教育方法を研修し、国家試験合格と見做して教員免許を再交付します。どうも皆さんは独裁政権イコール言論統制、思想統制の固定観念と云うか被害妄想が組込まれていますね。特に皆さんは推測や予断のない客観的な事実を報道して欲しいですね」

 日野は記者達の多少カチンときた顔色を読取ったが、腕時計を眺め、

「そろそろ予定の時間なので切上げたいと思います。それから5月7日の大臣の政策発表では、統治機構に関する質問は止めて頂き、各大臣につき質問は原則1つにします。どの大臣にどこの誰が質問するか決めて下さい。では他に質問はありませんか?」

「あのぉ失礼ですが印刷せず貧弱な資料にした理由は、まだ色々変更するためですか?」

 日野には予期しない質問であったが、

「あぁこれねぇ、どうせ皆さんがキチッと印刷してくれるでしょう。それに多少まともなデザインで今頃はホームページに公開している筈です」

 この質問と応答に記者達が失笑した。

「教育が国民の関心事もさることながら、国務税制局とやらでいくら独裁ちゅうても好き勝手に決めて、毟り取られるのは敵わんですが?」

 些か品の悪い表現だが、質問の内容は核心を突いていた。

「御尤もです。ですがやはり勝手に決めさせて頂きます。国民が正式に意見を発言する場は設けます。所謂圧力団体の意見が通り、発言力の弱い所にしわ寄せする、それは断じてありません。論理的な正論を組立て堂々と発言し納得できるなら、その意見に従う事も有り得ます。税金に万人が納得はありません。大臣の大半が納得するならと云うことです。その意味で勝手に決めさせて頂きます。国務税制局や公正取引委員会の委員は各層の民間人に委嘱します」

 轟は緩急自在と云うか、硬軟際どい質問を淀みなく捌く日野の力量に改めて感心した。だがこの統治機構が正常に機能するか大いに疑問である。組織を動かすのは人である。国民は無能な人達が権力を握る様を多く見過ぎた。日野にこの政権の片鱗を見るとも、国は独りで動かし得ない。今や国民の支持が絶大な限りお手並み拝見を決込むしか手はないと思った。この質問が最後になった。

「では本日の説明を終ります。5月7日には統治機構に関する質問はご遠慮下さい。最後に今後は総理の正式名を国務総理とし、対外的には首相とします。有難う御座いました」

 日野は極めて丁寧にお辞儀して演壇を去った。轟の見るところ多数の記者達に爽やかな印象を残した事は確かであった。


 外観の貧相なビジネスホテル、国会議事堂を退去して以後、ホテルを借り切って占拠部隊の主要メンバーが逗留する。大きな違いは警視庁から私服のSPが周囲を警戒している事である。日野はSPの一人に身分証を見せてホテルの玄関を入る。

 ホテルの一室、日野がドアをノックして入る。応接セット、机上にパソコン、隅にテレビ、応接テーブルに拡声器付き電話機2台の殺風景な部屋である。応接椅子に座る香山と中西が振り返り日野を見る。日野はズカズカと歩み寄りソファーに座ると、

「俺の説明を見てくれたか? あんなところでどうだった?」

「御免、見る暇なくてやっとお前さんが帰る直前に折り合いつけたよ」中西が云う。

「そうか、でどっちが?」

「中西がな、外相は俺でないと勤まらんと言い張る。百歩も千歩も譲って俺が総理やる事に決めた」香川が云う。

「そりゃ良かった。総理は誰かって質問されて2人のどちらかと言って置いた。ワシが説明に行く前にサッサと決めりゃよいものを。まあ良かった、良かった」

「大臣内定者からの要望を待って今日中に副大臣を決めたいが防衛大臣がなぁ、安西和彦2尉を決めたいがどう思う日野?」中西が云う。

 防衛大臣は3人の間でも決めかねるものがあった。

「エェッ、選りに選って口八丁手八丁の安西を?」日野は驚く。

「ラッパ吹かすにはよいと思うし、どうしても駄目なら自ら辞める因果を含ませておく」

「香山隊長がそう腹を括るなら反対はしません。でも統幕長に一言挨拶してはどうです?」

 香山は日野の意見を受入れ、拡声器釦を押して卓上の電話をかける。

「統幕長ですか、香山です」

「おお君か、どこへ雲隠れしておる。警護の人数を送るがどうか?」

「有難う御座います。その点は警視庁から非公式にSPを派遣されています。実はお電話したのは今30歳になった若者、安西2等陸尉を防衛大臣に決めたいのですが、自衛隊内の統制はとれるでしょうか?」

「安西? 知らんなぁ。君が決めたいなら反対はせん。年が若かろうが上官に服従する、

隊の規律を忘れる君でもあるまい。まぁ後任には申し送っておく。心配するな」

「と云いますとやはり?」

「ワシや新田が安穏としておれる訳がなかろう」

「申し訳ありません」

「もう済んだことだ。南原は表立ったポジションにはできんが、君との連絡係として残しておく。後任は雲海清司海幕長を推薦したい。総理の決定を望む」

「雲海海将のご推薦重ね重ね有難うございます」

 雲海海幕長は即応隊の国会突入を最後まで反対した制服組最高幹部であった。

「しっかり最後までやり抜き給え、いやこら失礼。まあ頑張って下さい」

「若い大臣ばかりですから何かと御相談させて下さい」

「では」統幕長が電話を切る。

 日野がニャッと笑う。中西が目敏く見つけ、

「日野お前、挨拶に行ったな?」日野は素知らぬ顔し、香山と中西を等分に見て、

「大臣内定者に政策発表の練習をさせますか?」

「好きに発表させろ、長年討議した政策だ、今更つけ焼き刃の練習でもない」

 香山は3人で決めた大臣を信じた。

「と云う事は俺にも好きにさせて、テレビも見なかったって事か?」

「そうむくれるな、お前の発表中はやれ、やらんと白熱の議論が続いた。なぁ香山」

「そうだ、お前に仲裁を頼みたかったくらいだ」香山も相槌を打つ。

「それより日野、7日午前の認証式に着る式服の心配させろ」中西が云う。

「そりゃ大変、連休中だぞ。副大臣は間に合わん。副大臣の認証式は別の日にする」

「駄目だ、陛下に2度手間はお願いできん」香山が拒絶する。

「じゃ副大臣は式服なし、背広で統一させよう」香山も中西も頷く。

 丁度14時、環境大臣内定の梅原一等陸尉がやって来た。

「梅原、到着しました。環境省だけは復興専任副大臣と通常の副大臣2名のご指示だったため、候補5名の履歴を持参し、ご説明いたします」

 梅原は入口でドアに立ち敬礼する。

「我々研究会流の挨拶はもうええ。日野隊長の横に座れ。おい梅原、我々流の挨拶はするなと後で入口に貼り紙を出しておけ。来るたびされるとかなわん」中西が梅原に命令する。

「はい、判りました。本件終了次第そのように取り計らいます」

「こりゃいかんわ。少なくとも発表に研究会流の表現を使うなと釘をさす必要がある」

 日野は中西に話しかけた。香山も中西も異口同音に、

「そうだな、それだけは釘をさすか。式服の件と」

 こうして副大臣の選考が始まった。


 東京八重洲、勤め帰りの人々に号外が配られる。"平成建国政権 統治機構を発表"とデカデカの見出しが付いていた。全国紙の新聞社は競う様に号外を配った。人々は号外をむさぶるように読み、まだ手にしない人に手渡す人さえいた。どこの社の号外も平成建国政権の名称に統一していた。


 皇居正殿松の間、5月7日午前10時、長い背凭れ椅子の前に陛下が起立する。陛下の前に数メートル離れ大臣が前列中央に香山を配し、横2列に並ぶ異例の光景を見る。一同が片膝を床につき、陛下の前で頭を深々と下げる。香山が頭をさげたまま、

「陛下、この度は国を騒がし、国政を一ヶ月の長きに亘り停滞させ、陛下と国民にご心痛をおかけしたこと、深く深くお詫び申し上げます」大臣一同が更に頭を下げる。

 陛下は異例且つ突然の奏上に驚かれたご様子であったが、

「この度のことは双方がよく自制し少人数の犠牲であった事に安堵しますが、犠牲になられた方々の冥福を祈り、遺族の方々に深い哀悼の意を表します」とお言葉を賜った。

 こうして始まった認証式ではあったが、通常よりも極めて短時間に終えた。


 議事堂・元衆議院議場、午後2時、元議席には内外の記者団が座し、階上傍聴席は一般国民が参加して立すいの余地もない。元議席は先日同様にマイクが備わる。ひな壇に新政権の大臣が勢揃いする。入場のセキュリティチェックや腕章は先日同様だが、最大の異変は警備のため、元国会の衛視に変えSPとおぼしき治安当局者が多数配置され、これまた多数の監視カメラが作動していた。

 ひな壇左右両端に備わる各々2台のテレビカメラが記者団を映し、元議席後部のテレビカメラ2台が記者団後方とひな壇を映す。元議長席あとに備えた巨大なスクリーンは就任する大臣の一覧を映す。元速記席に立つ日野靖男国務官房長官の声が拡声器から流れる。

「お待たせしました。只今より画面の表示順に大臣の政策発表を行います。過日申し上げた通り統治機構は説明済みとし、各大臣には原則一つの質問とします。ではまず国務総理より発表します」日野が司会役を務める。


 国務総理・香山伸吾が中央演壇に降りて来て一礼し、多数のマイクに向い、

「まず国民の皆さんに国政の停滞をお詫びします。画面に表示した大臣は革命を主導した顔ぶれですが、これから発表する政策を長年に亘り討論し、熟知した者を任命しました。決して嘗ての軍国主義の復活を意図するものでないと予めご承知頂きたい。また各大臣の今から発表する政策は、政策大綱であって執行日程は逐次別途お知らせするものとご了承願いたい」

 香山は照らすテレビライトが眩しく、加減するよう身振りで示す。

「さて、私たち人類はこの星、地球の生きとし生きる者の王者として正しく生きていますか? 環境を破壊し、野生生物の絶滅を加速させ、自由経済の下に私達にも過酷な弱肉強食の生存競争を強いる。これが人類の英知ですか? そこで私達は国民の理解を得ながら自由経済政策に代え公平経済政策を遂行し、また国際社会の理解を得ながら国際共生同盟の創設に邁進します。これをこの政権の使命とします。公平経済政策とは何か、各大臣の政策発表からご判断下さい。では質問を」

 香山は原稿も読まず落着いて喋った。

「暫定憲法9条3項"国は国の独立と国際平和並びに国民の生命財産を守るためあらゆる手段を保持する。その手段は法律でこれを定める"あらゆるの意味を明確にして下さい」

「あらゆるとは1項2項を遵守する事と非核以外は、日本語通りのあらゆるです。独立国たる我が国の政策は毅然と遂行し、国連及び国際共生同盟を通じ国際平和に貢献します。3項は国家の義務を明記した至極当然な条項の追加です」

 総理は国内外の注目する条項を国の義務だと政権の一貫する主張を述べた。轟は自衛隊が名実共に軍隊になった、との感を深くした。ここに集う大多数も同感に違いない。

 恐らく質問者は集団的自衛権とか非核3原則、武器使用や武器輸出などの具体的な事柄を尋ねたかったと思うが、単に非核と発言し、あらゆるとは日本語通りと説明する総理の真意は、今日まで国論を分断させた重大事がいとも簡単に変った感を拭えず、轟は疑う余地のない軍事独裁政権の誕生を実感した。今は熱狂する国民がこの政権を長く支持すると思えなかった。誰もが更に突っ込みたかったが、総理は一つの質問で演壇を離れた。


 外務大臣・中西次郎が演壇に立つ。国務総理継承1位と表示されている。

「私は公平経済教の伝道師です。世界中に共生同盟教会の創設が私の役割です。公平経済政策は全て国産品の使用を優先します。外国資本が国内で生産する限り国産品とします。内外資本は我が国の法律に従い公平な競争を行います。日本企業も海外に進出し、当該国の法律に従い公平な競争を行います。内外資本の区別なく国内産品を優先使用する公平経済政策を認め合う国家同盟を共生同盟と名付けます。我が国は共生同盟推進のため、日本国内融資銀行と日本国外投融資銀行を創設し内外資本の相互進出を支援します。国際共生同盟究極の目的は人の生存に不可欠な食料、水、エネルギーを国産品で完全自給し、国民生活に必要な物資は国産品を最優先して輸入制限または輸入禁止します。更に今や文明の維持に不可欠なデータセンタを含む通信は、国籍条項を適用して守る事であります」

 中西は演壇に用意されたコップに水を注ぎ飲み干し、

「公平経済政策と真逆なTPPは完全に破棄します」

 記者席がどよめく。言わば大臣の抱負表明と理解していた記者達は、意表をつく外交政策がいきなり飛出し度肝を抜いた。記者達は暫く質問しあぐねる。落着きを取り戻すと、

「各国独自の法律の下で競争し、各国に無理難題な世界共通ルールを求めない。正に世界秩序の破壊的な主張ですが、世界各国が素直に受入れると思いませんが・・・」

「だから私は伝道師と云ったでしょう。伝道師は迫害を受けるものです」

 中西は自らを指差し茶目っ気タップリに云った。キリスト教国、欧米の記者達は爆笑し、日本の記者達は沈黙した。

「ですが公平経済政策はそのメリット故に世界の英知が必ず実現を迫ると確信しています」

 中西は確信に満ちた言葉を残し演壇を離れた。


 環境大臣・梅原真一が演壇に立つ。

「環境政策、原子力政策、復興事業を担います。原子力発電は即時発電停止と廃炉を基本とします。原子力の被害は国家が責任を負い賠償すればよいとする話でなく、国民と国土に数十年、あるいは数百年にも被害が及ぶ可能性を否定できません。まだ生まれない子孫に対し、今を生きる世代が責任を担うとする発想は不遜に過ぎませんか。よって今を生きるこの政権は未来に生きる人々のために、廃炉と放射性廃棄物処理に関して国際的に貢献できる技術開発を行います。原子炉の安全管理と福島原発ほか各地の原発の廃炉は、原子力管理庁が技術面を主導します。私達の政権は何にかと多くの専門家を必要としますが、総理は常々個人の能力や才能は認めるが、専門家と称する集団の才能は経験に照らし認め難い、と申しており私も同感であります。原子力管理庁にも国民目線の導入を考えます」

「電力なしに生きられません。今を生きないと子孫も生まれなじゃないですか、即時発電停止、ましてや全て廃炉は暴挙ですよ」

「ご意見は承りましたが、国民の節電、エネルギーの自給など総合な政策の下に即時原発停止と廃炉を進めます。本政権の根本政策ですから変更しませんし、例外もありません」

 梅原は原発に関し毅然とした信念を披露し説明を続けた。

「次に国家的な災害の発生後は災害復興の先頭に立ちます。復興センターは全ての権限を統括する中枢として専任副大臣と共に仙台へ移転します。復興センター長は私が兼務し、賠償の解決も復興の重要課題と考え、職権による賠償仲介並びに地域復興を加速します」

 NWHの記者、轟は原子力政策が易とも簡単に変更され、実行されんとする迅速さに期待する反面、独裁の怖さも拭い切れなかった。


 経済産業大臣・大島郁夫が演壇に立つ。

「私は金融機関と農林水、畜産を除く産業政策と知財政策並びに通商政策を担いますが、エネルギーの自給を優先して、あらゆる再生可能エネルギー5ヵ年計画の下に3000万KWの電力と、2年を目途に1000万KWの洋上電力プラットホームを建設します。廃止する原発の発電設備は、火力発電への転用も考えます。これ等は公平経済政策の国策に則り、国産品優先使用を貫きますが、伝道師の外務大臣に寄添い国外企業の国内進出を歓迎し資金面も含め支援します。当然日本企業の国外進出も支援します。但し国外へ進出した日本企業の製品は逆輸入を認めません。コストダウンのみを求めて国外進出した企業は他の方法で存続を模索して下さい。国内Uターンも大いに歓迎します」

 大島大臣は沈黙し議場を見渡す。質問者が立上り、

「エネルギーの節約に関する施策もあると聞いておりますが・・・」

「別途説明する積りでしたが大枠をお伝えします。まず0時から午前5時までテレビ放送停波と広告灯の消灯、及び自動販売機と一部業種の営業停止は即実施します。クーポン券を活用する効率家電の買換え促進、優遇税制によるエコ小型車の買換え促進を実施します。大型乗用車一人乗り運転日の制限、タクシーの乗合い化を要望に配慮しつつ速やかに実施します。これ等は当面の節約意識浸透を目的とし国民の協力をお願いする次第です。更に上限速度、燃費効率、安全性を強化した国民車とでも云う環境対応車の仕様を、国民及び関連業界と協議して定め、5年後には販売を始めたいと考えております」


 農林水産大臣・有明小太郎が演壇に立つ。

「私は農林水、畜産の行政を担当しますが、食料の自給を地方総督と協同して進めます。農水畜産各品目別に国内出荷数量を分母とし、国内輸入数量を分子とする比率を0から1にする5ヵ年計画を遂行します。農水畜産に関る食品を輸入又は販売する一定規模以上の企業は、2年を目途に各品目数量の3割を超える国産品取扱いを義務付けます。この3割は毎年比率が大きくなるとご理解頂き、自ら生産して参入又は国内供給者と直接契約等により実現して頂きたい。農産品に関しても国外進出した日本企業からの逆輸入は順次減少させ、最終的には禁輸とします。外国企業の国内進出は支援します。次に木材、紙パルプは天然産を原則禁輸し、植林材の輸入と国産品で需要を賄い、特に紙メディアは電子化を促進し5ヵ年以内に使用量半減を目指します。では質問を」

 質問者は満を持して質問ボタンを押し、

「食糧自給の向上は長年の政策が無為でした。自給が性急に可能か甚だ疑問に思いますし、国産品優先では食料品の価格高騰が目に見えるようですが・・・」

「休耕地の活用と大胆な規制緩和を行い市場経済に委ねますが、著しく高騰する品目は補助金を活用します。敗戦後の復興期に比べ技術も進歩しており、国民の知恵と勤勉で自給は必ず達成できます。そのため次々と対策を行います。日本の美しい林野を取り戻すため国産品愛用に国民の協力を要請します」

 質問者は次々の対策とは何かを尋ねたかった。濃密な大臣の発表に質問が一つでは甚だ不満が残る。記者達の思いが突発の質問となる。

「大臣への質問一つを取り下げて貰えませんか?」

「日時を改め大臣別の政策説明会を行います。本日は後の予定のため原則一つにします」

 日野は質問一つを譲らなかった。


 国土交通大臣・大崎豊が演壇に立つ。

「私は国土政策、道路河川交通政策、防災政策の広域行政を担いますが、現業部門は地方総督下の県庁組織が実行します。企画、指導、地方間の調整が主な役目です。さて国土政策として、外国籍者の土地所有は禁じ且つ既得の土地は2年以内に買戻しを強制します。また議決権株式の50%以上を外国籍の株主が所有する企業は、その所有する土地を借地へ切換えを強制します。外国人に所有を認めるには我が国土は余りに狭過ぎますし、今後の国土計画のため喫急の課題として実施します」

「永住外国人の土地にも適用するのですか?」待ちきれずに質問者が発言した。

「永住を認めた外国籍の個人は除きます。買取申請が半年遅れる毎に買取価格が逓減し、最大3割低減します。早く申請をお願いします。また永住を認めた外国籍の方の個人企業が所有する小規模な土地は除外措置も用意しています。6月より受付を開始しますから県庁の窓口にご相談下さい」

 強引な土地政策ではあるが、轟は遅きに失すると感じ、基本的には賛成であった。


 文部科学大臣・伊藤秀雄が演壇に立つ。

「教育制度は先日発表の通り大幅に変えます。新教育制度に移行しない学校法人は、来年から入学金を全て課税収入とします。3ヵ年間で早急な移行を望みます。公立小中学の義務教育は給食費を除き無償とします。国定教科書は公私立を問わず無償とします。且つ小

学5年以上はIT教材化を推進します。なお全ての教育内容は国の方針に沿い改訂します。教育達成度も国が関与します。質問どうぞ」

「制度だけ弄っても組織がついて行くでしょうか?」

「記者の皆さんはなぜネガティブ思考がお好きですか? 生命を愛し、人を愛し、日本を愛する教師が育つと、後は指導テクニックを身につけるだけです。ゴルフや各スポーツはフォームが悪いと幾ら練習しても上達しません。夫々の職業には倫理観が代表する基礎的なフォームがあります。記者の皆さんは職業フォームを身につけ、記者のテクニックを習得されましたか。私達の政権はフォームの上に広い知識や職業知識を習得する。また国民が立法権を直接所有するに当り一億総評論家では困ります。国民レベル相当の政治家しか現れないとも云います。どの様な政権が泡のように生まれ消去っても、国土と国民は永続させねばなりません。国民の政治的成熟も考え国家100年の教育制度を構築します」

 中年の質問者は反論に窮した。伊藤大臣はコップの水をタップリ2杯飲み干し、

「次に文化政策は変更ありません。科学政策ですが、国は人文、社会、理工バケ学、医療医薬の研究開発を法人団体が行います。従来の大学院はoo大学研究院と名を改め、高度な研究者や開発者を育成すると共に、ニーズに合致する研究開発実績に応じ予算を配分します。xx研究開発機構は国策の優先順位で予算配分し研究開発を行います。食料、エネルギーの自給、医療医薬、通信セキュリティの各分野が優先します」

 伊藤大臣は質問を求め元議場の記者席を見渡す。

「実績がないと予算配分なしですか? 具体的な優先研究開発項目は何ですか?」

「研究開発機関は税の免除項目が多いのですが独立採算が前提です。無駄と思える研究も認める、これは研究機関の裕福度、社会の裕福度が決めるでしょう。日本は極貧社会ではありませんから予算0には極力しません。但し人類の研究開発には研究は許しても実用は罷りならんテーマも存在します。個人的には原爆や核爆弾に続く原子力であった思います。その様な危険な実用化は人類の英知を結集し阻止します。さて具体的優先テーマは藻類による燃料生産の実用化、メタンハイドレード生産の実用化、野菜の工業的生産化、医療医薬分野では再生医療、ウィールス性疾患対策、精神疾患と脳障害治療ですね。また通信セキュリティは水の毒物混入と同様に社会の崩壊を招きます。電子政府と電子投票の普及させるにはハード、ソフト、システム面の安全が焦眉の急を要する課題です。なお戦略研究開発評価機構は優先的且つ戦略的研究開発のテーマ選択と、各研究開発機関が提出する自己評価をベースに客観的な評価を行い、その予算配分に反映します。また研究開発テーマ別に補助金の適正な執行を監査します」


 厚生労働大臣・東健治が演壇に立つ。

「私達政権はダブルインカムによる所得増大と経済成長を至上命題にします。75歳未満で健康に支障のない老若男女は能力に応じて働いて頂き、職業訓練の場も提供します。私達政権が目指す社会保障は、国民自らが責任を持つ生活保障と、企業が責任を持つ医療介護保険と、政府が責任を持つ全国民雇用、この3点セットで国民の安心を担保します。生活保障とは後ほど説明する非退役、退役世代の年金給付と、現役世代の健康支障又は離職時の一時的な生活給付です。年金は20年満期、65歳から受給できます。生活保障は唯一の新制度、日本年金に問答無用で統合し、全国民が加入します。現役の方は収入に応じて掛け金を負担します。また40歳未満の今後の新規加入者に限り、自己積立方式の年金とします。いずれの年金も加入者一代限りの受給とします。最重要点は生活保障の原資を加入者国民自ら掛け金で負・・・」

 記者席がどよめき、質問者が話を遮り立上りかける。

「ここは重要な話だ。最後まで聞きなさい!」

 東大臣が大声で叫び質問者を留める。そして話を続ける。

「掛け金は加入者自身が負担し、加入者が現役中に生活給付を受取った時は、その分の年金給付が減額されます。医療介護保険は企業の全額負担とします。労災保険も現状通り企業の全額負担です。従って加入者と企業の負担総額は大差ない制度設計を考えます。企業は労働力確保と労働損失を防ぐため従業員の健康と、健康に支障がある人々を含む全国民の医療介護を支え、その生活は国民自らが支え、国は企業の成長と国民の雇用を支える。これが公平経済政策と表裏一体をなす私達政権の社会保障理念です。医療介護は一部窓口負担を残しますが、全国民が安心して公平な医療介護を享受できます。且つ国民は個人の能力に応じ生活保障を得られます。また独自の企業年金はご自由にどうぞ。国は民間保険会社が企業年金を安全に管理する法整備と、その監視機関を認証する以外は一切関与しません。では質問をどうぞ」

「従来の様に個人が医療介護保険金を支払えないため、医療介護を受けられない不安の解消では画期的ですが、これらの抜本改革は大幅な増税となるのですか?」

「今は何ともお答えできません。国民の安心は国家経営と、企業経営の効率化を含む総合施策から導き出す国民最大の判断事項になります。この理念を堅持し、制度のシミュレーション結果を隠す事無く国民に逐次示し、その選択を委ね今年中に結論を得て2年後から実施します。私達政権は国民安心の精緻な土台を創ります」

「各大臣の発表は何だか夢の様な政策ばかりですが、素直に信じてよいのですか?」

 女性記者が我慢できず質問する顔つきである。東大臣は笑いながら、

「国民の支持がある限り成し遂げます。国内外のいわゆる抵抗勢力が私達の破綻を心待ちしているでしょうが、私達政権は国民の支持を信じて諸政策を遂行します。当然ながら、働く女性のために小学生未満児は本省に一元化し、所得制限つき無償とする保育知育の制度を充実させます。これは女性の働く場を拡げるでしょう。さて先ほどの非退役世代の件ですが、65歳以上75歳未満を非退役世代と位置付け老若男女共に、フルタイムでなくとも何等かの就業を要請します。この場合の年金給付は年齢に応じ20、15、10%のカットを考えており、例えば年間45万円をカットされた方はその3倍135万を得る職場に勤務し、年金45万をカットされるので実質の増収額は90万となります。雇い主はカット額45万を補填され、年間実質90万円で雇用できます。企業は補填された45万を医療保険に充当できます。非退役世代の雇用は企業にとり医療保険金の低減と労働力確保に役立ちます。この非退役者と派遣を認める26業種を除き正規雇用を義務化します。正当な事由での解雇も柔軟に認めます。若年、中高年層の雇用は国内需要を確保する公平経済政策によって吸収しますが、働ける方の生活保障給付を回避するため、不本意な職場に短期間従事して頂く事も有り得ます。動員では御座いません。国民の勤勉性に鑑み、少子化時代の労働力確保とお考え下さい」

 東大臣は質問一つに拘らず演壇を去らなかった。

「専業主婦を堅持したいとか、生活に困らないから働かないと云う人々も強制しますか?」

「今云いました。動員とか強制労働の意図は一切ありません。働く必要がない方も掛け金は支払って頂きます。この様な方は現役世代中の生活保障給付はしません。非退世代ではカットした年金、退役世代では年金が掛け金に応じて受給できます」

「厚生労働省の生活保障給付計算機構とか医療介護給付電算所は何をするのですか?」

「生活保障計算機構は国民各人の掛け金と生活給付、年金給付の計算と履歴を管理し、市区町村は計算機構のデータに基づき給付実務を行います。医療介護給付電算所もまた国民各人の医療介護給付データを管理し、市区町村は電算所のデータに基づき給付実務を行います。地方毎の医療介護保険支払団体は、医療介護機関が発行する請求書の妥当性をチェックし、個人別給付データを電算所の電算機に入力します。電算所は単なる電算機の管理とデータの保管ですが、計算機構は文字通り給付データを計算し管理する違いとなります」

「先程の企業年金も民間保険会社の利用が前提のようですが、社会保障関係者も失業者がかなり多く出そうですが・・・」

「でしょうね。ですが国も企業も効率経営が不可欠です。各大臣の政策を実行すると職種のニーズが変ります。冒頭に云った職業訓練の場が重要になります。職業学校や保険会社は増員が必要かも知れません。なので本省が労働力調査を担当し、非退役、現役の各世代別に就業状態別人口統計を発表します。現役世代とは15歳から64歳までの労働力人口とし、非労働力人口は通学者と、収入の有無に関係なく健康支障者に限定します。健康支障者は実働8日未満と8日以上の数に分けて調査し、企業と共にその低減に努めます。医療介護給付電算所に保管する個人の病歴と治療データは、75歳以上の方も含め個人情報は伏せて医療や行政の各機関に活用させて頂きます。労働力人口から就業者を引算した数を失業者としてカウントします。但し失業者は1カ月未満の雇用契約で就業した者、全く就業できなかった者、働く意思の無い者、就業不要な生活可能者の4通りに分けます。前3通りを雇用政策の柱としキメ細かく対処します」

 東大臣は質問の途切れたのを見計らい演壇を去りかける。

「大臣もうひとつ、現状の複雑な制度からお考えのシンプルな制度へどの様な方針で切替えるのですか?」東大臣は演壇のマイクまで引返し、

「それを話せば大変長くなります。政権は抜本的な対応策を持っていますが、シミュレーション結果の公表時に説明します」東大臣が立去る。


 元浜室首相の派閥事務所、新政権の政策発表を聞くため、派閥傘下の全員を招集したが、集ったのは30数人中6人である。浜室は今日のために大きな80吋のテレビを用意したが、番頭格の議員まで参加しない事態に心が折れる自分を感じた。テレビの前に置いた椅子の空席は政治生命の終りを感じた。浜室は無言でテレビを見詰めた。


 総務大臣・柏木隼人が演壇に立ち、説明を始めたところがテレビ画面に映る。

「地方政策として地方格差是正を中心とした政策指針と支援を行います。人事政策として国家公務員給与の決定、採用、抽選、公募の事務一切を行います。地方公務員の給与指針、採用指針を決定します。指針とは地方が守るべき範囲を規定します。地方総督、知事は指針の範囲で裁量権を有します。次に消費者保護政策は地方と共に遂行します。その一環として宝くじ、競馬競輪ボート、オートレースのギャンブルは本省に一元化し、規則を定めます。なおスポーツくじ廃止、パチンコは景品交換を廃止し、ゲームセンター同様に機器使用料で経営して頂きます。質問をどうぞ」

「県庁組織は市区町村自治体の民生には関与しないのですか?」

「過日も日野長官が説明し、金太郎飴の説明になりますが、地方総督は藩主、知事は県の利益代表ではなく家老であり、自治体の長は家老に所属する侍大将です。民生安定は藩主の国策遂行と同様に行政の要です。本省は石油関連諸税を確保し、地方域の格差是正調整後に地方域へ配賦します。地方域はタバコ税酒税全額を確保し、石油関連諸税と併せて県域格差是正、市区町村格差是正調整後に総督、知事を介し市区町村へ配賦されます。これ等は8兆円超える市区町村のひもなし財源となりますが、財政改善に努力しない自治体は報われません。また先程の生活保障も各人の努力が最大限必要ですし、企業も国産品使用優先と云っても国内の企業競争はなくなりません。公平経済政策は非能率、無愛想の代名詞であった社会主義国家を目指していません」

「競争と云われますが、電力会社の競争はどうなります? 担当外ですか」

 テレビは質問のトーンが挑戦的な質問者を映し、質問に答える大臣に戻して映す。

「担当外ではありますが、今は不足する恐れのある電力をどうするかの問題が優先します。それは避けて通れませんが、いずれと云う事でご納得頂けますか?」


 浜室派閥事務所、浜室は柏木が冷静に答弁する画面を眺め、自分の閣僚なら担当が答弁するが、担当外が答弁する内閣を理解し難く感じた。

 別の質問者が映り質問する。

「不足する電力を云うなら原子力発電の発電停止は問題でしょう」

 テレビは速記席の日野を映した。

「原子力の問題は環境大臣が説明しました。話は総務省に限定して下さい」

 浜室はこの発言は順当な司会捌きだと考えた。別の質問者を正面から映す。

「ではもう一つ質問させて下さい。消費者危険情報機構って何ですか?」

 テレビは議場後方から議席風景を映し、ズームアップして柏木を映す。

「読んで字の如く、消費者、国民に危険な情報を登録します。企業、消費者団体、地方の消費者行政組織から寄せられる情報を機構の職員が民生品、産業品、医薬品の分類別に登録します。国民誰でも検索し危険情報を知ることができます。登録情報は当該企業に通知します。企業は対策して危険が除去できた時は、その証拠書類と手数料を添えて情報の削除を申出ます。審査して登録を削除します。登録と削除時にはマスコミを通じ公表します。なお危険情報の登録を拒み、実害が生じた時の賠償額は最大1桁多くなります」

 浜室はどの大臣も好き放題に政策を語る点を羨ましく感じる気持はあったが、それ以上に議会が選ぶ最後の総理大臣であってはならい。今後の政党政治を如何に立て直すか、心を奮い立てなければ、心が折れる時ではないと考えた。だが特段のアイディアが浮ぶ事もなかった。かと云ってあの男と手を組む気にもサラサラならなかった。


 元の議場、防衛大臣・安西和彦が演壇に立つ。

「防衛政策に大きな変更はありません。50歳未満の立法権者が投票を棄権した時、3日間のペナルティ訓練を行います。訓練はそこそこ厳しいため正当な理由のない棄権は止めましょう」

「なぜ訓練ですか? 軍国化の手始めでしょう。訓練に参加しないとどうなります?」

 最年少30歳、安西の発表を遮り急遽浴びせられた左翼系らしい質問に、ひな壇の大臣達はギクリとした表情である。香山総理だけは苦笑いしながら安西を見詰めていた。

「随分ご立腹の様子ですが、立法権者は一億有権者の立法権を代表する重責です。私達がここに存在する理由は、立法権の重責を軽んじた結果だと思って下さい。と云う訳で、重責を負う認識は厳しい集団生活の中でしか確立できません。自衛隊員と共に厳しい規律と集団生活を体験して頂きます。正当な理由なく訓練を拒んだ時は警察留置場に6日間泊って頂きます」質問者は安西大臣の巧妙な反論に愚の根もなかった。

 安西大臣は記者席をギョロ目で撫で回し続ける。

「明日沖縄県知事と普天間問題を話合います。沖縄の負担軽減に関する懸案事項は迅速に決着させる積りです。はい質問」

「十数年もめ抜いた問題がそう簡単に決着すると思いませんが・・・」

「またネガティブ思考ですか? では私が大言壮語致しましょう。この問題の処理速度がこの政権の政策実行速度だと考えて下さい」

 また安西が余計な事をと大臣達が顔をしかめる。中西大臣が苦笑する。

「腹案でもあるのですか?」

「国家秘密です。私は誰かと同じ事は云いません」

 記者達が爆笑する。安西大臣が立去る。


 財務大臣・霧島達郎が演壇に立つ。

「威勢のよい各大臣の政策と大言壮語もお聞かせ頂いたが、先立つモノが先立たん事にはどうもこうもできません。では国民から頂く嫌われ話を先ず致します。日本国籍を有する限り、国外に住む方も収入に応じて税金を納めて頂きます。国外に住むと納税を免れる。今後は駄目です。但し、居住国と税務条約があれば居住国に支払った額は差引きます。居住国の税金が日本の税金より多い時は日本の支払いは発生しません。日本国民及び日本国統治下に居住する何人たりとも日本国税法に則り納税義務を免れません。また3千万から5億円以上の課税所得には、50%から80%の累進税を来年から2年間課税し、その後3年間で低減します。偶然2年間だけ高収入だった不運な方、例えばスポーツ選手、芸能人他を救済するため、2年後から一定額を還付する措置も講じます。消費税は5%を維持し、課税、納税の仕組みは現状通りとします。宗教法人、団体を含む全ての法人や団体は課税収入の35%を課税します。なお企業は国産品の優先使用で国内需要を確保される代償として、65歳未満現役世代の雇用責任を有し、その責任の度合い応じ大企業には最大5%の加算課税、中小企業には最大5%の減算課税制度を設けます。納税は国に一本化し個人は国税のみ、法人、団体は市町村の固定資産税と国税のみとなり、県税の類はありませんから、納税、徴税コストの大幅な低減となるでしょう」

「大企業と中小企業の区別、責任の度合いとはどの様なものですか?」

 大臣の一段落を待ち、間髪入れず質問が飛んだ。霧島大臣だけは演壇の資料に時々目をやり喋ったが棒読みではなかった。記者達は各大臣が何の資料も見ず説明したと今初めて気づいた。霧島大臣はその質問は想定内の如く質問者を見据え、

「大企業と中小企業は売上高と資本金を指標に用い、責任の度合いは業種別に従業員一人当りの売上高と一人当りの経常利益、売上高に占める人件費等を指標とします。一人当りの売上高とか経常利益がよく、人件費率も小さい企業は株主には優良企業でも、税務上は雇用責任を果していない企業と見なします。一人当りの売上高が過大な企業は、雇用を増やす責任があります」

「国民は税制に苦情の申立てできないのですか?」

「国民の声を聞く場は設けますが、圧力には屈しません。論理的に意見を述べて下さい。何しろ失われた20年を脱出するため、少なくとも当初2年は過大な負担をお願いしたい。そうは云っても医療機関の医療収入、学校法人の授業料と入学金収入は課税しません。入学金の非課税適用は新教育制度の採用校からとします。利息や配当、株式や金融商品及びFX為替取引の売買利益は取引毎に15%の分離課税とし、実需為替取引の損益は総合課税とします。個人、法人、団体による寄付金は、寄付受付認可団体の領収書により課税収入から引算します。但し累進課税ランクを一段下げる目的の寄付は認めません。認可の基準は寄付金の最低限90%を超える正味寄付が可能な団体が対象となり、認可団体以外の寄付金集めは禁止します。税制の詳細は財務省のホームページを見てご検討下さい」

「そのホームページですが、外国送金禁止企業のリストが掲載されています。国外送金が酷く制限され、違反の罰則が強化された理由を説明して下さい」

「国産品優先政策では国内に販売拠点のない有形無形の製品やサービスは、日本国内での販売を禁止すると同時に、その対価の外国送金も禁止します。掲載リストでお解りの通り大多数がネット販売の企業です。リストの企業は今年9月末までに国内に販売拠点を設けない限り実質的な輸入禁止となります」

「生活保障の掛け金や医療介護保険金は国税庁の預集部が集めると聞いていますが、その後のお金はどうなるのですか?」

「生活保障の個人掛け金データは生活保障給付計算機構へ送り、お金は生活保障金管理運用法人へ送金します。給付計算機構の個人データに基づき市区町村が個人への支払実務を担当します。また掛け金の運用益には15%の分離課税を徴収し、その徴収額が同法人と給付計算機構の人件費経費を賄える事が理想です。運用益が赤字の時は人件費経費を税金で補填します。企業が供出する医療介護保険金は医療介護保険支払団体へ送金します。国民の窓口支払額と保険金とで全国民の医療介護費用が毎年賄える事が理想です。赤字の時国が税金で補填します」

「日本国内融資銀行と日本国外投融資銀行の役割を説明して下さい」

「近々改めて経済産業大臣が説明する予定ですから省略します」

 元速記席で司会する日野長官が口を挟む。

「質問一つの約束が崩れています。質問一つに再度お願いします」


 法務大臣・神崎哲夫が演壇に立つ。

「法務省に関しは懸案事項を迅速に処理します。不法残留者の一掃を図ります。国籍法を改正し、日本国籍は所定の期間に日本人たる研修を受けた者、又は教育若しくは著作などで研修を受けたと認められる者であり、且つ帰化を申請し認めた者に限り取得できます。単に婚姻による国籍取得を認めませんが永住権は認めます。婚姻による子供は15歳までは仮の国籍を付与し、15歳までは国籍の選択権を有します。永住権を取得し、永住する者と日本国籍者には2重国籍を認めません。また日本の徴税を逃れる目的で外国籍を取得した者は、特別の場合を除き国籍の復元や永住権も認めません。次に・・・」

「ワォー、君達はナチス同様に民族の純化を図る積りか?」外国特派員が無作法に尋ねる。

「その通り。暫定憲法第2条には、皇位は男系男子世襲のものであって、となっており、これに相応しい日本人の国家として存立させ、エイリアンの浸食を許さない」

 神崎は売り言葉に買い言葉で応じる。参集者は騒然となる。ざわめきが収まると、

「エイリアンは言い過ぎ、ナチスの残虐を再現する積りですか?」

「別にナチ・・・」神崎が答え始めると、

「いや大臣より、総理の見解をお聞きします」質問者は大臣の答弁を遮った。

 香山は足早に歩み、演壇に立つ。神崎大臣はその横へ退き立つ。

「質問は品位を持ってお願いしたい。神崎大臣は普段温厚にして激昂する男ではないが、まだ日も浅く、ここを占拠した体験が強烈に残っており些かの激昂があった。前言の取消を命じます。神崎大臣よろしいか?」香山は神崎に向き直り命じる。神崎は演壇に立ち、「真にお恥ずかしい次第です。前言、その通り、とエイリアン以下の発言を取消します」

 一件落着の様子となったが、強烈なタカ派の法務大臣を印象付けた。

「次に一部の刑務所の民間委託、特に検察の信頼性回復に関し、検察の取調べの可視化を早急に具体化し実施します。許される範囲で情報公開します。では質問を」

「裁判官、検事、弁護士など養成と任用は国籍条項を残すのですか?」

「国籍条項を適用します。但し在日一定期間以上の外国人が司法試験に合格した場合や、外国で活動する弁護士が日本で所定の司法学習を修めると、法廷で弁護士の支援を受けて弁護活動を認めます。知財審判所に限り活動し、国籍条項を適用しない知財弁護士を設けます。これらは日本進出の外国企業の利便性に備える一環です」


 国務大臣(治安行政総局担当)・曽根信也が演壇に立つ。

「指示命令権を説明します。国家公安総局には警察庁、検察庁、海上保安庁の全治安機関を規律監視する規律監視本部と、警察の運用を監視監督する運用監視本部とがあり、また警察庁は管区本部、県警本部の一体組織になりますが、管区本部に対する指示命令権は警察庁長官と地方総督にあり、地方総督の指示命令が優先します。これは地方総督が大臣格のためでなく、国民あっての治安維持の視点です。また知事は運用監視本部に直属する地方運用監視部を介して県警本部に指示命令権を有します。知事の指示命令が警察庁長官、地方総督の意向と相違する場合も、地方運用監視部を通じ運用監視本部が了承した場合は知事の指示命令が優先します」

「地方運用監視部は従来の地方公安委員会の許認可業務を引き継ぐとの事ですが、知事や自治体の長の意向は反映されるのですか?」

「逆に地方の条例に沿って許認可が行われます。治安行政総局は国民的視点に立つ強力な治安当局の監視機関とお考え下さい。監視官が治安当局に潜入する事はあっても、治安行政総局の組織が治安当局の組織内に同居する事はありません。ただ如何なる監視機関を設けようとも、組織を動かす人達に職業倫理が徹底し、職務に相応しいフォームを会得して日々の職務遂行しない限り監視しきれません。監視できてもモグラ叩きになります。本来各治安組織の自浄力が充分なら、規律監視本部や地方規律監視部は不要な組織ですが、残念ながら現状は不要に至っておりません。ここでも身贔屓の本能が健在です」


 東京都内、4階建ビルの1階に野上歯科医院がある。ビルが香山総理の妻、香山雅代の実家である。雅代は父が残した歯科医院を継ぐ歯科医である。1階は歯科医院、その隣に小ぶりな調剤薬局、2階は眼科と耳鼻咽喉科を賃貸し、3、4階は広いベランダを夫々に配して居住する。1、2階と独立の居住用出入口には警備にも都合のよい空地があった。

 今まで香山夫婦は各々の通勤を考え借家に住んでいたが、夫婦と子供達は警備上の理由から連休に実家へ引越し、母と同居したばかりである。


 ビル3階の居間、雅代は独り大臣の政策発表のテレビに釘づけである。テレビの画面は日野長官が香山を指名するところである。

「機密情報総局担当の国務大臣は総理が兼務します。総理どうぞ」

 テレビ画面が日野長官を映し、次に香山の演壇に立つ姿を映す。

「機密情報総局は公安警察と協力しますが、主に国の機密情報を明確にし国内外で防諜と諜報活動を行います。我が国もこれでやっと世間を下着で歩く姿からズボン姿となります。スーツを着てネクタイを締める状態までは相当な時間を必要としますが・・・」

 テレビは香山総理の発言を遮る質問者を映す。

「機密捜査員は殺しのライセンスも許可されるのですか?」

「そりゃハリウッド映画の見過ぎですね」記者席に爆笑が沸く。

「捜査権限はどうなりますか?」

 テレビは質問者を映し、直ぐ香山総理を映す。

「捜査員には捜査権はあっても、現行犯と逃亡阻止に限る逮捕権しか認めていませんし、機密情報として管理された外交や防衛の情報、及び民間では特許庁に登録した機密知財情報を漏洩又は取得する懸念がある人物及び組織が捜査対象です。機密情報としての管理を怠った時も捜査対象ですし、捜査対象は当然ながら処罰の対象にもなります」

「記者が機密と知らずに情報を取得し公開したどうなりますか? 運用次第では言論統制の強力な道具になりそうですが・・・」

 香山が人差指を演壇下の日野に見せる仕草を映す。あと一つ答えるとの意味らしい。

「皆さんは情報のプロです。際どい情報に接した時はまず一義的には記者個人、又は組織内で機密情報ではないかと勘を働かせ裏をとって下さい。運悪く抵触した時は情報の入手先を当局に開示して下さい。入手先の秘匿を貫くと記者と組織は処罰を免れません。次に言論統制とどこでどう結び付くか解りません。ただ貴方達は口を開けば言論の自由を錦の御旗にしますが、言論の自由で善良な市民が云われのない被害を受ける事実も忘れないで頂きたい」香山総理は立去り、テレビ画面から消えた。

 雅代は今テレビを見て、この様な日があるとは想像もしていなかった。あの議事堂突入前夜に伸吾は死ぬと覚悟していた。

 なぜあの夜、昔その父が日本の歴史を変え、世界の歴史を変えるために戦った、などと咄嗟の大法螺を気にかけていたが、大臣達の政策を聞き大法螺でなかったと安堵できた。


 結婚生活で無意識に感じるものがあったのだと納得するため、雅代は伸吾との出会いを探った。雅代が国家試験に合格し、母校の東京医科歯科大学歯学部付属病院のインターンだった秋の朝、最寄駅御茶の水を降り、病院へ向っていた時、自衛官制服姿の伸吾に道を尋ねられた。

「チョッとお尋ねします。東京医科歯科大学の付属病院はこの道でよろしいか?」

「はい、私も向うところです」

「あぁ、それならご一緒してもよろしいか?」

「えぇ、まぁ」雅代は“えぇ”と思ったが、特に不快感もなかったので同意した。

「私は知人が入院しているので見舞いに行くところです」

 歩きながら世間話をしたが、内容は忘れてしまった。

「じゃここで」

 雅代は歯学部病院に伸吾は医学部病院へと別れる間際、雅代の無愛想な挨拶に、

「私、防衛大卒3等陸尉の香山伸吾26歳です。よろしかったらここで12時に待ちます。昼食をご一緒願えませんか?」

 図々しくもナンパである。雅代は25歳、インターンの最終年である。年齢まで喋る自己紹介に呆れ、何とはなしに同意してしまった。腕時計は10時半であった。

 こうして始まった伸吾との交際が深まるにつれ、伸吾には人とは違う何か秘めたものを感じ魅かれた。父は自衛官との結婚に反対した。雅代に養子でも迎え同居する積りだったのか、各階を2世帯住宅にするビルまで手回しよく建てた。

 その父が還暦直前に脳溢血で倒れ、他界する間際に結婚を許した。交際から4年を経過していた。結婚後二人の述懐は伸吾がひと目惚れを認め、雅代も出会い直後のナンパに同意した点はひと目惚れの要素が多分にあったと認めた。

 それに加えつい最近、伸吾は自分の死後も歯科医師なら安心して子供を託せる、雅代以外に結婚相手はいないと打算のあった事を白状した。ただ野上歯科医院の一人娘だと一年近く知らなかったし、雅代も父の反対を隠し伸吾に伝えなかった。

 忘れもしない3月28日あの日、木曜午後は休診だった。買い物の時にクーデターの話はチラッと聞いたが、それが伸吾だと知ったのは夜のテレビだった。

 それでも議事堂占拠の一週間程前から落ち着のない伸吾の緊張感が雅代にも伝わった。それだけでなく公平経済と叫ぶ寝言を2夜までも聞いた。中西が占拠2日前にやって来た。雅代と伸吾と中西が夕食を共にした時、

「公平経済って何なの? 次郎さん、伸吾が寝言で2度までも云ったのよ」

 雅代は気掛かりな寝言を中西に尋ねた。中西と伸吾は顔を見合せ、

「そりゃ先生、厚生労働省の厚生、厚生経済の聞き間違いですよ」

 中西は事もなげに云った。中西の歯を治療して以来、雅代を奥さんと呼ぶのを止め先生と呼んでいた。中西とは事実婚の恋人ぐるみで付き合い、昔2人がハーバード大学で経済を勉強していた事も知っていたので、その時は納得した。

 その夜2人は徹夜で話し込み、明け方近くに中西は帰った。雅代は尋常でない二人に心を痛めたが、家族にも秘密の仕事が迫っているのだと思った。そうに違いなかったが、それは青天の霹靂だった。雅代が予想できる、いや国民が予想できる範囲を超えていた。

 今日テレビを見て公平経済の寝言は聞き間違いでないと知った。

「ママ、ただいま」息子達と母が帰って来た。

 母は息子達を幼稚園と保育所へ迎いに行ったのである。息子達の面倒を母に託せるから安心して診療ができる。雅代は息子達の騒々しい遊びに思い出から抜け出した。


 政策発表は続き、国務大臣(拉致被害対策 領土紛争対策担当)山中正平が演壇に立つ。

「先頭に立って汗を流します。色々な方策は決めておりますが、前もって発表はしません。従って質問もお受けしません。悪しからずご了承下さい」

 山中は一気に喋り、ペコッと頭を下げ演壇を離れる。


 元の議場、国務大臣(通信行政総局)担当・須崎雅彦が演壇に立つ。

「通信行政総局は電波と通信、電子政府の開発推進と運用支援、通信セキュリティ対策、情報公開推進とマスコミ対策の行政を行います。立法権者など新しい統治機構に対応する電子投票システムの開発や、情報発信法を制定し施行します。その骨子を説明します」

 元議席のマスコミ関係者が“そーら来たか”と緊張した面持ちで須崎を凝視する。

「その1、マスコミ各社は社として意思の発信、及びその社員や社員に準じる者が自社の媒体を利用して自己の意思や考え方の発信を禁じ、違反は処罰の対象とします。その2、意思又は考え方を発信する時は、冒頭に必ず個人名、又はどこそこ団体を代表する意見であると明示しなければなりません。この意見や考え方の発信は有料、無料を問いません。その3、何人も国の秩序破壊、個人の誹謗中傷あるいは法に触れる不当な利益を得る目的で発する情報、並びに推測や虚偽情報の発信は処罰の対象とします。その4、NHK及び全国ネットの民間テレビ局には、午後8時から10時のゴールデンタイムの毎週1時間、企画し自ら取材した行政情報の放送を義務付けます。視聴率が10%以下の時は更に30分の追加放送を義務付けます。BS放送も異なる内容で同様としますが、追加放送は求めません。その5、電波を利用する営利企業は、毎年電波の使用料を国へ納めて頂きます。但しその4の義務を果たす企業と、電子投票を無料にする通信会社は減免処置を講じます」

「何だかマスコミに対する嫌がらせの様に思いますが・・・」

 NWHの記者、轟は質問者の心情を理解できた。今にして思えばマスコミは必要以上に占拠隊の主張を無視し報道を避けた。良く言えば暴徒に加担しないと決めたマスコミ関係者の良識であったし、悪く言えば報道に信念の欠けらもないマスコミの事勿れ主義と言えた。この政権はまさか報復でもあるまいが、何となくマスコミに冷やかである。轟はマスコミ各社がこの政権と間合いどうとるか興味が湧いた。

「権力のチェックを自認するマスコミ各社に再度云います。真実の報道と誰の意見かを明示して情報を発信して下さい。経営者や社員など個人の意見や、真実の報道まで封殺はしません。但し自らの媒体で発信する事は禁止します。私達は立法権者に正しい情報の伝達と、時として云われなき報道に苦しむ国民を救うため、マスコミ各社の姿勢に変革を望んでおります」

「私は質問を許されていませんが、ぜひ一つさせて下さい」

 記者達が元議場上段の傍聴席を振返り見上げる。須崎大臣は立上って喋る男を凝視し、

「いいでしょう、特別に許します。どうぞ」

 記者の一人が無線マイクを男に向って投げ上げる。男はマイクを受止め、

「私はコンピュータソフトに携わる技術者です。電子政府の推進とか、電子投票もさる事ながら、各大臣のお話を聞くと国家、地方の運営に必要なコンピュータシステムの大幅な手直し乃至新規やり直しが必要と感じます。日本のソフト技術者の頭数を考えますと3年や5年の歳月を要しそうです。それを考えますと今までの政策は実行段階で絵に描いた餅の危惧を禁じ得ません。その点は如何お考えでしょうか?」

「お説はご尤もですがこの政権に悠長な時間はありません。今から発生する膨大な仕事量こそが老若男女の雇用と所得増大の源です。人夫々の能力に応じた効率的な労働を行い、目標は期限内に完遂して頂きます。私達は精神論で国民を引っ張る積りはありません。私達は我が国の知恵を結集し成し遂げる積りです。コンピュータと云う点で付け加えますと、来年から日本主催の通信セキュリティに関する国際矛盾賞を設けます。詳細はネット上に発表します。矛が勝つ年、盾が勝つ年もあるでしょうが、少なからぬ賞金を提供します」


 国務大臣(戦略予算総局・国務税制局担当)・宝源志郎が演壇に立つ。

「戦略予算総局は特別会計を一元管理し、国民から預かる生活保障、企業から預かる医療介護保険、外国為替資金、国債の特別会計に整理統合し、他の特別会計は逐次廃止します。また本政権が定めた9つの行政独立法人以外の法人など団体は、全て課税対象とし例外はありません。但し非課税とする収入は法律で定めます。次に予算編成は国務総理と、外務、総務、財務、戦略予算担当国務の4大臣が予算の枠組みと、重要戦略予算を決定し、この決定に従い各省が予算案を作成し、財務省が取纏め予算編成する仕組みです。さて国民が最も関心を寄せる国務税制局は税制原案を国民に公開します。各利害団体は税制原案に対し自らの主張を立法有権者に説いて下さい。報道機関には各利害団体の主張を色メガネ抜きの報道を期待します。この結果に従い必要に応じて税制原案を修正します。次に今後の予定ですが、本政権初の10月からの15ヶ月予算を編成します。どうぞ質問を」

「私は元地方議員です。官僚の退職金や今回の死傷した自衛隊員の補償は年内に支払い、代議士及び地方議員は所得税率のアップする来年に支払う。これは嫌がらせですか?」

 皮肉な質問者が現れた。

「皆さん議員の先生方は当然ながら、多数が一度に退職すると思っていませんから、先生方が編成した現予算に退職金は計上していません。官僚や自衛官の退職は現予算に一定額を計上しています。私達も予算だけは今直ちに右から左に変え実務を混乱させるわけには参りません。と云う事情をご了承願いたい。もしも質問の本意が、私達占拠隊と突入隊がなぜ同じ自衛官として補償されるかを問いたいのなら、たとえ目的は違っても国や公共のために殉じた人達に、国が官民格差なくその責務に応じ平等に補償する。これは本政権の根本政策です」

 宝は質問者の本音を推測しズバッと云ってのけた。


 官房長官・日野靖男が演壇に立つ。

「今後皆様と久しくお付合いする日野です。よろしく」

 日野は記者達に小さく頭を下げる。

「全ての国策は国議で決定しますが、各大臣が執行する国策の調整が私の役割です。さて今から執行する事柄を立法、又は法改正後に実施したのでは余りにも膨大な作業のため国政が停滞します。そこで今直ちに緊急執行法を施行し、当面の必要な法律を羅列し、関連法案を逐次改正するものとします。緊急執行法1号は只今国務のウエブに公開しました」

 記者達がスマホを取出し一斉にアクセスする。

「さて現在、国家安全保障会議は経済・資源指令部に対しレベル2の発動をしています。これはレアアースと石油資源に関する危機感、及び失われた20年の経済停滞が理由です。また国富管理指令部はレベル1を発動しています。膨大な国の借金と財政赤字が理由です。毎年の財政赤字で借金が増え続ける体質に大臣は危機感を共有していますが、差迫って破綻の怖れありを確認する事態ではありません。しかし国際的に不安定な金融情勢ではレベル1の発動が適切と考えております。なお国家緊急事態を予見する情報は、国家安全保障会議の常設部門・国家情報分析部に全国家機関から伝達され、直ちに総理と私へ同時に伝達される仕組みですが、遅れのない情報伝達の仕組を再構築します。ただ危機情報は分析した情報を総理に伝えるか、生情報を即伝えるか、悩ましい部分があります。それらの点も踏まえて見直します」

「日野長官は先日、国策は国議の決定によると云われましたが、本日の各大臣の政策は国議で決定されたのでしょうか?」

 日野は隣に座る若い男に何かを身振りで示す。日野はスクリーンを指差し、

「認証式後の初国議で各大臣の政策を承認決定し、レベル2の発動も決めました。ご覧のスクリーンは各大臣が各省の政策羅列と、全大臣一致で賛成した署名捺印を映しています」

 日野は連休中に書類を整え、初国議で手回しよく各大臣の署名捺印を求めたのである。さすがの記者達も発足10日の政権が、実施は今後としても、これ程迅速に政策決定する不思議を感じずにはいられなかった。この様に政策発表は終了し散会した。


 国議室、午後6時、総理と国務大臣16名が集う。日野長官の国議開催に続き、総理は開口一番、「皆、今日はトチリもせずによくやった。ご苦労」と慰労し、

「今日からは秘密の研究会ではない。権力を握り国民相手に公表し執行する政策である。くれぐれも発言に注意し、真意が伝わりませんでした、と釈明する無様な醜態を晒さない様に注意願いたい。マスコミに真意は伝わらない、伝えられないと心得て欲しい。よいか」

「はい、隊長」大臣が一斉に返事する。

「おい、隊長はやめろ。ここは最高権力の国議だぞ」

「では対外政策の担当を決める。対外政策は中西隊長、アッと、中西大臣の指示に従え。具体策は国議決定後に執行する。忘れるなよ。中西大臣、説明願います」

 香山は中西に話を引き継ぐ。

「総理と私の外交方針は概ね理解していると思うが、正式決定するため改めて説明する。全ては共生同盟を創設する外交戦略として統合し推進する。まず外務省ODA予算は政府間プロジェクトの対外支援に使用する他に、外事NPO連合会を通じ、草の根活動、民心掌握にも活用する。政府間の対外支援はODA予算の範囲で執行を所管大臣に委ねる」

 中西は安西を眺め、

「安全外交の基軸は米国である。基地問題の解決、防衛の対米協議は安西大臣に委ねる」

 中西は大島に視線を移し、

「経済資源外交は大島大臣に委ね、中東、米国、カナダ、オーストラリアを中心に全方位外交とする。民間と歩調を合せて推進する」

 中西は隣に座る有明に話しかける。

「有明大臣はEEZの漁業権問題の交渉と、農水林畜産の輸入制限に関し各国を説得せよ。輸入制限の説得は大島大臣も同様である。説得に際し互恵関係は大臣間の連絡協議の場を別途設ける」

 中西は山中の居場所を目で探し、

「次に領土、南北朝鮮の懸案解決は山中大臣に委ねる。北朝鮮は対話と圧力の硬軟対応とし、取敢えず北には政府高官の入国制限解除と団体はその都度入国許可を伝えよ。北への渡航は厳しく制限する。中国と領土問題はない、油田共同開発は攻め続ける。北方領土は4島返還を固守する。遠い時期と思うがロシアの度肝を抜く領土提案を私が行う」

 中西は各大臣をグルッと見渡し、

「アセアン諸国は日本の勢力圏として他国の進出を抑える。特にフィリピン、ベトナム、インドネシアは確固たる友好を固める。何を意味するか判るな?」

 大臣達は頷く。中西は香山に向き直り、

「東南アジア外交は私が担当するが、前述の3国は適切な時期に最初の総理訪問先としてお願いします」中西は総理と視線を合す。香山は頷く。中西は梅原に視線を移し、

「梅原大臣はCOP国際会議では米中印3国に明確な削減を迫れ、日本はCO2削減に当面無理をしない。長期的視野の削減を提示せよ」再度大島に顔を向け、

「大島大臣は水資源に関る基礎技術を機密知財に登録するよう企業に打診せよ。企業名はど忘れしたが少量の浄化剤で汚れた水を飲料水に変える企業があった、この企業の活動を政府間プロジェクトに格上げ応援できないか調査せよ。特にインドを狙え。中東は水資源、産業教育でも攻めよ。経産省はやることが多いぞ」

「承知しました。後顧の憂いがなくなりましたし、日夜頑張ります」

「おいおい、どっちを頑張るんだ?」

 誰かの発言に皆が爆笑した。大島は結婚を今月末に予定していた。大島は顔を赤らめ、

「やめて下さい。からかうのは」

 大島は安西の次に若い33歳であった。死を覚悟した同志は事実婚をしても、大臣の半数は正式に結婚していなかった。結婚はここの大臣だけが知る大島の秘密要請であった。

 中西は須崎を目で追って探し、

「えぇーと、須崎は傍聴席の質問を口先3寸で旨く捌いたが・・・」

「隊長、口先3寸は酷いですよ」

「こらっ、隊長でない、話を聞け。大島と協議してインドのソフト会社を日本へ進出させる算段をせよ。どう考えてもあの技術者の主張は妥当である」

「はい、意に従い行動します」須崎が神妙に応える。

「総理、ざっとこんなところですが」中西は香山の同意を求める。

「中西大臣がODA予算と外交担当について指示した通りである。中西大臣統括のもとに各大臣は外交責任者の自覚をもって全員外交を展開してもらいたい」

 香山は大臣を見渡し断を下す。更に安西を見詰め、

「安西、明日は沖縄の知事を訪問するのだな?」香山は防衛大臣に確認する。

「間違いなく訪問します。自衛隊機を使ってよろしいか?」

「いいだろう。日野長官どう思う?」

「派手にやったらいいと思います。判っているだろが私用で使うなよ」

 日野は同意したが、安西に老婆心を付け加えた。

「そのぐらいはいくら何でも・・・子供扱いは止めて下さい」安西は抗議した。

「大島の政策説明はいつだった?」香山は経産大臣に問う。

「今週の金曜日10日の予定です」大島が答えた。

「須崎、明日から2日でセキュリティ上履きとやらの準備は整うか?」

「顔面の自動照合は間に合いませんが、上履きは何とか間に合います。テストを兼ねて使用します。セキュリティチェックに時間がかかり、長蛇の列は不評でしたから」

 須崎通信総局担当大臣が答えた。日野は最後を締める。

「他に発言はないか?」日野は少し待ち、

「発言が無い様だから国議を終える。今後の定例国議では今日発表した政策について進捗報告を求める。それからまだ隊長の言葉を散見する。次回から苗字の後に大臣をつけ統一したいが?」これには即反応して霧島大臣が意見を述べる。

「元中隊長だけは大臣とか総理の職名で呼称するが、他は苗字だけで呼びたい。でないと何となく硬くなって研究会の活発な雰囲気の議論ができない」

 確かに秘密の研究会は中隊長に限り、隊長をつけて呼称し他は苗字の呼び捨てだった。「総理、中西大臣、柏木大臣どうしますか?」日野が尋ねた。

「大臣大臣と言われるとチョッと面映ゆいなぁ」国と地方の抑え役、総務大臣が照れる。

「霧島の云う通りやって見よう」中西が霧島に賛成した。

「そうしょう」香山も同意した。

「当面、霧島の意見通りとする。今日2回の国議は録音から要点のみを内容とする議事録にします。ではご苦労さんでした」

 日野が国議終了を宣した。皆の顔は緊張が解け、安堵感が漂った。


 総理官邸の執務室、午後8時、機密情報総局長がやって来て応接椅子のソファーに座る。応接椅子に座る香山がスピーカ付で電話する。相手は元幹事長だった佐原である。

「佐原さん? 香山です」

「おぅおぅ、こりゃ総理、就任おめでとう」

「いやどうも。例の憲法草案の件は約束を忘れていませんが、2年程待って頂けません?と云うのは、統治機構が私達の思い通りに機能するか様子を見たいんです。2年後に発足させますから、その間はお休みと思って下さい」

「そう云う事なら判りました」

「また内々に色々ご教授下さい。お伺いしますので」

「若いが君なら大丈夫だ。まぁしっかり頑張りなさい」

「取敢えず今晩はこれで」香山は電話を切る。渡辺総局長に向い、

「祭りあげる唯一の男だからな。違法にならん範囲で誰と会ったか程度を知らせてくれ」

「浜室は?」渡辺は香山の意向を確認する。

「浜室はいいし他も放置していい。愈々例の仕事に取り掛かってくれ。裏表から攻める」

「これは正式命令だね」

「おい、俺に確認させるな。阿吽の呼吸でやれ。いいな」

「幾ら国益と云え、お前も悪になるか。金は中西さんからか?」香山と対等の口をきく。「金の事は俺に直接云え。中西と接触して泥をかけるな。必要な事は俺が伝える」

「当局は一切関知しない、の類か、肝に命じておく。太く短くだ、少しは贅沢させろよ」

「判っておるが国の金だ、仕事には効果的に使ってくれよ」

 香山と渡辺はツーカーらしい。香山と渡辺の間に怪しげな密談が成立する。


 ビル4階・香山家のダイニング、5月8日、香山がパンとハムエッグとコーヒーの朝食を食べる。新聞を携えやって来た雅代が記事を指差しながら、

「伸吾、新聞に占拠中も政策の検討に余念がなかったって載っているわよ」

「どれどれ」香山は新聞を受取り、記事を読む。

 記事は"消息筋から漏れ聞いた話によると、約1ヶ月の議事堂占拠中も政策の検討に余念がなかったそうである。建国政権発足10日にして昨日の濃密な政策発表は、それを裏付けるに充分である"とあった。

「ここは占拠中の報道を最も抑えた新聞だ。誰が洩らしたか知らんがどうも大袈裟だ」

「でも国民は記事に喝采するわよ。ホントに検討していたの?」

「どう収拾するか頭が一杯で検討できる筈ない。緊張を解くため少しは話したかも知れんが忘れたよ。忘れる程度だから記事は針少棒大の類だ」

 雅代はマスコミに対する香山の不満を読取り話題を変える。

「そう、じゃそうしとく。ところで伸吾、私や子供は官邸に引越さなくていいの?」

「引っ越しは終った、その話は済み。俺だけが官邸でウイークデーを過す」

「若い綺麗な方を身の回りにお付けしましょうか?」雅代は真顔で云った。

「心にもないこと云うな!」2人は大笑いして朝食を始める。


 総理官邸の執務室、同8日午前8時半、根岸秘書が新聞を携えやって来る。新聞を総理執務机の片隅に置き、

「総理、大手造船の社長達がお揃いでお会いしたいそうです。大島大臣は例の洋上発電の話だろうと・・・13時半からですと30分程時間がとれます。如何返事しましょう?」

「早速か。官庁に張り巡らす情報網は見上げたもんだ。よし会う。但し商売の話は今後も官邸でしない。元衆院第一議員会館の小ぶりな会議室を用意してくれ」

「はい」根岸は携帯を取出し電話する。

「大島大臣ですか・・・総理もお会いします・・・元第一議員会館会議室を手配します」

 根岸は電話を切り「今朝の新聞をお読みですか?」

「あぁ一紙だけ。推測記事は許せんし、マスコミが自らの媒体で意見を述べるのは、検事が調書に自らの意見を書き連ねるのと同じで許せんよ」

「大臣の略歴、各省ごとの政策を一覧にして各紙ともよく書けていると思います。各国政府のコメントは全くありません」

「戸惑っておるんだろう。慌てることはない、そのうち外務省から情報が入る」

「中国の新華社が、異質な主張をする軍事独裁政権が日本に誕生した、警戒心を鋭くして今後を注視したいと簡単な記事を載せています」

「新華社ならそれが中国の間接コメントだ」

「イギリスの新聞に辛辣な記事が"白猫も黒猫もネズミを捕る猫は良い猫だ"と日本国民は軍事独裁政権を歓迎している。新聞まで平成建国政権と呼ぶに至っては・・・」

「どの新聞?」根岸は先ほど置いた新聞の束からイギリス紙を抜出し総理に示す。

「ああこの新聞か、日本国首相の写真を何度も間違えて載せる。大使館から注意しても、その後もまた間違える。彼等は確信犯だ、イギリス的ユーモアの積りだよ」

「総理はマスコミの報道を気にしないのですか? お友達内閣と元政治家のコメントも」

 香山は身の回りで異なる発想を期待し、秘書や補佐官は敢えて同志から選ばなかった。「誕生した内閣を批判する、それは野党政治家の習性だ。私もマスコミの情報は気にする。立法有権者や国民官に私の政策をマスコミにどう伝えさせるか、今まで以上の未踏領域に踏み出す。こればかりは訓練できなかった」

「総理のお考えを少し理解できた気がします。では会議室の手配に行きます。日野長官がお見えになる時刻です」秘書が立去る。

 9時15分、愈々今日から分刻みの仕事が始まる。日野がやって来た。

「電話した東都日々新聞の件、予定通りやりますか? 2正面作戦になりますが」

 日野は入口を入るなり総理の判断を伺う。

「火の手はマスコミと教員だけでない。千手観音でやるしかないだろう」

「それにしても昨日の今日とは早い」

「東都日々は関東一円の地方紙だが準大手の新聞社だ。全国紙が小手調べにやらした可能性がある。ここは出鼻を挫く」総理の断固とした決意である。

「まぁその可能性なきにしも非ず。では経産省の圧力も使い断固処置します」

 日野は要点だけ喋り、直ぐに立去った。


 元衆議院第1議員会館・会議室、香山が部屋に入ると、大島大臣と副大臣、大手造船4社の社長が起立する。親父世代の社長達に気を使い、

「あぁそのまま、どうぞお座り下さい。挨拶に抜きにご用件を伺います」

 香山は椅子に座る。社長達が座るであろう椅子より硬いなと思った。

「ではお言葉に甘えて早速ですが、洋上電力プラットホーム建設の話をお聞きましたが、総理は建設後の運用主体をどの様にお考えですか?」最も年長の社長が尋ねる。

「逆に皆さんはどうしたらよいとお考えですか? それも含めて提案して下さい。詳細な技術事項は大島大臣、副大臣や官僚で詰めて頂きたいが、私の考えだけ述べます」

「拝聴します」社長達が身を乗り出す。

「プラットホームは浮体式とし少なくとも1基10万キロワット以上の風力発電とします。固定式だと漁業補償問題で完成が遅れる。プラットホームは皆さんの造船技術により陸地沿岸部で完成し、曳航または自ら航行して適切な海域に設置します。今年中に設計を終え16年末には100基ほど完成したい。国産で可能か早急に提案して欲しい」

「一基10万キロワットは1台2500キロの風力発電だと40台、余裕を見て50台を設置する甲板面積がいる。最低でも1キロメートル平方の巨大な甲板になるが、日本の海域なら100基は問題なく設置できると経産省では試算しています」大島が補足した。

「はぁ巨大ですねぇ。問題は電力を送る送電をどうしますか?」別の社長が口を挟む。

「送電は確かに問題ですが、その前に国産の条件を云います。提案は何社かのグループを編成し、建造はオールジャパンとします。中小にも仕事を回し、雇用を拡大して下さい。可能な限り国産資材を使い、鉄板のために膨大な鉄鉱石の輸入は困ります。建設費、電力コストは火力発電と比較します。さて送電ですが私達の考えでは船に蓄電池を乗せ運ぶ。100基建設すると電力運搬船が少なくとも200から300隻、これは確実に中小造船所の仕事になる」

「これは壮大な計画ですが予算は?」

「予算は皆さんの心配事項でありません。技術とコストと完工時期ですね。皆さんがやれないなら、国外企業を国内誘致してやるしかありません。ですからやれそう、全く手が出ないの判断は6月末に示して下さい」

「2ヵ月弱ですか、何とか技術陣を督促します。雇用をお考えの事がよく判りましたから、造船屋の面目にかけて検討させて頂きます」

「総理、この席で別の水素製造の件を話してよろしいか?」大島が総理に尋ねる。

「ああ、あれ。良い機会だ、話しなさい」

「プラットホーム一基だけの試作ですが、本件と同じ風力発電を使い、海水を電気分解し水素製造したい。プラットホームを量産するから試作でもコスト的には安上りでしょう。これは本省も別チームが担当します。その積りで検討をお願いします」

「承知しました」社長達4人は香山に頭をさげ、来た甲斐があったとの顔つきである。

「他に聞きたい事がなければ私はこれで・・・」

「お忙しいところ気軽にお会いして頂き有難うございました」

 社長達は総理の口から、予算が心配事項でないと聞き安堵したらしい。香山は立去る。


 東都日々新聞本社前、東都日々の社員と取材の記者達でごった返していた。轟が情報を聞き、駈けつけた午後2時には警察の手入れが終っていた。

 東都日々はマスコミが自社の意見を掲載できないマスコミ規制に反対して、朝刊1面と最終16面を白地に“自社の主張は新聞の命”とだけを掲載し配達したのである。轟が社員に取材すると、容疑はゴミの不法投棄と資源節約法の無駄遣いであった。何ともこじ付けの手入れである。

 そして捜査結果が判明するまで、明日の朝刊から4面減頁発行を指示する行政処分が、通信行政総局から早々に言い渡された。更の大手製紙会社からは新聞用n紙購入契約が、一時停止を通知されたそうである。

 東都日々の社員達は取材陣に対し、

「皆さん、かかる理不尽、横暴の独裁政権を許すのですか、共に戦って下さい」

 と共同戦線を呼びかけた。

「誰か検挙ないし拘束されたのですか?」

「それはありません。証拠物件の新聞を集め持ち帰り、発行現場の写真を撮影しました」

 轟は既存団体と政権の戦いの始まりだと思った。国民が圧倒的に支持する政権に軍配が上ると予想した。国民と政権は蜜月である。今はまだ戦いの時期ではないと思った。


 沖縄県庁知事室、14時丁度、知事が息子に匹敵する若い防衛大臣・安西和彦と応接椅子に対座し、余人を交えず密談していた。

「知事さん、我々は南北朝鮮、中国、ロシアとの紛争問題を抱えており、アメリカとも基地問題だけでなく、我々の公平経済政策に如何なる反応を示すか未定です。少なくとも基地問題は何としても早急に解決したい。県外移設の看板を降ろして貰えませんか?」

「どの政権が何を云っても辺野古の埋め立ては無理筋ですなぁ」

「でしょうな。知事の公募も始まる事だし強引な手段を総理も望んでいない。そこで提案ですが那覇から20数キロ、渡嘉敷島から6キロ程離れた前島を国に貰らえんですか?」

「エェッ!! あんな山ばかりの島、旧日本軍も基地を諦めた島ですゾ」

「当時の技術ではそうでしょう。山の頂上を削って平坦にし、削った土砂は海に捨てず、山の斜面に擁壁を設けて埋め戻します。大工事だが2、3年で一部の基地運用が開始できます。渡嘉敷への距離も関空並ですよ。若干人は住んでいる様ですが殆ど無人島です」


 知事は唐突な提案に返す言葉を失った。安西は押し被せるように、

「どうです知事さん、公募までに残された時間は少ない。知事さんの名を残す最後の仕事として島民を説得して頂けませんか? 大工事で雇用確保できる、米軍を島に閉じ込める、基地の跡地は食料自給や観光に活用する。良い事ずくめですがねぇ」

「大臣はナカナカの人たらしですなぁ。参りましたゎ」

「では賛同頂けますか? 昨日の大臣発表で格好つけましたが、実の所これしか解決の手立てがないんです。島民の感触が得られるまで対米交渉は延ばします。この通りお願いします」安西は応接テーブルに頭を擦り付けて頼む。

「大臣、そ、そ、それは止めて下さい」知事は驚き安西の肩に手を添え、身体を起す。

 知事は嘗ての傲慢無礼な政府の対応に立腹していたが、純粋な若者に味方したい衝動にに駆られたが、そこは政治的に海千山千の知事。

「後進県の沖縄は金も欲しいが、基地の負担も軽減したい、交渉事だから満額回答は望めないが、総理は一体どの程度本気で沖縄の要望に真剣に取組むお積りか?」

「知事さん、本件は国内、対米共に交渉窓口は私に一本化していますので、知事さんと私の直通青電話を設けませんか? 要望は私に直接ぶっつけて下さい。青電話は本音を話し合いましょう。対米交渉では知事さんの経験豊富な知恵もお借りしたいですから。でも本音は伏せて表向きはお互い芝居も必要ですがね。どうですか?」

 知事は総理が窓口を託した理由を何となく理解した。あぁいや、こう云う、したたかな交渉術を感じた。安西は携帯を取出し電話した。

「玉木政務官はいるか? 俺、安西だ」少し待った様であるが・・・

「玉木、大臣室と沖縄の知事室に直通の青電話を極秘で明日中に開通させろ、明日中だ」

 安西は電話を切る。有無を言わせない電光石火の行動に知事は押された。渡嘉敷村長の説得を試みるしかなさそうだ。安西はそれを見抜くように、

「本格アセスメントは後になるが、ヘリの騒音は山頂から飛び立ち、本島側に降下すると、山が遮蔽して渡嘉敷への騒音は殆どゼロと伝えて下さい。感触次第で公開テストします。また渡嘉敷の要望も聞き取って下さい。実現に最大限努力します」

「そう事を焦っても・・・」

「いやいや知事さん、事を焦るのは県民ですよ。宙ぶらりんの現状はお気の毒です」

 これで知事の退路は完全に断たれた。知事と安西は固く握手して別れた。


 総理官邸・執務室14時半、執務机に置いたテレビ電話に総務大臣の在籍ランプが灯る。香山はテレビ電話の総務省釦を押す。柏木総務大臣の顔が映る。

「柏木隊長、関西の男に地方総督の公募を促して欲しい」

「はぁ、意向を確認し促します」

 第5中隊長だった柏木は目立つ事を嫌う男だが、仕事は緻密、正確無比である。議事堂内の衛視を見事に騙し、本隊の議事堂突入を密かに果させて隊長であった。

「もの申したい事も聞き出してくれ、もの申しに出向きたいなら会う。確実に選ばれる段取をつけろと中西が云っておる。これも付け加えてくれ」

「例のカジノに執着しているかも」

「あぶく銭に固執せず堂々と知恵と技で儲けろと伝えてくれ」

「承知、時に関東の地方総督は? あの爺さんかい?」

「まさか、あの爺さんはもう出んだろ。あの口と身体は残したい。爺さんもの申したくてウズウズしている筈だ。いつでも会うから来てくれと伝えて欲しい」

「そうしよう、他は?」

「今別にない。では」香山はテレビ電話を切る。


 教員組合本部、委員長が全国紙の夕刊に載る東都日々新聞に関する記事を熱心に読む。通信行政総局担当、須崎大臣が"マスコミが自らの媒体で意見を述べるのは、検事が調書に自らの意見を書くのと同じで許せません"と述べる談話が掲載されていた。

「情報は集ったか?」委員長は新聞から目を離し、事務机で執務する男達に尋ねる。

「教科書会社には小中高校向けの道徳教本の基本方針と制作日程が送られたそうです」

「それは入手できないのか?」委員長が尋ねる。

「まず検討会を設けるそうです。ただ文科省は来年4月からの実施は変えない方針です」

「大学の教員養成課程に教員研修の研修指導者を推薦する要請があったそうです」

「その研修指導者は誰が育成するのかね」

「既に文科省に育成員がおり、推薦者が集まると直ぐに育成講習を実施するとの事です」

「その育成員とやらの履歴を調べ給え」委員長は指示した。

「今日午前に総務省へスポーツくじの関係者が、存続の陳情に行きましたが、一言の下に拒否されたそうです。スポーツ振興の金は国が出す、くじは必要ない。文科省は国民の体力向上と健康増進のために広くスポーツを振興する。その結果で頂点の選手、プロ選手が生まれるのは結構な事であると云われ、歯が立たなかったと関係者が云っていました」

「そうかね」委員長は尤もらしい総務省の言い分に、関係者か挫けたかと思った。

「教員の組合活動、宗教活動の公私時間共の禁止は、治安、人命、裁判に関る人達は解りますが、教員までとは理解に苦しみます。そうでしょう委員長」別な男が憤慨する。

「人は国家の基礎、それを育てる教員は人命を預る職と同等ってな理屈をつけているのだこの政権は。だが組合潰しは明々白々。今時ストは国民の支持を得られない。頭が痛い」

 委員長は戦いの戦略が描けない。政権の言い分を予想する知恵はあるようだ。

「全教員の免許再交付ってやつが曲者ですね」

「全くだ。早ければこの夏休みから始まる教員研修を何としても食い止める。電光石火の早業に我々組織の動きが追い付かんよ」委員長が愚痴を云う。


 元衆議院議場、全国のあらゆる業種の大企業役員クラス、部長クラスと中小企業の社長クラス、マスコミ関係者が集い満席である。速記席の男がマイクを通して喋る。

「本日のテーマは特許又はノウハウ等の機密知財登録と、日本海外投融資銀行の利用方法ですが、その前にここへ入場される時のセキュリティについて、既にご案内致しましたが改めて簡単にご説明致します。今後は靴に上履きを被せてご入場下さい。上履きに仕込む無線タグによって皆様方の現在位置を確認させて頂き、上履きにより議事堂内の立寄れる場所を決めております。頻繁に入場される方は本日購入頂きましたご自分専用の上履きをご持参頂くか、議事堂近くに上履き預り所がありますからご利用下さい。他人の上履きと間違われた時は入門ゲートを通過できません。上履きは議事堂内の絨毯損耗を防ぐ意味も御座いますのでご協力をお願いします。ではお待たせしました。機密知財登録について特許庁機密知財部長・高橋和幸氏からご説明申し上げます。どうぞお願いします」


 男が高橋を促す。元速記席に座っていた機密知財部長が演壇に登る。

「高橋です、宜しくお願いします。特許庁に新設した機密知財部は、日本の産業基盤や社会基盤を支え、国外への流出は産業競争力の低下を招く知財の登録と管理が業務です。機密知財とは、世界シエアー50%以上とか、世界に自社だけしかない技術、あるいは単に門外不出を保ちたいと望む知財です。中小企業が卓越した金型技術又はノウハウをお持ちなら登録申請が可能です。工作機械業界も機密知財の宝庫でしょう。審査し登録できますと、その知財は機密保護法によって厳格に保護されます。取引先企業に力ずくで簡単に盗用される事態を防げます。この金型技術は製造業を底支えする基盤技術ですが、残念な事に盗用する意識もなく、その知財の重要性も理解する事なく、国外へ流出した例が数多く見受けられます。日本には沢山の機密にすべき知財が存在すると考えており、皆さんからの登録申請を待つだけでなく、世界的な産業状況を見据え、国家的に重要な知財の登録を積極的にお勧めも致します。ただですね、登録された知財は国外への持出し、売渡し、外国企業への技術移転ができませんし、機密知財として法に定める管理が必要です特に注意して頂きたいのは機密知財に登録されたノウハウを保有する人物です。この人物が外国企業に転職し、その技術移転を行った時は処罰の対象になります。またその人物が国内企業に転職し、技術移転を行った時も守秘義務違反として当人、移転を受けた企業共に処罰の対象になります。当人に課された制約を理由に、当人に不利な労働条件を課す事は、これも当人の雇用企業が処罰の対象になります。種々な制約を生じますが後で大臣が説明する充分な特典もあります。そして登録3ヵ年経過後には取消申請ができ、その時点の産業状況に照らして取消の可否が私達と協議できます。なおノウハウの登録申請は細部を公開する必要はありません。奮って登録申請をお願いする次第です。最後になりましたが、医療医薬関係は人類に便益を共有する観点から、登録が多少厳しくなります。では質問を」


「私の会社は防衛省の仕事をしています。機密知財登録が必要ですか?」

「防衛関係の納入品は、防衛省が機密知財と指定するものは自動的に登録されます。その場合、民需品と共用する技術であり、制約を望まない時は防衛省と個別に協議して頂く事になります。例えば兵器の性能秘匿はその製造ノウハウと共に機密知財と想定され、官民を問わず機密知財となるでしょう。機密知財情報は機密情報総局の監視対象になります」


「民間研究開発支援機構は機密知財レベルの研究開発だけを支援するのですか?」

 高橋は元速記席に座る大島経産大臣の顔を窺う。大臣は"答えろ"の趣旨で頷き返す。

「これは私の知る限り、従来同様に民間の有用な研究開発を資金的に支援する機関です。窓口は県庁に存在し支援申請を受付けます。機密知財レベルが申請条件ではありません」


「色々相談に応じて貰えますか?」

「勿論です。特許出願と違い登録されるのがよい、しないのがよいまでご相談させて頂きます。特に下請け仕事をして、親会社からノウハウ盗用の危険を感じておられる中小企業はご相談下さい。ただ親企業の担当者も盗用の意識はなく、大抵は仕事熱心の行動ですが、それが我が身に降りかかる競争力低下に繋がるとの認識はないと思われます」

 高橋は議席を見渡す。

「ご質問がない様なので私の説明を終ります」

「続きまして大島大臣、お願いします」男が大島大臣に会釈する。


 元速記席に座る大島が演壇に登り、前置き抜きに話はじめる。

「皆さんの企業が外国に子会社を設立し進出する場合、日本海外投融資銀行はその事業性を審査し、子会社への出資資本金の最大3割、投資案件と評価する時は融資と組合せ資本金の最大7割まで融資します。合弁企業でも日本企業が経営権を保持する限り融資しますが、経営権を失う場合は直ちに融資額の返却を義務付けます。これだけなら単なる銀行業務、投資業務ですが、業種に関係なく国外進出した子会社が、経営期の全売上に関る仕入金額ベースで5割以下であり、且つ日本の親会社から原材料、資材、半製品などを輸入する場合、日本海外投融資銀行に外貨を送金して円貨に変える、いわゆる円転を行えるが、円転レートは国際間の為替レートより円安の国内専用レートを適用します。例えば親会社は製造メーカとし、アメリカに子会社が設立したとします。この親子間において子会社の期間売上に対する仕入額、すなわち日本からの輸入額が5割以下なら、日本海外投融資銀行へ輸入代金ドルを振込むと、当銀行はこのドル振込みが親会社から輸入代金と証明されたなら、円安レートで円転を行う。親会社から見れば子会社への輸出品に機密知財を含む時は、更に上乗せする円安レートで円転できます」

「それは一種の輸出補助金と見なされませんか?」

「これは国際的な投機資金に対抗して安定した実需取引を行う手段です。輸出企業は為替レートの乱高下に企業収益を乱されず企業経営ができます。国内専用円転レートは財務省が4半期毎に見直し、国際間の円ドル為替レートと同一となることも有り得ますが、この時でも機密知財を含む生産物の輸出は円安の円転レートを適用します」


「既に進出している場合にも国内専用円転レートは適用されるのですか?」

「勿論、その取引が親子間である限りですが」

「なぜ仕入額5割以下ですか? またなぜ親子間に限るのですか?」

「日本の国外進出企業は当該国の原材料使用と雇用に貢献、あるいは第三国への輸出に貢献する。これを国外進出の条件とします。親子間に限るため輸出補助金とは考えません」


「輸出企業にとっては大変有難い制度ですが、何かデメリットはないのですか?」

「デメリットですか、ないですね。強いて云えば国内唯一の日本海外投融資銀行に限り実施します。適正な為替手数料も支払って頂きます。更なるメリットがあります。皆さんが共生同盟を結んだ国に進出しますと、子会社が当該国に納税した何割かを徴税当局から還付されます。その還付資金が日本海外投融資銀行に振込まれた時にも国内専用円転レートで円貨となり、親企業の収益になります。これは親会社にとって進出国の徴税率が何割か安くなったことを意味します。従って企業税率の安い国より税率の高い国に進出すると利益額が多い事になります。日本は共生同盟の交渉において最大3割を親会社に還付する用意があります。日本は税率が高いと云われていますが、日本へ進出する外国企業の親会社は多額の収益が期待でき、且つ円高メリットも享受できます。また外国企業が日本へ進出するに際し、日本国内融資銀行は日本におけるその企業の必要性、採算性を審査し、設立資本金の5割程度を融資します。これは円高になっても日本進出の敷居を下げる効果があります。但し国内進出する外国子会社の融資条件は、同様に仕入額5割以上を日本国内の調達を原則とします。原則が適用できない子会社の進出は本省が審査します。どうか皆さんは大いに共生同盟の利点を説いて下さい。中西外務大臣を筆頭に本政権は一致団結して共生同盟の締結を推進します」


「すみません、小企業のオヤジなもんで頭が悪く全貌が理解できません。大企業に国外進出を推奨されると私ら下請けの仕事がなくなります。どうしてくれます?」

「これらは親会社が国内にあり、子会社が進出する事による特典です。丸ごと進出すると特典は全て失われます。国外進出した子会社の製品は外国製品として逆輸入は認めません。従って国内に需要がある限り、生産量は減るかも知れませんが国内生産は残ります。私達は中小企業の仕事確保、雇用の確保が最大の使命と考えております。なお本省が所管する中小企業支援機構、最悪の場合は企業再生支援機構の各窓口も各都道府県庁に御座いますから、何なりとご相談下さい」


「日本海外投融資銀行は運転資金の融資はしますか?」

「それは一切行いません。ただ既に進出した子会社の増資については相談に応じます」

「共生同盟は相手国に入るべき税金を日本国がもぎ取る印象がありますが・・・」

「日本は如何なる国の企業進出も歓迎して受入れます。企業税率、賃金レート、不適切な為替レートなど経済活動条件の異なる不公平状況で生産された製品は受入れません。日本国の環境下において公平な競争条件で大いに競争して下さい。この公平条件下で産出した産品を優先使用する。これが我々の提唱する公平経済政策です。日本に進出する力のない国は日本の投資を歓迎するでしょう。相手国の雇用を増やし、生活向上、外貨獲得に貢献して下さい。日本海外投融資銀行は単なる事業の採算性を審査するだけでなく、進出国への貢献も審査対象とし融資を決定します。国外進出を国策で支援する限りその見返りを少し頂きたい。日本国民も必要な資源を購入して生きねばなりませんから外貨が必要です」


「大臣の担当でないと理解しますが、税務の青色申告において累積赤字を抱える企業が、単年度黒字になると、一定規模以上の企業はその2割を徴税される新税制にクレームを申し述べたいのですが・・・」

「確かに担当外です。国務税制局に意見を申し述べて下さい。ただ今後3年、5年と連続して赤字の企業は、酷な言い方ですが経営責任を問われてしかるべきです。企業再生支援機構へ相談する事案と心得ます」


「円転の財源や投融資財源はどのように調達するのですか?」

「ドルの例で答えます。円転はドル買い円売りですが、為替介入との決定的な違いは円転した円貨は国内の親企業の収益となり、国内でのみ流通し国外へは流出しません。従って一部は徴税で回収され、大部分は国内に出回る通貨供給量を調節して回収します。円転で買ったドルは投融資財源として使用します。なお円安円転レートによる企業収益の増加分対する徴税35%が、この時に発生する為替差損をマクロ的に回収できるとベストです」

 出席者の中で為替知識に敏な人達は大臣の答弁に次の様な疑問を抱いた。国際間の円ドルレートが80円/ドルの時、円転レート100円に決めると20円の為替差損が生じる。当銀行に発生する差損の総額と、各企業が円高で失う利益を防ぎ得た収益の増加分に対する徴税総額で穴埋めする。

 果たしてそんな統計をとり得るだろうか。大臣の答弁は明かに日銀が円転原資の供給元を意味し、その供給額だけマクロ経済的に通貨供給量を減らして回収する。しかも投融資は結果的に日銀券で民間企業が外国資産を取得する意味もある。これを国際社会が認めるか疑問だが何事も異端の政権ならやり抜くと信じた。


「円転レートは幾らになりますか?」

「まもなく財務省が発表するでしょう」

「日本海外投融資銀行や日本国内融資銀行は融資の担保は必要ですか?」

「勿論必要です、独立採算の銀行ですから。銀行の常套手段で取得する土地建物又は自社株なども担保にできます。投資案件では株式を銀行が所有します。日本国内融資銀行は建物や自社株、生産する製品の一部、その企業が所有する知財などが考えられます。日本は外国企業の土地所有を認めませんから、土地は担保にできません」


「公平経済政策は国産品優先の下に日本の輸出入が減る代り、経済的利点を嗅がせ国民の生存に必要な外貨は国が管理する。と理解してよろしいか?」

「それは貿易面だけ正しいでしょう。ですが内需の蜜は国民と国内企業だけが吸える面を忘れては困ります。私達政権は世界が間違った経済社会を築いていると認識しています」


 日本経済連合・会長執務室、会長の鮎田公平はテレビ中継を見ながら、自らの名に因む偶然の公平経済政策に面映ゆい気持ちを抱きながらも、孫にも似た若い政権が仕掛ける荒削りな政策に並々ならぬ意気込みを感じた。

 5月7日政策発表の翌日は株価が暴騰し、その後も続騰している。株価はどう考えても騰勢が早過ぎる。鮎田はスマホを取出し、最近習ったばかりの操作でネットニュースを見た。信用取引委託保証金の大幅な引上げのニュースが流れ、“実体経済の浸透に合せた株価を望む”この20年絶えて久しい財務副大臣の談話も見た。

 鮎田は投機やギャンブルを抑制し、実体経済を重視する政権の姿勢に好感を抱いた。


 総理官邸・執務室15時、香山と中西が並んでソファーに座り待受ける。そこに東京都知事がやって来て応接椅子に座るなり、

「恩は売ったぞ、それにしてもよくやったぜ、ベイビー」

 都知事の防災訓練に乗じて政権が誕生したのは紛れもない事実である。

「恩は確かに買った。申したい事は雁首揃えて聞く」香山が云う。

「あの島はどうしてくれる?」

「言い出しっぺの都が買えばいいだろ」中西が突き放す。

「何! 何だと!!」爺さんが力む。

「そう力みなさんな。島の視察はOKする。寄付を集めて買う、グッドアイディだよな」

 中西は香山の顔を見詰めて云う。

「万一の不足分を表向き大ぴらに補うと爺さん以上に力むトラがおる」香山が云う。

「お前さんら、そんな弱気か。見損なったぞ!!」都知事が本気で怒る。

「まぁそう云う事にしといて欲しい」中西が云う。

「そうか、あい解った。ところでワシはクビだろう、憲法草案作成に加えろ」

「猟官運動か?」香山が云う。

「ふざけるな。チンピラに顎で使われるほど耄碌しておらんわい」

「だろうな。草案作成は2年も5年も先になる。その口と身体が達者でなけりゃ困るが、生憎、政府部内に入れると益々我々の立場が悪くなる」

 香山が中西の顔を見詰める。香山が云う。

「そこでだ、政府と関係ない民間の島保存会を新設し会長に治まり好き勝手をやり、その達者な口を生かして貰いたい。トラの尻尾踏みそうならブレーキをかける。どうかな?」

「考えおったな、小わっぱめ、組織運営の金はどうしてくれる」

「政府とは関係ないと云った。その顔と口で集まるだろ」中西が云う。

「それがお前らの買った恩返しか?」

「そう云う事」香山が云う。

「ところで例の3項、あらゆるは気に入ったが、隣は知らんと逃げるのであるまいな?」

「それはその状況に陥った司令官が判断することで、私らが先に決めて云う事でない」

「そうか、それならまともな普通人だ」何気なく聞けばまるで禅問答である。

 都知事は香山の言葉に笑顔を残して立去る。立去ったあと中西が云う。

「あの爺さん、2人がかりでも汗かくゎ」

 5月も中旬、まだ冷房しない部屋は蒸し暑く、中西は額の汗を拭った。

「話変るが例の件、渡辺に命令したぞ」香山が中西を見詰めて云う。

「30年後までに成遂げたい仕事だ。我々の政権が終れば糧道を絶たれる。何か良い方策を築く」

「太く短くと云いおった。奴は心得ている。中西、お前はこの仕事に関るな」

「そうはいかん、俺の所管だぞ」

「俺はお前にこの仕事をさせたくないから総理を引受けた。俺はあの夜に死んだ。だからやる。いいか、お前は絶対に関るな」

「いや俺は逆にお前にさせたくないから外相を引受けた。俺に相談もなく機密情報総局を担当するとは。発表の席で知り寝耳の水、やられたって感じだ。俺が迂闊だった」

 総理やれ、いやお前やれと揉め抜いた。またここでも別な件で繰り返す雰囲気ありあり。二人は笑って矛を収めた。中西の性格を知り抜く香山は中西に隠し通せないと悟った。


 通信行政総局・会議室、須崎担当大臣と総局長、主席技官が、電子機器メーカ数社の技術部長達を前に電子投票端末機の打合せをしている。

「またですか? 議事堂のセキュリティだって、無茶苦茶な日程と予算で泣く泣く協力しましたが、今度は話の桁が違います。おっしゃる日程ではとてっも資材調達ができません」

 技術部長の一人が不満を云い、他の部長達も同じと頷く。須崎が強引に押す。

「1千万台、1台3千円、来年の年末まで、君らができんなら国外メーカにオファーする、君ら5社で分担すると2百万台の生産だ」

「詳細仕様を6月末、材料調達3カ月で9月末、残り3カ月生産、大臣、いけますよ」

「総局長、それが無茶ですよ。試作品なしは。コンピュータチップと指紋認証チップの供給1千万台は殆ど不可能、他の電子部品は何とかできたとしても。それに問題はスマホのアダプタとおしゃるが、立法権者全員がスマホを所有していませんよ。単独機も必要な筈です」セキュリティの協議で顔見知りため遠慮のない意見がでる。総局長も考え込む。

「単独機か? 指紋は本人所有の端末にだけ保存、これは絶対条件だが後は通話とメール機能の単純なもの、これなら1台5千円か?」須崎が値段を気にした。

「大臣、年配者向けに多くて3百万台でしょう? 単独機5千円、アダプタ方式の3千円では原価も割ります。いっそ単独機で通話、メールなしでは?」部長が提案した。

「そんな電子投票機だけを誰が買う?」総局長が拒否する。

「アダプタだって普段持ち歩きませんよ。電子投票機だけの機能じゃないですか?」

「確かになぁ。普段持ち歩いて利用する単独機は通話とメールは必要だが、若者はスマホと2つは通信費が重複するから持たない。些か困った」大臣も考え込む。

「スマホに投票機能を組込み、顔認証ではどうです?」別な部長が提案する。

「議事堂セキュリティは顔認証90%以上でもよかったが、投票端末機は100%でないと使えない。指紋認証組込みのスマホは既に発売中です。ソフトを追加します」

他の部長が“しまった”と顔をしかめる。須崎は部長達の顔を読取り、

「よし解った。年配者の件も含め通信会社とも話する。一社独占はない安心せよ。幸い君達は絶えず新機種を出しておる。発売可能な時期を6月末まで知らせ、使い勝手、操作性は現在発売のスマホで試作し、操作仕様は各社統一する。質問がなければ終る」

「指紋認証チップの取合いを裁いて頂けると有難いのですが・・・」

「それは経済産業大臣とも協議し希望に添う様に努力する」

 部長達は須崎の“一社独占なし”を聞き、その一言に安堵する。

「大臣、やはり通話もメールもないアダプタが必要です。スマホもPCもネット接続すら金銭的に困難な有権者もいます。その人達・・・」今まで無言だった技官が発言する。

「そうか解った。ネット接続の支払もできんなら、国が支援しなきゃならん。アダプタを持参させてネットカフェからでも投票させるか」須崎は技官の意を理解した。

「大臣、今後の総選挙も考えると、アダプタ1台で家族も投票できる仕様にしたい」

「家族も可能な投票専用アダプタ、10万台の製造とし、努力目標は3千円、仕様と納期は技官と打合せて欲しい。この件は入札とし、入札日時は6月末までを考えたい」

 須崎は打合せの決定を下す。部長達は3千円の努力目標と聞き、些か安堵する。

「もう一つお尋ねします。私共にお送り頂いた大まかな技術仕様は、民間での特許出願があると聞きますが、その点に今後支障は生じませんか?」技術部長に一人が尋ねた。

「それは皆さんの企業の誰かが、出願権を買取り独占したいと考えるなら支障がでます。そうでない限り、有望な出願なら外国出願も考え、皆さんが製造する端末機の海外進出を支援します」

 あのセキュリティの納期と違う柔軟性に期待を抱き、技術部長達は立去った。

                     [第3章へ続く 第3章へどうぞ]



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