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うまれかわり


絞首台にてユーニスは死んだと見せたが、実際には死んでいなかった。立ち会った騎士は末姫の手の者である。ユーニスは実際には気絶しただけだったし、裏に運ばれてすぐ蘇生された。

「俺は…生きているのか」

「無駄に藻掻いたりしなかったから、傷もついていない、大した精神力だよ」

流石に首に縄跡はついていたが、それも数日経てばなくなるようなものである。牢にいた間に鈍った躯を本調子に戻せば騎士として十全に働ける。

「本当に死ぬわけではないと信じたからこそだ。知らなければ死にたくないと暴れていたかもしれない」

「それはそうだ」

それはそれとして、死んだことになっている人間がそこらを歩いていては困るので、人相を変えねばならない。少なくとも髪を切ることは決まっていた。

「そうだ。これを遺髪として家族に届けてもらえまいか」

「死体を渡すことはできないからな。寧ろその方が適当だろう」

彼は自らナイフでざっくり髪を切って髪紐ごと手渡した。末姫付きの従者が呆れたような顔をする。

「そのざんばら頭で姫様の横に立つ気か?髪を整える鋏を取ってくるから、それ以上自分でどうにかしようとするなよ」

「そんなものもあるのか…」

「どんな侍従を連れているかも主の評価に関わってくるからな。身なりを整える道具くらいあるさ」

彼の髪は短く整えられた。騎士は遺髪を届けてくると去り、彼は改めて末姫に会うことになった。

「まずは…大義でした、我が騎士。私の治世が安定した暁には、必ずユーニス・クォレンの名誉を回復することを約束します」

「いえ…父母を悲しませることに忸怩たる思いはありますが、あなたに仕えることに後悔はありません。あなたの拓く世には俺の理想もあるのだと信じております」

末姫はにこり、と微笑んでみせる。

「あなたの忠誠に報いられると良いのですが。…立て続けで申し訳ありませんが、騎士としての叙任と聖別の前にこちらを」

「これは?」

「魔導剣です。担い手との契約によりその潜在的な素質を引きずり出してくれます。が、時間をかけずにすると、人相が変わってしまうほどの負荷がかかるのだとか」

「…成程」

髪を染める程度では足りないというのと、或いは一石二鳥と考えられたらしい。

彼は剣を手に取った。鞘から引き抜けば刀身に何やら文字が彫られていることがわかる。文字を指でなぞれば魔力光が灯る。そして頭に問い声が響く。

「俺は、ユーニス…否、グウェンドリン姫の騎士、コンラッド・ランスロッドだ」

この一年ほどの間に用意された、彼の新たな名である。

「今すぐ、俺に力を寄越せ」

雷でも落ちたかのような衝撃が躯に走った。苦悶の声が漏れるが、彼は剣から手を離さなかった。体中どころか、脳も痛みに襲われ、転げまわりたくなる。だが、末姫の前でそのような醜態は晒せぬと彼は歯を食いしばって耐えた。

どれくらいの時間が経ったかわからないが、唐突に痛みが消える。それどころか、剣を手に取る前より躯が軽く、頭も冴えている。この魔導剣でどのようなことができるかもすっかり理解していた。

「顔を上げなさい、我が騎士。あなたは今日から、コンラッド・グリシーナ・ランスロッド。得た力で、王国の未来を閉ざすものを打ち砕きなさい」

「|仰せのままに、我が主よ《イエス、ユアハイネス》」

得た力の代償にか、彼の髪と瞳は色素を喪っていた。白髪が、末姫の名付けと共に淡く紫色を帯びる。今の彼とユーニスが即座に結びつく者はそうそういないだろう。朗らかな男だったから、険しい顔をしていたら尚更だ。

「これで殿下の守りに最低限の信用がおけるようになりますね」

「あら。今までも信用はできてよ、ミモリ。プディンタン将軍はお父様の腹心も同じ。彼の寄越す護衛が私への危害を許すはずがないわ。…私の命は聞かないけれど」

命は聞かないといっても、上司からの命令に反しない程度のことはしてくれるし、上から末姫の命に従うように言われていたら従ってくれる。そういう距離感である。

「ところで、この魔導剣は国宝なのでは?」

「お父様からきちんと許可を取りましたから大丈夫です。後で、契約者を見せるようには言われておりますけれど」

「・・・」

つまり後で公式か非公式かはともかく彼が直接国王と顔を合わせる機会があるということである。長く患っているといわれ、滅多に表に出てこなくなっている王と。

「ああ、畏れることはありません。非公式でしょうし、お父様は儀礼より内実を重視される方です。移る病で寝込まれているわけでもありませんし」

「数年の内に死ぬのでは、と長く噂されているが」

「王権を時代に譲るまで、死ぬことはありませんよ。メトシュラはそういうものです。まあ、アルクスレイン陛下は王権との適合率が高すぎて、王権を手放せば余生などないも同然だそうですが」

そして、だからこそ強硬手段を取ろうとしている。次代の治世を、アルクスレインが直接補助してやることはできないので。

「それは…まるで、長患いであるというのが狂言であるというように聞こえるのですが」

「ええ。お父様はピンピンしていらっしゃいますよ。譲位の準備をきっちり進めておられるというだけで」

それに実情、そろそろガタがきていないわけでもない。一応人間なので寿命というものはある。




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