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婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 篠宮しずく


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第44話 試す夜

 その夜は、空気が少しだけ違っていた。


 風は弱い。だが、外側の気配が、わずかに結界へ触れている。

 近づききらない圧。様子を窺うような、薄い波。


 見張り台の上で、レオンが低く言う。


「少し来てるな」


「ええ」


 リーナは、結界点の手前で立ち止まる。

 触らない距離を守ったまま、外の揺らぎを感じる。


 以前なら、不安が先に立っただろう。

 だが今は違う。


 村の灯りは小さい。

 焚き火は内側に寄せられ、声は低い。


 誰も慌てない。


「今日は、もう寝るか」


 誰かがそう言う。

 それで十分だった。


 外の圧が、ほんの少し強まる。


 リーナの指先が、無意識に動く。

 整えれば、すぐに散る程度。


(……まだ)


 触らない。


 アリアは、少し離れた場所から結界の縁を見ている。


 介入しない。

 声もかけない。


 外の気配は、しばらく結界をなぞり、

 やがて、滑るように離れていく。


 破れない。

 揺らぎも残らない。


 夜は、そのまま深まった。


 見張り台を降りたレオンが、短く息を吐く。


「通らなかったな」


「はい」


 リーナも、同じように息を吐いた。


「触らなかったですね」


 ぽつりと呟く。


 アリアは頷く。


「触らなくても、通らなかった」


 それが事実だった。


 結界は薄い。

 だが、生活は静かだ。


 外の圧は、強さではなく、

 乱れに引き寄せられる。


 今夜は、乱れなかった。


 宿へ戻る途中、リーナが小さく言う。


「……試されましたか」


「いいえ」


 アリアは答える。


「確認されただけです」


 壊れるかどうか。

 揺れるかどうか。


 村は、揺れなかった。


 結界は今日も、薄く村を包んでいる。

 強さではなく、整いで。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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