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婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 篠宮しずく


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第39話 戻し始めた村

 数日後、再びエリスの馬車が立ち寄った。


 荷を下ろす前に、いつものように集会所の影へ腰を下ろす。


「少し、落ち着いてきたらしい」


 その一言で、誰の話か分かる。


「隣の隣村、ですか」


 リーナが静かに尋ねる。


「ああ。結界を薄くしたまま、昼の作業を減らした」


「昼を……」


「夜じゃなくてな」


 エリスは苦笑する。


「最初は逆だった。夜を削って、昼はそのまま。だから落ち着かなかった」


 アリアは何も言わない。


「今は、昼の無理を減らして、夜は自然に終わるようにしたらしい」


「……戻したんですね」


 リーナの声は小さいが、確かだった。


「完全じゃない。でも、不安は減ったそうだ」


 エリスは肩をすくめる。


「誰も助けを呼ばなかった。自分たちで戻した」


 それで十分だ、と言外に含ませる。


 昼過ぎ、リーナは村の外れに立つ。


 結界は変わらず薄く、均一だ。

 強くもなく、弱くもない。


「……戻れる」


 ぽつりと呟く。


 アリアが隣に立つ。


「急いでも、戻れます」


「でも、時間がかかる」


「はい」


 それが、違いだった。


 夕方、村ではいつも通りに作業が終わる。


 誰も「正しかった」とは言わない。

 誰も「真似するな」とも言わない。


 ただ、急がない。


 夜、結界は静かだった。


 リーナは宿の前で手紙を取り出す。

 短い返事が届いていた。


 ――少し、楽になった。

 ――ありがとう。


 やり方は書いていない。

 助言もない。


 それでも、伝わったものがある。


「……教えなくても」


「ええ」


 アリアは頷く。


「形は真似できます。時間は、真似できません」


 結界は今日も、薄く村を包んでいる。

 急がなかった時間ごと。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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