第29幕 勝負
我輩達は家に帰ってきて直ぐに木刀を持ち庭へと足を運ぶ
「じゃあ始めようか。アリサちゃん宣言よろしく」
虎織は木刀を1本持って中段に構え言う。
「あぁ、今日こそは勝つからな」
「それじゃあ、いざ尋常に!勝負、始め!」
アリサの声が響く。
我輩は右の腰帯に大中小長さの違う三本差木刀を差し、その1本、1番長い物を引抜き八相の構えで虎織の動きを見る。
お互いを見つめ幾許か時間が過ぎる。軸がブレないのは本当にすごいと感心せざるを得ない。多分このまま動かなければ延々とこの状態が続くだろう。故に我輩は足を前へと出す。
1歩、2歩とすり足で間合いを詰める。木刀を右手に握り霞の構えのように持ち、左手は右の木刀1本に添えてゆっくりと前へ足を運ぶ。
そして右手の木刀で虎織目掛けて一直線に突きを繰り出す
「甘いよ!」
虎織は1歩前へ出て我輩の木刀を絡め、下から上へと巻き上げで弾く。我輩はその衝撃で木刀から手を離し、木刀が手を離れたのを確認すると虎織は袈裟斬りをする為か上段の構えへと移行し木刀を振り下ろす。
左手を添えていた木刀を引抜き我輩は頭の上へと持っていき斜めに、柳の構えというのだったか?そうやって構えて刀でいう鎬の部分で受け流す。飛んで行った木刀は我輩の後ろの地面に見事にささった。地面に落ちるならともかく刺さるのは中々ないだろう。
木刀に気を取られていたら虎織は体勢を立て直す為か飛び退き間合いを空けていた
「私の知らない間に色んな技使えるようになってるんだね!」
「そりゃ日々精進だからな!」
正眼に構え直してから真っ直ぐ虎織に向かって走る。
虎織は霞の構えで応戦するようだ。ならば1手目は突きだろうか?木刀が若干後ろへと引かれた。これで突きを放ってくるのは予想出来る。ただ虎織がわざわざ霞からの突きという簡単に予想できるような事をするだろうか。だが今は前へと進む他ない。飛び退くと多分また睨み合いから先に進まないだろうからな。
我輩は正眼から脇構えに構え直しながら突き進む。
虎織の木刀の間合いへと入った瞬間一直線に突きが飛んできた。意外性を持たせるならこれが正解なのだろう。霞からの突きという連想は何となく安易な気がする、だから違う手を使ってくるのでは?と考えさせてからそのまま正直に真っ直ぐな突きを出せば防ぎにくいだろう。
でも、我輩は真正面からの突き程度になら対応できる眼を持っている。
突きに合わせて木刀の持ち手、刀で言うと柄で突きを止める。確か揚遮だったか
「さっきので決めるつもりだったんだけど・・・な!」
虎織はそう言いながらさらに突きを繰り出す。三段突きか!木刀の鎬部分を突きへと添わせ右へ左へと突きの方向をずらし躱す。まさに鎬を削る戦いだ。
そして突きの隙を見て虎織がやったように巻き上げ刀を弾き飛ばし袈裟斬りを当てに行く
「まだまだ!」
振りかざした木刀の持ち手を掴まれさらにそこに掌底が2発打ち込まれた
腕に痺れるような感覚が走ると共に木刀は手を離れる。
これは飛んで行った木刀を拾うより虎織の落とした木刀を拾う方がいいな・・・
虎織の持つ虎徹は雪城家の人間以外持てないから実戦じゃ出来ない芸当だけど今はただの木刀だ。
そもそも虎織と戦うことなど想定してたまるものか
我輩の動きで狙いを察したのか虎織も我輩の落とした木刀を拾いに行く。飛び退いてくれていればそのまま幕引きに出来たのにな・・・
そんな事を思いながら落ちている木刀を拾いながら身体を捻りながら虎織の方を向き、八相で構える。虎織も地面に刺さった木刀を引抜き、正眼で構える。
腰の1番短い木刀を使えば虎織に一撃与えられたかもしれないが短刀サイズということもあって取られると我輩がピンチになってしまう。これは最後の切り札として温存する必要もあるしな
「戦い方結構変わったね」
「午前中までの捨て身の一撃を良しとするスタイルならとっくにやられてただろうな」
「ふふっ、いい心掛けだと思うよ」
虎織は言うと共に木刀片手に走り出し落ちている木刀を拾いながら此方へと向かってくる。
1本が飛び道具として使われても大丈夫、撃ち落とせる・・・そう油断した瞬間虎織がそのまま間合いに入る
「二刀流!?」
腰を低くし虎織は一本で我輩の腰付近を狙ってくると共にもう一本を後ろに構えながら突き技の準備をしていた。片方を防げば片方が当たる。ダメージ的には突きを防ぐ方がいいが出来ればどちらも受けないようにしたい。飛び退くにはもう遅いし飛び退いても突き技が容赦なく襲ってくるし多分虎織は更にもう一手用意している。なら我輩のできることは・・・
「ついに3本目だね」
我輩は腰の1番短い木刀を引抜き、短い方で突きを受け流し、長い方で腰への一撃を受け止める
「今は使いたくなかったんだけどなぁ・・・でも抜いた刃を居合以外で納めるのは我輩の流儀に反するからな。こっからはもう止まらないぞ・・・!」
「いいねその眼!今から私の見たことない本当の本気を見せてくれるんだね・・・!」
虎織は楽しそうに笑う。そう、ここからは我輩が誰にも見せてこなかった独壇場、ただの独りの男の本気だ。
風に乗り数歩。そして一撃。これは防がれてしまったがここからだ
「っ・・・!これは防ぐより避けた方が正解みたいだね・・・」
虎織の持つ木刀の一本がさっきの一撃で折れ使い物にならなくなった。
飛んだり跳ねたり縦横無尽に庭を駆け回りながら一撃を加えては駆け抜ける。決めるつもりで数発打ち込んだが全て防がれてしまった。虎織の持つ木刀も我輩の持つ木刀もキシキシと音を立て始めそろそろ限界らしい。我輩の体力も限界に近い。我輩は止まり虎織を真っ直ぐと見る
「凄いね・・・びっくりしたよ・・・でも止まったって事はもうさっきの技は使えないのかな?」
「あぁ、次の一撃が最後だな・・・」
虎織は自らの手を鞘に見立て木刀を納める。どうやら本気の居合で来るらしい。
我輩は走り出し虎織に向かっていく。
木刀が風を切る音のみが響く
「これは引き分けかな?」
我輩の首スレスレに木刀が見える。そして我輩の木刀も虎織の首スレスレで止まっている
「そうだな・・・勝てたと思ったんだけどなぁ」
我輩はその場に倒れ込んだ。脚がガクガクする。ちょっと本気を出し過ぎたかな
「私もあのまま木刀へし折って通すつもりだったんだけどいきなり目の前に木刀が来てびっくりしたよ。白鷺城で人間モドキと戦った時の技だよね」
「あぁ、刀を倒してから元の位置に戻して刀がすり抜けたように見える技だよ」
「今のままじゃ次戦う時は負けちゃうかもしれないね・・・私も頑張らないと」
虎織はどさりと倒れて少し悔しそうに空を見上げて言う
「お互い頑張らないとな・・・」
今日は星空と月が綺麗だ。
「月が綺麗だな」
「そうだね」
やっぱり遠回しな言い方じゃ伝わらないか・・・
まぁ仕方ないか。ゆっくり風呂に入って寝るとしよう・・・




