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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第29幕 時間切れ

七支刀が振り下ろされどす黒い怨念が一直線にこちらに向かってくる。

自らの身体を盾にすれば防げるか?否、多分これは無理だ。見るからに質量で物理的に押し潰してくるタイプだ。


「風壁、厄祓い」


鈴の音が響き、それと共に聞こえたのは虎織の声だった。

目の前まで迫っていた怨念の塊は風により流され霧散していく。


「お嬢、お目覚めか?」

「菊姫命、その呼び方辞めてください」

「いやぁすまんすまん。でもまさか巫女が使う術式を雪城が使うとはなぁ?どうだうちで巫女やってみないか?」


虎織が起きて魔術式で助けてくれたようだ。

それにしても虎織の巫女服か・・・それは見てみたい

少々困った顔で悩む虎織。


「巫女さんなら久那さんが居るじゃないですか」

「久那は俺の所の巫女じゃねぇんだよ。それにほら、あいつも見たいって顔に出るくらいには見たがってるぞ」

「えっ!?マジで?顔に出てた?」


顔に出てたのか!?あまりの驚きに口から声が出る


「カマかけたらほんとに引っかかりやがった。お前やっぱ面白いな!」


ゲラゲラと笑う菊姫命。恥ずかしさで顔が熱い。


「和んどる場合か。次の一撃が来るぞ」


久野宮さんの一声で全員が臨戦態勢に入る。

さっきの術式で防げはしたが虎織に無理をさせる訳にはいかない。振り下ろされる前に止めたりしないと、次はないかもしれない

久野宮さんが名無しの神目掛け走り出しそれに合わせ我輩も走る


「風咲、鎖はもうないのか?」


走りながら久野宮さんが我輩に問いかける


「さっき使い切りました」

「他に拘束手段は?」

「無いです」

「ならあれが振り下ろされる前に体勢を崩すのが1番良い手だな」

「ですね!」


名無しの神はゆらりと七支刀を持ち上げ翳す。すると七支刀にどす黒い怨念が集まっていく。

振り下ろされるまで少しだけ猶予があるように見える。

このままのペースで行けば振り下ろされる前に一撃は加えられるだろう。

ちらりと久野宮さんの方を見て動きを見る。動きを見て考えての先読みではないが、何故か昨日の夜の一件以降見た人の少し先の動きが見えたりするようになった。

影朧が出てきた影響なのだろうか?


名無しの神を前に我輩は大きく踏み込み拳を叩き込む。

それと同時に久野宮さんの拳が神へとめり込むみ神は吹き飛ぶ。


「練習無しにこの技を使うとはな。しかもワシと同時ときた。威力も初めてにしては申し分ない。戦いが終われば直々に仕込んでやるのも悪くなさそうだな」

「いいんですか?」

「良い良い。きっちり基礎から叩き込んでやるとしよう。だがワシの鍛錬は今まで1人しか耐え抜いた事はないぞ」

「それは・・・お手柔らかにお願いします」


師匠がまた増えるのか・・・いや、嬉しいことなんだけどなんというか人生で3人も師匠が居る人というのは少ないんじゃないか?

そんなことを考えているとふと嫌な予感がした。

吹き飛ばした神の方を凝視する。名無しの神は未だに七支刀を振りかざしたままだった。不味い。避ける、その一択しかない


跳び退こうとした瞬間なにかに足を掴まれた。

下を向くと黒いモヤの手がおぞましい数有った。

名無しの神の必ず殺す為の技、即ち必殺技と言うやつだろう。


「風咲、これは俗に言う詰みと言うやつか?」


久野宮さんも足をがっしりとモヤの手に掴まれていた。


「そうかもしれませんね」


これを防ぐ術はない。まぁもしもここで死んでも影朧が何とかするか・・・



なんて甘い考えはない。脚を切り落とせば何とかなるか?ただその場合久野宮さんを放って跳び退くことになる。それは避けたい。どうするべきか


「将鷹!これ!」


虎織がこちらになにか小さい物と我輩の羽織を放り投げる。

それは蒼く見覚えのある物だった。危うく落としそうになったが何とかキャッチすることに成功した。


「髪留め・・・そういえばこれ虎織じゃなくて所有者を護る魔術式にしてたんだっけ・・・?」


プレゼントしたのが随分と前で御守りの魔術式を仕込んだのは覚えているが何処まで反応するかは覚えていない。正直な所蒼炎が厄介なものを焼き払うというのも忘れていた。というかこの頃はまだ炎をちゃんと使えた時期だっけ?あんまり覚えてないな。

まぁ今は目の前の事に集中しよう。

羽織を身に纏い、髪留めを右の毛束に着けると早速蒼い炎が足元で華のように燃えて行く


「所有者に仇なす物を焼き祓う炎か・・・とことん恐ろしい物を持っているな。というかそれに焼かれかけた訳だな・・・恐ろしい・・・」


そういえば操られてた時に糸事焼かれてたなぁ・・・


「将鷹、久野宮さん、下がってください。後は土地神の巫女たる私があの怨念祓ってみせましょう」


月奈が前に出て槍をクルクルと回す。なんか月奈はよく槍をクルクル回してる気がする。癖なのだろうか?


「そうか、お前はここの土地神の巫女か・・・これは分が悪い」


名無しの神は口を開く。そして七支刀を縦に振るのではなく横薙ぎに振る。

七支刀から流れ出た怨念は横に広がるようにこちらへと向かってくる


「括り、結び、縁を結う。ならば逆も出来て当然。縁切り、括られた縁を断つ。私が断つのは現世と死者を結びし縁」


月奈は祝詞ではないが神様への言葉を紡ぐと月奈の持つ槍が白く眩く光る


「絶縁、菊理!」


槍の穂先で怨念の塊を切り裂く。すると怨念はその場から消え去る。


「なるほど。その槍、神殺しだな?神をも殺しうる槍を神から賜ったか。困った物だこれでは我に勝機無しではないか」


名無しの神は心底困ったという顔で言葉を紡ぐ。だがこの言葉はきっと偽りだ。まだなにか奥の手があるはずだ。何故なら名無しの神の眼には闘志と余裕があるからだ。


「なら大人しく降参してその身体先代様に返しなさい」


月奈が槍の穂先を名無しの神へ向け強い口調で言う。


「残念だがそれはもう無理だな。何故なら我とこの女子はもう混じってしまっているのだからな!」


時間切れというやつか・・・だが希望はまだあるはずだ


「月奈、さっきの縁切りで引き剥がせたりするか?」

「混ざっちゃったらもう手遅れだね・・・この槍でもどうにもできない状態だよ。こうなったら殺すしか出来ないよ」


淡い希望は直ぐに打ち砕かれた。

殺すことしか出来ない。この言葉が胸に突き刺さる。

もっと早くどうにか出来ていれば、談笑なんてするんじゃなかった。後悔してももう遅いのは分かっている。

だが悔やまずには居られない。数刻前の愚かな自分を殴ってやりたい・・・


「風咲、心中を出せ。お前が持っているのだろう?救えないというのならせめて身内であるワシが責任を持って仄様と死ぬ。1人では死なせたくはないのだ」


久野宮さんが出せと言ったのは妖刀心中、最も悪用され、最も人を殺した日本刀だ。

掠りでもすればどんな者をも殺す必殺かつ呪われた刃。


「死ぬ気ですか!?」


我輩は驚愕していた。刀の存在自体を知っていた事に対してもだが心中を振るうとどんな者でも殺せる代わりに自らの命をも斬り捨てる刃。両者共倒れになるが故に心中。

そんな物騒極まりない物を久野宮さんは出せというのだ。100万歩譲って見知らぬ人ならば渡していたかもしれない。しかし久野宮さんは知らない人というには難しい。死線を共にし、神と対峙している仲間なのだ。

そんな人に死と同義の物を渡したくはない。


「もう覚悟は出来ている。どうせ老い先短い老いぼれだ。今死のうが後に死のうが大差ない。どうせなら好いた人と死にたいというのはわがままか?」

「でも・・・」


我輩は口篭る。

多分、いや、絶対に虎織が先代と同じ状態になったら躊躇いなく、容赦なく我輩は久野宮さんと同じ選択をするだろう。

ならば我輩には久野宮さんを止める権利などないのではないか?

それにこの状況は心中を正しく使って貰える唯一の状態ではないのか?

思考の末、久野宮さんに心中を渡す事にした。


我輩は羽織から赤い鞘に黒の柄巻の太刀、妖刀心中を取り出し久野宮さんへと渡す


久野宮さんの言葉通りならこの刀を打った刀鍛冶がやっと報われる。最初の一振以降、妖刀に成り果てるまで本来の使い方をされてこなかった刀がやっと本来の使い方をされる・・・

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