第27幕 神に挑みし者
「風咲はサポートを頼む」
久野宮さんは1歩踏み出し左の拳を握り前に出し右の拳を腰付近に置き、腰を落とす
「了解」
「では、行くぞ!」
掛け声と共に拳銃の引き金を引く。
乾いた音が響き名無しの神の頬を掠めていく。
「鉛玉を火薬で飛ばす装置、種子島の最新型か・・・厄介な」
間髪入れずもう一度引き金を引く。それと同時に久野宮さんが踏み込み名無し神の懐へと入る。
「甘い。」
名無しの神は銃弾を手で受け止め久野宮さんの攻撃を躱そうとする。
「甘いのはアンタだ!」
銃弾を受け止めた手から鉄の鎖が名無しの神へと絡みつき身動きを封じた。
アレには着弾した瞬間に鎖が巻き付く様に魔術式を込めておいた
「チェストォォ!」
久野宮さんは掛け声と共に名無しの神の心臓へと一撃を加える。その技は先代が我輩に食らわせた一撃であった。
だが我輩が食らったものとは格が違う。踏み込みの瞬間に地は震え、拳が当たる時に何かが破裂するような轟音が大気を震わせる。
久野宮さんの拳は名無しの神の身体を貫き通す。
大量の血飛沫で服と顔を汚し笑う久野宮さん。
「危ない!」
魔術式を展開して鎖を取り出し久野宮さんの身体に巻き付け引っ張る。
「くくっ、どうやらそこの童は先読みが得意なようだな。厄介ではあるが面白い力だ。童よ、今から我の配下となれば命だけは助けてやろう。どうだ?好条件であろう?我に着いてくれば好き放題だぞ?酒にも女子にも飢えることはない」
「お断りだ!生憎どちらも足りてるんでね!」
「くくくっ、無欲なのかそれとも大量に酒と女子を囲っておるのか知らぬが神の誘いは断る物ではないぞ!」
名無しの神は七支刀というのだろうか?中心から左右交互に突起がある剣を虚空から取り出し両手で持ち、それを掲げる
「やばい!」
あれは振らせてはいけない代物だと直感が囁く。
魔術式を展開して七支刀と我輩の腕に鎖を絡めまっすぐ振れない様に引っ張る。
鎖からは尋常ではない力が伝わってくる。怨念、呪い、負の感情、とにかく良くない物が感じ取られる
「ほう。面白い。この呪いに触れてもなんともないとは」
目に見える程のどす黒い何か。鎖は軋み、錆び始める。
肩は重くなるし思考は鈍くなる。
だが耐えられないほどでは無い。
「風咲!すぐにその七支刀から鎖を解け!死ぬぞ!」
「まだ大丈夫です・・・!止めている間にぶん殴ってください!」
意識が朦朧とし始めた。
声がする。たまに聞こえてくる声だ。
「俺が代わりにやってやろうか?神だろうがなんだろうが焼き殺してやるよ」
きっとこの言葉を受け入れたら楽だろう。でもこいつ自身なにをしでかすか分からない。
「お前は引っ込んでろ影朧」
「いいだろう。今回はお前の意志を尊重してやる」
意外と物分りの良い奴なのか我輩の意識は現実へと戻る。気づけばさっきまでの思考の鈍さは消え失せていた
「くくっ、本当にお前という人間は面白い!普通の人間なら塵も残らず消えているというのに形も意識も残っているではないか!しかもお前、一瞬ではあったがあの女の匂いがしたぞ・・・!我から名を奪ったあの忌々しい神の匂いがな!」
禁厭を司る神様を我輩は知っている。多分だがこの神から名を奪ったのはその神様だ。
「お前を殺せば我の気も少しは晴れるだろう!この鎖を即刻ちぎって酷く殺してやろう!」
「名も無き神よお前はひとつの事にこだわり過ぎて周りが見えなくなるタイプだな?」
久野宮さんが煽るように笑い名無しの神の足を引っ掛け体制を崩した所に背中で思いっきり体当たりをした。
これも八極拳というやつの技のひとつなのだろ。
「がはっ・・・!」
名無しの神は血を吐きながら地面へと倒れ込む。
あまりの衝撃に床が抜け、神は下の階へと落ちて行く。腕に絡んだ鎖が引っ張られているという事はあの神は七支刀をまだ握っている。
なんという執念、というかもしかして1度握ればもう離れないとかそういう代物なのだろうか?
「名も無き神よ、今のお前に勝ち目は薄いと見える。大人しく仄様の身体から出ていけ」
「誰が出ていくものか!」
久野宮さんの目の前に七支刀を片手で握っている名無し神が突如現れる
鎖はまだ引っ張られている。何かダミーでも括り付けられているのだろうか。
鎖を内包している術式はあと2つ。まだ何とか出来る。
しかし、既に2回見せている術式だ、もう鎖は通用しない可能性もある。
我輩は魔力を足に込め地面を強く蹴る。発破音と共に足の裏に衝撃が走ると共に名無しの神目掛けて身体が吹き飛ぶが如く前へ出る
というか実際靴底に仕込んだ火薬で小さな爆発を起こして吹っ飛んでるのだが
「椿我流、短断、疾風刃来」
爆風の勢いに乗り短刀で七支刀を弾く。普通なら弾く事すらも出来ないだろうが今は速度が力に上乗せされて通常以上の一撃となった。
名無しの神は七支刀を離すことなく後ろに倒れ込む。
七支刀には若干ヒビが入る。だがまだ壊れる気配はない。
「くくっ、人間にしてはよくや・・・」
久野宮さんが技を出す為の踏み込みを名無しの神の言葉を遮るように名無しの神へと食らわせる
神であっても元は人、強度も人と同じなのだろう中身が飛び散る。
ぶっちゃけ吐きそうなレベルでグロい。
「お前らこの元になった人間への慈悲というものはないのか!?」
「あるわボケェ!」
キレる名無しの神にキレる久野宮さん
「さっさとお前が出ていけばワシもこんな事せんでいいんだよ!」
「ぐうの音もでない正論だなおい!でも我にも意地がある!せめてそこの童を殺させよ!」
「我輩かよ!」
傍から見れば茶番だろう
だが全員至って真面目なのだ。
刹那、腕に絡めた鎖が強く引っ張られ、切れる。
何かが来る。階段の方からドスドス、ジャラジャラと足音と鎖を引きずる音がする。
現れたのは絵巻によく出てくる赤鬼であった。
厄介なものがどんどん増えていくのはやめて欲しいものだ。
虎織が起きていればまだやる気が出たものなのだがな・・・




