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12_別に禁じられていない遊戯。

「あっさり死んじゃったんですけど!」

「ここはこの様に言うべきでしょうか?『勇者すみれよ、死んでしまうとは情けない』」

「詩織さん、どこでそのフレーズ覚えたんですか」

「スラングの系列でしょうか?結構web上に溢れていたりしますけれど」

「ええと、僕へのフォローは無しかい?」

「すいません、でも、ここは任せて先に行け、とか大見得を切って単独で戦おうとするからじゃあありませんか?」小首を傾げて指摘する詩織さんです。

「そうするのが格好よいと思ったんですよ。うう、せっかく作ったキャラがー」

「あまり汚れていませんし、名前を少し変えれば再利用できますよ?がんばれ」詩織さんがニッコリ励まします。

「あ、結構スパルタなんですね詩織さんのスタイル」優さんがちょっと引いています。


「戦力の差というか物量の差を読みれずに、ネタに走ったのが失敗だったようですね」冷静に解説する優さんです。

「まあ、ノリで一人に任してしまったのも問題でしたけれど、普通、1対多数だと、袋叩きにあって終わるとは思わなかったのでしょうか?」

「そこはこう主人公補正で?とか?」ちょっと決まり悪そうに言うすみれさんです。

「ないですよ、いや、そういうシステムもありますけど、絶対に勝てない戦いもそこにあるわけでありまして」優さんが解説します。

「暗殺者が正々堂々殿を務めるとか言うミスマッチもありましたし」

「ぐう」ぐうの音を出すというスミレさんでありました。

「基本的には、一回一回、敵味方で交代で攻撃するシステムですからね、相手がこちらの4倍とかいるともう手が回らないわけです。先手を取って、数が減らせる複数を対象に取れる攻撃ができて、さらにその攻撃力が十分で数の差を覆すくらい、排除できるか、相手の攻撃が全く効果がないくらい防御力とか回避力が高いかすれば、まあ別でしょう。けれども格下とはいえ、ちょっと運が悪かったら、一対一でも傷を負いかねないレベルのデータですからね、無印なゴブリン、作成直後のキャラクターでは、これは難しいところであったわけです」とうとうと語る優さんでありました。


「あうう、えーと、はいわかった。でももう少し英雄的なこう無双とかしてみたいとは思うんだけども?」

「レベルが上がればできますよ、ええと、シナリオによっては?」

「どうゆう事かな?」

「それはですね、基本キャラクターが強くなると、同じくらい強くなった敵が登場するようになるので、あまりシナリオ難易度的には変わらないと言いいますか」優さんがしどろもどろ。

「えー、それって、レベル上がっても楽にならないってこと?それって辛くね?」ぶっちゃけるすみれさんです。

「ええ、そういう側面は確かにありますのですよ。でも強くなった時に弱い敵としか戦わないシナリオというのも危機感とか、盛り上がりとかに欠けますでしょう?程よい危機を知恵と勇気で乗り越えて、行くところに達成感とか、面白味がある、のだと思います。まあ、やはり運が悪かったりしたら途中でキャラがロストしますが」ちょっと勢い込んで話し始めて、最後には遠い目をする詩織さんでありました。

「そうなのか。でも漫画とかだとさ、最初からすごく強くて、周囲をこう圧倒して格好をつけるみたいな展開があって、僕そんな熱い展開とか好きなんだけど?」

「一応、最初からレベルを上げてキャラを制作してそういう展開をしてみたりする遊び方もありますよ?」優さんがフォローします。

「それはしないのか?」

「ええと、ゲームのシステムにもよるんですけど、キャラクターのレベルが上がりますと、いろいろできることが増えるんですよね、行動する時に選択肢が増えていくわけです。で、この増えた選択肢なんですが、比例的に大量のデータと紐付いているわけでありまして。これがちょっと厄介なんですよ」

「ええとどういうことかな?」すみれさんの合いの手です。

「つまりねすみれさん、高いレベルのキャラクターというのは、それを操るだけの技術を持っているプレイヤーが必要になるのですよ」詩織さんも会話に加わります。

「??」はてな顔のすみれさんです。

「新鋭機を用意されても素人パイロットじゃ動かせないということ、さらには、システムによっては新鋭機そのものを作成しないといけなくなるのです。ポンコツなメカニックが創り上げたバランスの取れていない機体に、追い込まれた戦況下で、促成栽培された、学徒動員兵を搭乗させる、みたいなシュツエーション、実際にやられたら、困るでしょう?」

「なにそれ、燃える」

「いやそうじゃなくて、普通はにっちもさっちもいかないどころか、大地に立つことすらできないでしょうということです」詩織さんがまとめます。

「まあ、詩織さんの例えも独特でしたけど、最初からできることが多すぎると、場面場面でどうしていいのか迷ってしまって、ゲームが停滞して面白味が欠けてくるので、始めてのゲームならやることを絞って、ゲームの流れとかエピソードに集中出来るようにするために、低い、1レベルのキャラから始めるのを推奨していますよ」

「それに、ゲームに限らずに、楽しみとか工夫って、何か制限がある方が洗練されて、面白味とかが増すような気がしますしね。何でもできるのは実はそれほど長く興味を惹かないことがあるということなのですね」詩織さんが続けます。

「確かに!最弱装備から始まって、スライム(最弱モブ)とか倒して徐々に強くなるとかも、結構好きな感じかもしれない」ちょっと前向きになるすみれさんです。

「そうそう、ちょっと気弱で、頼りない主人公が成長していく物語とか、いいですよね」詩織さんも乗ってきます。

「うん、友情と努力と根性で、こう特訓とかしたりしてな!必殺技とか開発するんだよな、こう過去の屈辱をバネにしたりして、ちょっと暗悲しいエピソードとか織り交ぜて、『これはお前の技だったな』とかつぶやきながら『これで最後だ借りるぜ友よ』とか」

「そうそう」

「そして言うのさ『安心しろ、俺もすぐそっちに行くから寂しくないぜ』うんいいね!」

「「そのキャラなんですぐ死んでしまうん(ですか)」」

「あれ?」本気で首をひねってしまうすみれさんでありました。


「よし、では2号が完成しましたよ」さっと、イラストを描きなおすすみれさんです。

「おお、何度見ても見事な絵ですね」優さんが感心します。

「バストアップで、角度も慣れたものじゃないと上手く描けないけどね」ちょっと照れ笑いのすみれさんです。

「ちょっと羨ましいですね。私が絵を描くと、猫が犬に見えたり、狐が犬に見えたり、キリンが犬に見えたり、人が犬に見えたり、しますから」死んだ魚の目をした詩織さんです。

「犬率高いな!というか、人と犬くらいはかき分けようよ?!」思わず突っ込む優さんでございました。

「ちなみに本気で書いて、彩色までした人物画を先生に見せたら、カウンセリングを進められました」ちょっと青い表情の詩織さんでございます。

「いや、だって、詩織、人物画でビジリアンブルーとかパープルとかを一番使用するとかよく分からない色彩感覚で攻めてきているもの」すみれさんがツッコミます。

「一度見てみたいような見てみたくないような。うかつに鑑賞すると、正気度がピンチになるやもしれませんね」優さんがつぶやきました。

「別に好きでキュビズムみたいな絵を描いているわけではないんですけども、見たままを描いているだけなんですけども」わたわたと自己弁護に走る詩織さんです。

「そのような世界に見えていると思われているからカウンセリングを勧められたんじゃないのかなぁ?」ちょっと冷汗をかいているすみれさんでありました。

「まあそれはともかく、絵を描くことが上手いと、テーブルトークRPGもまた別の遊び方とか、遊び方のイメージが広がったりしていいですよね。冒険の風景を切り取ってスケッチしてみるとか、楽しそうですよ」

「なるほど、確かに。というか、そのままストーリーを下書きにして漫画に起こしてみるのもありだな」一考の余地ありという顔をするすみれさんです。

「すみれさんは漫画描きなんですか?」

「そうなんですよ、結構本格的で、お年玉とかお小遣いとか画材やら機材やら資料やら教本やらにつぎ込んでいるくらいで、お話も結構好きです」

「いや、それほどでも」


「王子様と王子様の恋愛とか、意表をついたラブストーリーを大真面目に描いている作品とか、斬新でした」頷きながら淡々とおっしゃられる詩織様です。


「いや!それはここで言うな!というか優さんの前で何を言っているかな君は!」

「?ああ、別にそのあたりはもうコンプライアンスはすり合わせ済みなのです」

「え?」

「優さんも、私も、たしなみ程度には腐っていても忌避感はないですから、と事前に確認済みです」胸を張り詩織さんです。

「いや、たしなみ程度って」優さんが変な笑いを零しています。

「ああ、まあ、それなら」

「そうそう、『やおい穴』って本当はないらしいですよ?」

「詩織さん、小学生女子がいう単語じゃないですからねそれ」疲れた表情の優さんと。

「え、ないのか」本気で驚いているすみれさんでした。



「ところでですね、会話の途中で出てきた『正気度』という単語なんですけど、結構ゲーム界隈で耳にするものなんですけど、結局なんなのでしょう?」詩織さんが尋ねます。

「え?正気がなくなるとかそういうこう困ったような状況になることじゃないのか?」すみれさんは困惑顏。

「ああ、それですね。ええとサブカルチャー方面だと、SAN値とか言った方が良いかな?サンチと読みますね、アルファベットで、”SAN”と書きます、ええと正式名称はどうだったかな?と」タブレト端末を操作する優さんです。

「ああこれだね、Sanity、つまり、正気とか健全とかの値のことだよ。とあるゲームではこれがキャラごとに設定されていて、異常な状態に遭遇するたびに減っていく可能性があるんですよ。これが減るということは、正気でなくなって、いって狂気に近づいていくという感じを表現するわけですね、ただ、原作ゲームでは別の意味っぽいですね。現在の正式名称は正気度というらしいです、いわゆるスラングというか、通称?のような物らしいですよ」優さんが続けて解説します。

「どんなゲームなのですか?そんな怖そうなゲーム」

「クトゥルフ神話テーブルトークRPGだね、結構有名かな?ボードゲームとかカードゲームとかにもなっていますね」

「ラヴクラフトですね、原作は知ってますよ?ダーレスさんとかも書いてるやつです」詩織さんが打たれたので響いてみるような返しをいたします。

「あ、僕も知ってる。結構漫画の中で出てくるよね、あのクリーチャー群。なんだかよく分からない事件の背景に実は、とかいうオカルトとか、超常バトルものとか、後、なんだか這い寄ってくる混沌が可愛いすぎるんですけど漫画とか、結構笑えて楽かったよ」

「え、ホラーですよ?あれ。結構な感性の持ち主ですねすみれさんは、あ、でもまあ人間の非力さが笑えるということなら納得ですね」詩織さんがちょっと黒い笑みを浮かべます。

「いや違うからな、そんな黒い楽しみ方じゃなくて、クトゥルフの邪神とかを萌えキャラ化して、ギャグテイストにアレンジした作品なんだよ、結構主題歌とか耳に残る作品でな、中毒性があったりなかったりしたそうだ」慌てて否定するすみれさんでありました。

「というか、多分このシリーズのリプレイが漫画化されていて、読んだことがあるよ。結構絵柄が魅力的で話も楽しかった」と続けて言います。

「怖可愛い、這い寄る混沌さんの、お話はもともと小説でして、確かその時のイラストレータが、クトゥルフ神話RPGのリプレイの挿絵も描いたりしていましたね。多分隣の倉庫にありますよ、リプレイも小説も、今度読んでみますか?」

「ぜひも無し」なんだか第六天魔王のような受け応えをしてしまっている詩織さんした。

「ラヴクラフトとかの原作も、コミカライズされていたはず。あとスピンオフというか、世界背景を利用した漫画も多かったかな?探せばどこからか出てきそうではありますね」優さんはすみれさんに向かっても言います。

「あ、それはちょっと読んでみたいかも?」

「了解しました、探しておきます」

「じーじの書庫にも小説ならあるかもしれませんね」

「詩織さんのお祖父さんなら押さえてありそうな、ラインナップではありそうですね」優さんがしみじみと頷きます。


「そうそう、『つくたん』にも正気度を扱った拡張ルールが考えられたりしてましてね、ホラーテイストな冒険を簡単に楽しめるといいかなとか、軽い気持ちで」

「へー、どうなったのでございますか?」

「キャラロストがしやすいゲームに輪が掛かりまして。バランス調整が難しいので玄人好みすぎますかね?と身内で冊子を少量作成しただけにとどまりましたよ」変な笑い声をあげてた優さんでありました。


 さすがにテストプレイ開始五分で全滅するとは思いませんでした。とつぶやいた言葉は、みなさん優しい世界を維持したかったので、ここにいる誰もが、聞かなかったことにしたのでありました。







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