夏休みのちょっと前
熱い(気温的に)死闘を無事乗り越え、おつかいを完遂した悠は帰宅後シャワーを浴びて火照った身体を冷やし、道場に出て一人練習に打ち込んだり、たまにはと勉強をしたり、昼寝をしたりして日中を過ごし、夕方、学校が終わった後に寄って来た郁斗に昼間の死闘のことについて文句タラタラに話すと
「ぶふ、ははははっ!!」
「わーらーうーなー!!」
盛大に笑われた
それはもう盛大にだ。普段、クールに口元を上げるくらいにしか笑わない男が目尻に涙を浮かべながら爆笑している様子は珍しいものだが、その対象になっている悠からすれば憤慨ものだ
「いや、悪い悪い。そんじょそこらの人には負けないくらい強いクセに動物がてんでダメって言われるとやっぱ、な?」
「昔から苦手なの知ってるでしょ!!そんな笑わなくても良いじゃん!!」
ぶっすぅっと膨れる悠に悪い悪いと謝る郁斗だが、その口元はまだ笑っていてそれが更に悠の不機嫌さを増させる
みるみるうちにムスッとした表情になっていくのを目の前で見ていた郁斗はしょうがないなと言ったような笑みと共にため息を吐くと片手で膨れた頬をむぎゅっと掴み、頬を空気をぶひゅっと抜いた
「ありをうるー!!!」
「膨らんだほっぺっをどうしても潰したくなってな。まぁそんなことはほっといて、怒るなよ、ほれ」
もう片方の手でガサゴソとスクールバッグの中を漁るとコンビニのビニール袋を取り出すと
「最近発売された夏限定のコンビニスイーツ。マンゴー、なんつったっけかな?とりあえず暇をこじらせているであろうお前のために買って来てやったんだが、食べるか?」
「はえぶ!!」
「落ち着け」
スイーツ、と聞いて目の色を変えてあっという間に機嫌も直した悠に呆れるように笑いながら頬を潰していた手を離してやり、買ってきたコンビニスイーツをテーブルの上に置く
前までは甘いのが苦手なくらいだったのに今ではすっかり甘味の虜になっている悠の視線は既に買ってきたマンゴーココというマンゴーとココナッツを使っているというスイーツに釘付けだ
「冷やした方が美味いやつだと思うけど、今食うか?」
「うーーーーーーん、今食べる」
悩んだ末に我慢できずにその場で食べることにした悠は蓋を開け、袋に入ったプラスチックのスプーンの包装を破り、一掬いして口の中にほおり込む
「んー、美味しー」
「そりゃよかった」
300円しないくらいのスイーツで満面の笑みを浮かべている悠を見て、郁斗もつられて頬をほころばせる
何かと根を詰める性格の悠のガス抜きに、実は最近ちょくちょくとこの手のスイーツを買う様になっている郁斗なのだが、その成果は上々と言えた
次々とマンゴーココを口に運んでいく悠はそれに文句もなく舌鼓を打っていたのだが、その内郁斗は特に何も口にしていない事に気が付く
「郁斗は何か買って来なかったの?」
「んー、あんまピンとくるのが無くてな」
「じゃあ少し食べる?」
スプーンを口に含みながら郁斗にもマンゴーココを分ける提案をしてきたことに次は郁斗がうーんと悩む
彼自身は別にスイーツ等の甘いものは別に嫌いではないが別に率先して食べる程でもない
今日はその手の物を買って来なかったのも別に食べたいと思わなかったからに過ぎないだけで別に特別理由がある訳でもなかった
「はい」
「ん?」
だからと言って悠の為に買ってきたのを自分で食べるのもな、なんて思っているとズイっとゼリーとクリームが乗ったスプーンが差し出されて、郁斗の意識は思考から目の前の物へと引き戻される
「だから、ほら、あーん」
「ん、んぐっ、おっ、結構美味いなこれ」
咄嗟に言われた通りに口を開け、差し出されていたスプーンがその上に乗ったスイーツと共に口の中に突っ込まれる




