夏休みのちょっと前
郁斗の妹の名前を郁香へと変更しております
その味は郁斗にとって割と嫌いじゃない味だった。砂糖の多い感じではなく、果実っぽさの方が多い甘さに滑らかなクリームがそれを更に食べやすいものにしている
とっつきやすい、爽やかな甘みに素直な感想を口にすると
「でしょー。これは結構郁斗も好きだと思ったんだよねー」
ちょっと満足げに笑う悠がそのスプーンで再びマンゴーココを掬って口に運ぶ
本人は気にしてないのか、気が付いていないのか、分からないのでとりあえず郁斗は聞いてみることにする
「ところで、前に恥ずかしがってた間接キスだが良いのか?」
「ん?いや、よく考えてみたら前にも普通に飲み物の回し飲みとかしてたし今更だなーって思って。人前でしなければ良いんじゃない?」
「あー、言われてみればそうだな。そうか、お前別にそう言うのが恥ずかしいんじゃなくて囃されるのが恥ずかしいのか」
「なのかな?よく分かんないや。まぁ、でも人に見られるのはちょっと恥ずかしいかも」
スプーンを加えて肩肘を付きながら器用に応える悠はもう間接キス程度では怯まなくなったらしい
まぁ、確かに悠の言う通り、男の頃から考えれば飲み物の回し飲みくらいは普通にしてたし食べ物を半分にしたりして食ってることはちょいちょいあったことを思い出して郁斗は成る程なとこぼす
その行為自体が恥ずかしいのではなく、それを見られて囃し立てられるのが悠は苦手なのだ
言われてみると、大体本人は恥ずかしいとか思ってないところを誰かに指摘されてから恥ずかしがってる事の方が多かった気がする、と冷静に分析してみる
「ま、そういうことだしもうちょっと食べる?」
「そういうことなら貰おうかな」
そうして何回か悠の差し出すスプーンを口に入れながら呑気に過ごしていると
「みーちゃった、みっちゃったー。ハル姉と兄貴のイチャイチャ現場~」
部屋の入口の方から、愉快そうな声音が聞こえてきた
むっふっふー、と笑うのは部屋の入口、戸の隙間からこちらを覗いている郁香の口から洩れていた
「お前、何してんの」
「いやー、兄貴が家に帰らないでハル姉のとこに真っ直ぐ行ったのが見えたからこれは何かあるなーと思って来たら思った通りですよ」
「アホか」
盛大に大きなため息を吐いた郁斗が、わざわざそのためだけに身を潜めていた妹のアホさ具合に呆れるが、郁香のニヤニヤは止まらない
その視線はさっきから一言も喋っていない悠に向けられていた
「むふふ、一緒に帰ってるならまだしも、わざわざ寄って帰るのを見たら何してるのかが気になるのが妹の性ってやつですよぉ。いやはや、まさか餌付けをしていたとは、ねぇ?ハル姉」
「え、餌付けされてないし、買って来てもらったからには食べてるだけだし」
「それを一般的には餌付け、と言うんですよ」
「うぐっ」
見られていたのがやはり恥ずかしかったのか、悠は頬を赤らめつつ、決して郁香には視線を合わせないようにしながら反論するも速攻で撃沈される
定期的に甘味を買ってもらって、思えばいつも一緒に食べてる気がすると思い返す
「ま、良いけどね。兄貴も考えがあってのことだろうし。なんにせよ、良い目の保養でしたわー。美男美女がスイーツ一つを一緒に食べてるとかホントラブコメ好きな女子からすれば絶品のオカズですわ」
「このラブコメ脳め……」
にししと笑う郁香の趣味は少女漫画収集、特に恋愛ラブコメ系を好む傾向のある彼女にとって、絵にかいたような美男美女の郁斗と悠が傍目から見るとイチャコラとしている様子は彼女にとってとても美味しい妄想の材料になったのだろう
彼女自身の容姿も美少女に相違なく、その気になれば彼氏の一人や二人は余裕で作れるはずなのだが、本人はそう言うのはもっと大人になってから、らしい
おほほほほと高笑いしながらその場から退場していった
「悪いな、バカ妹が」
「べ、別にいいよ。郁香も、私らにそういう気が合った訳ではないのは話聞いてたっぽいから分かってるだろうし」
あの言い分だと一部始終丸々を戸にへばりついて見聞きしていたのだろうから本人達にそういった気が無いのは分かっているはずだった
まぁ、郁斗の母の育代には報告が行くのだろうが
カエルの子はカエルと言わんばかりに育代の方もラブコメ好きの女性で、よく二人で少女漫画を読んでいるのを二人は見たことが何度もあった
「やっぱ、あれだね、ちょっと見られるのは恥ずかしいかな」
「その辺は上手くコントロールすればいいんじゃないか?別に俺は気にしないし、俺には好きなだけ甘えろよ。お互いさまってやつでな」
恥ずかしさを誤魔化すように笑う悠に、郁斗は思ったままの言葉を伝える
甘える、と言うのは男女の付き合いのような甘々な空間のそれではなく、自分には本音や着の身着のままの素で頼ってくれていい、と言う意味だ
悠は普段から演技をして過ごしているようなものだし、昔から自分を型にハメてしまう悪癖がある
前はそれでもよかったのだが、色々と前提条件が揺らいでいる状態の悠にそれは危険なのを郁斗は分かっていた
「お互い様?」
「お互い様さ」
ふーん?と首を傾げる悠に特に心当たりは無いようだが、郁斗にとっては心当たりがあるようで意味ありげに笑うとごそごそとまたスクールバッグの中を漁る
「ま、そんなことはどうでもいいさ。今日はどっちかと言うとこっちがメインでな、絵梨からだ皆で行こう、だとさ」
中から取り出したのは二枚のチケット。仙台市内にある遊園地、そのプールエリアの入場券だった




