拾九章─過去③─
男どもが、順に向かって殴りかかってくる。
男子①「楽勝楽勝!」
男子②「あーばよ!」
一人目の拳が前、二人目が後ろと、挟み撃ちで攻めてくる。
それを純は難なく躱し、ニタリと笑う。
敵の拳はまるで漫画やアニメのように相手の顔面にぶつかろうとしたが、
まるで示し合わせたように、寸前で止まり、次の瞬間─
純の腹が、二つの脚によって抉られていた。
純「かはっ…」
準「白山あぁぁぁぁぁ!」
男子②「ふん、案外簡単だな、お嬢様ってのは。」
男子①「あぁ。だから『温室育ち』なんて言われちまうんだよ。グレちまうぐらい黒く染まった、俺らの人生とは」
準「黒いのは、そっちじゃねえよ。」
男子2人「!?」
男子①「ハン、強がり言ってんじゃねぇよ。」
男子②「大体、今のお前に何が出来るって言うんだ?お前を救ってくれたこいつも、どうせ引きこもりか転校。
今までお前を救おうとして失敗した奴等が、代々辿ってきたお決まりの末路だろ?そしてお前は、そんな種類の奴でもいねぇとチャンスさえ巡ってこない弱虫」
準「弱虫は、お前等の方だ!」
男子①「何ッ!」
男子②「テメェ!今の見てなかったのか!俺等のどこが『弱い』って─」
準「実力が低い『弱さ』と、性格的な『弱さ』じゃ、ワケが違うんだよ。
お前等は後者だ。誰かを下としていないと上でいられない。精神が貧弱だからだ。
実力的にも、この場合、上昇志向が少ないから、上がりにくい上に上がる限界の器が決まっている。
お前等はその中では大分強いらしいが、それは境遇のせいで真っ黒になってしまったと人任せにして人生を捨ててきたから。
だけど、この生き方には一つ、かなり大きな欠点がある。それは─」
突如、男達の下から、顎に向かってアッパーが決まる。
準「─本当に器が大きな人間には、勝てる確率の方が少ない、ってところだ。っておい!」
純「あー痛かったぁー。ホント、酸素抜けちゃうかと思ったぁ。」
準「人が喋ってんのに、いきなり相手の顔をぶっ飛ばすなよな!」
純「知らないわよぉ!
第一、当初の目的は喧嘩であってお喋りじゃないでしょぅ!」
準「いくらなんでも時と場合を─」
男子①「ホント、当初の目的を忘れてたぜ。」
男子②「早いとこ、トドメ刺しときゃ良かったな。」
男子①「でもまぁ、
怒った俺達を止められる奴なんざいねぇんだし、
ただの力だけなら俺等の圧勝!
なんたって俺は、空手の県大会に出てんだからな!」
男子②「んじゃ、一気に終わらせっかな。
こんだけ俺等を困らせた女は、終わったあと死ぬほどの屈辱を味あわせてやらねぇと。」
男子①「今度こそ、試合終了だァ!」
準「まずい、逃げるぞ!」
純「何でよ!逃げたら負けに─」
準「馬鹿!誰が『この場から引く』なんて言った!
勝負の舞台はこの廃工場!裏を返せば、ここから出なけりゃ勝負は終わらないんだ!それに─」
純「それに?」
準「この工場、閉鎖されてからさして時間が経っていない。
立ち回り次第では、俺も協力できるかも、しれないからな。」




