拾八章─村娘の恋②─
瞳が、教室に着いた。
前の方で太った男子が、立ち上がる。
入り口から入ってすぐの、一番後ろの席が、毅の席だ。
毅「おう、おはよう、瞳。」
瞳「おはよう、毅。」
友達1「おぉっ、お二人さん、登校した瞬間から名前で呼び合う見事なラブラブっぷりぃ~。今日も見せつけてくれますなぁ?」
瞳「あっいやぁ別に、そんな」
毅「なぁに否定してんだよ、合ってんじゃねぇか。」
瞳「はあ?あたしとあんたのどこが─」
毅「ダチとしちゃあ、『大好き』だからなッ!英語で『ラブ』だぜ?」
瞳「…くだらない。」
毅「ええっ嘘ぉ!?」
大きな手が、瞳の首を掴んで、拳が向けられた。
瞳「…?」
毅「瞳ッ!!」
太った男子「お前ェェェェ!!!」
その拳には、ナイフが握られていた。
瞳「だッ…誰か…誰か…助けてぇぇぇ!!!」
東「そして君が、盗聴犯の、野村 幸久君だね?」
野村「と、盗聴犯なんて、言わないでくださいよ!別件なんでしょう?」
東「あ、あぁ、すまんな。それで?君は何か、怪しいものを見たりは─」
野村「見てませんよ!でも、僕が先生を殺すことは、不可能ではないんですか?」
東「ほう?何故そう思うのかね?」
野村「だって、死亡推定時刻は、午前七時三十分頃なんでしょ?その頃は丁度、登校してくる人が多くて、廊下は一杯。そんな時に僕が女子トイレから出てくれば、誰だって不審に思うじゃないですか。」
鈴木「そうとも限りませんよ?個室に身を潜めることもできますし、女子トイレの窓の外は、狭いベランダ。一つの階で全て繋がっていて、女子トイレの窓からでて、ベランダを通れば、男子トイレや自分のクラスに現れることは可能だと、先ほど捜査員から報告がありました。」
東「どうなんだい野村くん、盗聴器がばれて、カッとなったとか、そういうことではないのかね?」
野村「そんなわけないじゃないですか!大体、ばれてたら、教師ならそれを回収して、僕を呼び出して叱るはずですけど?」
東「そっ、それもそうか…」
野村「僕、追試の勉強があるんで、もう帰ります!まぁ、刑事さんに犯人扱いされて、それどころではないかもしれませんけどね!」
瞳「助けてぇぇぇ!!!」
「!?」
健「瞳の声だ!」
優「くっそう今度は何だってんだ!!」
健「とにかく行くぞ!」
明「そうと決まれば」
健「お前らは待機してろ!!」
流「何で─」
聡「大勢で行っても、彼には邪魔なだけだよ。それに何があっても対処できるようにするには、後ろで待機が丁度いい。」
健はもう既に、行ってしまっている。
宰「プリズンでも出ない限り、基本は健様御一人で対処できるとは思いますがね。」
教室では、毅が太った男子に掴みかかっている。
毅「おいテメェ長田ァ、瞳に何すん─」
長田「引っ込んでろよ!」
長田が毅を投げ飛ばす。
毅「ぐっ!!」
瞳「毅ッ!」
長田「お前ェ、そんなにコイツが好きかァ?知ってるか?コイツはなぁ、老人が歩道橋で重い荷物持ってても、無視して通るような冷たい奴だぜ?老人はバランスを崩して転落、死亡したらしいしなァ!」
健「ほ~う。よく知ってんなぁ。んじゃあその老人、何持ってたんだ?」
健は、窓際に座って、長田の話を聞いていた。
長田「牛乳とお茶のペットボトル、二本ずつだ!って─誰だ!?」
健は、手を叩いて称賛する。
健「よく答えられたなぁ。まさかテメェも、そこにいた訳じゃあるまいし。」
長田「なっ─」
健「その顔。図星だなぁ?んじゃテメェも、人の事言えたクチじゃねぇってことで。」
健は立ち上がり、瞳を掴む長田の腕を掴み、
健「放せよ。」




