拾七章─冷静で余裕な奴─
準「よぉ、空き巣野郎。」
準は、津田 健を屋上に呼び出すことに成功していた。
津田「何の用だ?黒瀬 準。」
準「いいか?今から俺も、お前の質問に正直に答える。だからお前も、正直に答えろ。さもないと轟 桜の居場所を調べ上げ、殺しに行くぞ?」
健「…分かった。約束しよう。」
準「では、本題に入ろう。お前、クローンに一枚噛んでるだろ。」
津田「何の話だ。」
準「体細胞クローンなんて、普通、本人の許可なしでは造れっこない。お前が関係してるとしか思えない。」
津田「俺は自分の細胞の提供なんて、していない。」
準「お前、『細胞』ってのを正しく理解してんのか?唾液のだって、細胞が─」
津田「理解している。成績はお前よりはいい。」
準「ほう、よく俺の生物の成績なんて─」
津田「科学教師が、生物教師と友人関係にあるらしくてな。使えると思って、お前に呼び出しを受けた時点で、調べさせてもらった。」
準「なるほど、それで?何に使おうと思ったんだ?」
津田 健「お前、機会工学的なことはさらっとやってのけるくせに、生物学はさっぱりだそうじゃないか。」
準「だからなんだ?イラつかせてばかりでは─」
津田 健「総合的に見ても、お前は俺にさえも勝てない。つまり話したところで、お前は理解しない。理解できない。」
準「何の話だよ。─ん?待てよ、生物学って…」
津田 健「俺はお前ではなく、別の男にこの状況を知ってほしかったのだがな。科学教師もそう言っていたし。昨日、お前との接触もあったようだしな。」
準「お前、翼のこと、そこまで頼りにしてんのか。」
津田 健「アイツ、ねぇ。」
準は、…?と訝ったが、深くは追究しないことにした。
津田 健「それと、昨日、何故あの場面で、本庄 翼が逃げると言い出したか、解るか?」
準「怖じ気づいた、とかか?」
津田 健「アバウトに言うと、そうだな。だが理由は、もっと深いところにある。知ってしまうと、我々の本質に気づいてしまうようなことがな。本庄 翼は、お前の知らない何かを足掛かりに、それに一歩近付いた、ということだ。んじゃな。」
津田 健は、終始冷静な様子を崩さないまま、立ち上がった。
準「おいちょっと─」
津田 健「こちらから特に質問はない。元から、俺に答える義務などなかったんだ。お前が人質としようとしている女も、お前では到底手の届かないような闇の底だ。俺は厚意で来てやっただけ。ここに留まる義務も、ないからな。」
そう言って、津田 健はその場を立ち去った。
優「健はなぁっ!!桜がどうでもいいってわけじゃねぇ!!」
健達とは離れた場所。
優は、聡に対し、大声で怒鳴った。
聡「お前は何も分かっちゃいない。顔だけ似てるアレシアが居ると言った(アイツ)は、さ桜さんの心配なんて、微塵も─」
優「分かっちゃいねぇのはテメェの方だ!アイツはな、桜のことが心配で心配で仕方がねぇんだよ!!でもそれを見て、周りが心配するのを、アイツは良しとしねぇ。日常生活こそ桜に頼りきりだったアイツも、いつでも余裕の笑みを浮かべて、余裕な態度で色んな事をこなしてたじゃねぇか!」
聡「だから何だって言うんだ、奴は所詮、桜さんの事を顔でしか認識してなかったってことなんだぞ!!!」
優「違うッ!!!そうじゃねえ!それはアイツの中じゃ、桜の存在がこれ以上ないほどでかかったってことなんだよ!!」
聡「何故そうなる!!何度も言うが、お前はあの言葉を聞いてなかったと─」
優「聴いてなかったのはテメェの方だろうが!!!!!」
聡「何─」
優「奴は!健は!!桜のことが、余裕の笑みの一つや二つじゃ隠しきれないほど、心配だったってことなんだよ!!!」
聡「そんな─」
「ガウガウガウッ!」
二人「!?」
二人とも一斉に振り向く。
優「うわっ、何だこいつッ。」
優が驚くのも無理はない。
それは、まるで犬と羊を合体させたような、異形の生物だった。
優「んじゃ、力試しといきますか!」
アレシア「怪物を探知!近いぞ!」
健「んじゃ、力試しといきますか!」
だが、その怪物は既に、優によってのされてしまっていた。
怪物はこんがり美味しそうに焼けていた。
優「何だ、怪物っつっても、この程度か。」
アレシア「何だ。ゴートッグか。」
健「ゴートッグ?」
アレシア「この怪物の種族名だ。名前の由来は─」
聡「英語だな。」
アレシア「あぁ、そうだ。羊と犬を合わせたような形だからな。」
健「なるほど?羊(goat)と犬(dog)で(goatog)、ってか。」
優「でも、よく判ったなぁ。この焼けた怪物がゴートッグだなんて。」
アレシア「あぁ。昔飼っていたものでな。非常食と番犬を兼ねて。」
宰「忠実な番犬としての性質、羊の肉としての肉質。まるで人間のためにいるような生物ですね。」
アレシア「それはそうだろう。人間が創ったのだから。」
おかしい。科学技術が電話ぐらいにしか見られないこの世界で、そんなことをする技術があるとは思えない。
健「どうやって創ったんだ?」
アレシア「魔術だ。」
流「魔術?」
アレシア「そう。太古より存在する古の星魔器、『悪意杖』。使用する人間が、その物に対して抱いているイメージを元に、具現化させる魔力を、この世で唯一持つと言う、悪魔の杖。」
調「そんなものが、実在するんですか?」
アレシア「いや、実際には存在しない。」
ズコッ
健「そんなんじゃ結局、ゴートッグは昔からいる怪物ってことだな。」
アレシア「あぁいや、そうでもない。『古より存在する』とか言ったが、それも伝説の一部であって、それは20年前~15年前までの五年間だけ、ただの噂としては異例の真実味や大衆の興味を誘った話というわけだ。」
明「まぁ結局のところ、所詮はただの都市伝説ってか。」
健「まぁ、雲を掴むような空想の都市伝説より、今は王国を『仁技体学団』から救うってのが先決だからな。先を急ごうぜ。」
宰心の声『その方が、現実世界に戻る近道かもしれないし。』
聡「あ、あの、健!」
健「ん、何だ、聡。」
聡「あっいや、その…悪かったな。」
すると健は意外そうな顔をして、フッと余裕の笑みを浮かべた。
健「何がだよ。」
だがその顔は、いつもよりどことなく、健にしては珍しい、淋しげな雰囲気を漂わせていた。




