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聖女は、勉強する。(1)

ゲームでテレポートの時に最初に画面をうねうねさせた人は、テレポート経験者に違いない。

初めてのテレポートは感動よりも吐き気、である。

とりあえずついてすぐ脇道へゴーだ。

詳しくは述べない。


『変幻』で念のため銀髪にして、花は改めて街を観察する。ついた場所は、思ったより寒いところだっだ。

「ここは、王都からはかなり北にあたるからな。とりあえず宿に入ろう。あー、ところで。」

ちょっといいよどむイルディンに、花はなんだろう、と首をかしげる。

「聖女様。何か食べさせてもらえないだろうか?」

ああ、そういうことか。魔力、たくさん使ってそうだもんね。

聞けばやはりテレポートは魔力消費が大きく、使える人もかなり限られているそうだ。

森で魔力がなくなっていたのは、仕事を必死で終わらせたイルディンが、なんとか聖女召還に間に合わせるため、かなり無理をしてテレポートを使った結果だったらしい。

「花、でいいですよ。うーん、材料さえあれば、さっきのスムージーよりは美味しいものをご用意できると思うんですが。」

とはいえ、もう、夜になっている。

灯りがついている店は、たぶん居酒屋など、お酒を提供する店だろう。


お酒、か。

花は、ふと思い付いて、称号を探してみる。

『リキュールの調合師』

「お酒があれば、魔力回復できるかも、です。」

結局、イルディンの知り合いの店があるとかで、街の小路を入る。

「目的にあっているか?」

聞かれて店内を見ると、いろいろなお酒の瓶が並んでいる。

いけるんじゃないかな?

ただ、ラベルの文字が読めないため、リキュールっぽいものの種類が分からない。

ともあれ、称号ページからシェイカーやマドラーを取り出し、店の許可を得て、カクテルを作らせてもらうことにする。

『カクテルソムリエ』

大学二回生の時に、めちゃくちゃはまってとった資格。ちゃんと勉強していれば、わりに取りやすい。

称号ページに、レシピもあったため、名前を言ってリキュールを出してもらう。

リキュールは知らない名前のものばかりだったが、できたカクテルの名前はなかなかしゃれていた。

「深紅の告白、らしいです。」

イルディンに出すと、驚いた顔をしたのちくいっと飲む。

顔つきからすると、魔力回復はできたらしい。

お店の許可も出ていたので、ミリエルと自分のものも作って、ありがたくいただく。

雰囲気としてはカシスソーダに近い味。

カクテルにはカクテル言葉があり、なかなかにロマンチックだが、ここではそれがストレートにカクテル名になっているようだ。

「青のうたかた」「初恋のしらべ」など、気になるものが多い。・・今度作ってみようと花は思う。

客はもうおらず、店主のみ。

あまり酒に強くないのか、少し赤くなりながら、ミリエルが聞いてきた。

「花の『称号』には驚かされるばかりです。なんでそんなにたくさんあるんですか?」

花も、ちょっとお酒が入り、ミリエルの問いに素直に答える。

「ん?私ね、旅行が好きなの。いつも違う場所で、全部がちょっと特別な、あの感じが好き。」

だから、花は旅行の手伝いができる仕事がしたかった。

どうせ行くなら、その人にとって、その旅行が、何かを得るものであってほしい。

好きなものを、より深く。新しいものは素敵な体験と共に印象深く。一人でも知らなかった自分をみつけたり。パートナーのことがより大好きになったり。

「そのためには、案内人がいたらいいなって思ったの。だから、旅行でイメージできる資格とか検定、たくさんとったんだ。」

お好み焼きの知識も、求められたら最高のかたちで提供できるように。

自信がない人にメイクでちょっとした後押しを。

旅と言えば美味しいお酒!という人には至福の時間を。

挑戦するのは、時間もお金もかかったし、必死で勉強し続けた。

でも、まだ見ぬ旅行者との出会いを想像して頑張る時間は、少しも苦ではなかったのだ。

『役に立たなさそうだなあ。』

面接した社長の言葉。自己満足と言われても、言い返せない。

そうかもしれない。

けど・・

「花。僕は今、花を召還できた自分が、すごく誇らしいです。」

ミリエルが、真っ直ぐに花を見つめた。

「称号は、花が自分の努力でこつこつ得てきたものなんだな。」

奥からイルディンが、暖かい視線をくれる。

あまりにストレートに認められて、花は戸惑った。

「花。聖女というのは、異世界の人なら誰でもなれるわけではないんです。召還の力を持つものが、感じ取れるだけの光を放つ人でないと、だめなんです。」

ミリエルがポツリと話し始める。

「魔物の兆候が現れたとき、すぐには僕、光を感じ取れなくて。優秀な神官なら、複数感じ取る人もいたそうですが。でも、ある日、見つけた!って思って。」

「そのチャンスを逃してはならないと、とにかく急いで召還の儀式を行ったんだ。だが、結果、あなたでなければ、みすみす我々は聖女を失うところだった。遅くなったが、突然異世界に呼んだあげく、あり得ない待遇の数々、心からお詫びしたい。本当に申し訳なかった。」

イルディンがこちらに来て深く頭を下げ、ミリエルが横で同じように倣う。

「いや、もうしょうがないっていうか。あなたたちがいたから結果的に助かっているわけだし!」

花は慌ててしまった。なんせしがない就活生。頭を下げられることには慣れていない。

とりあえず席に戻ってもらう。

「僕は、召還のとき、自分のことしか考えていませんでした。召還した相手に夢とか生活があったなんてまったく気にしてなかったんです。申し訳ないとは思います。でも、僕は、花で良かったです。」

ミリエルがしみじみ言うのを見て、花は思う。

(ミリエルって、いいやつではあるんだよね。)

押しに弱くて、でも、卑怯にもなりきれない優しいやつ。

前の世界にはわりといたような気もする。

いつの世も、そういうやつは、損をしがちだ。


「とにかく、今日は休もう。話は明日だ。」

イルディンが言い、立ち上がる。

宿はその居酒屋の二階にあった。

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