弱虫神官は、怒られる。
完全にのびているお頭以下山賊一味を、イルディンは何やら唱えながら宙に浮かせて、一ヶ所に集める。
「精霊よ、牢を。」
ささやくようにそう言えば、周りの木の枝が絡み合って山賊たちを包み込み、自由を奪う。
「ゴーレム」
短くとなえると、土が盛り上がり、人形のようなものが三体。
「彼らを頼む」
顔のないゴーレムからなぜか「御意。」と聞こえたような。
それからイルディンは、指を誰もいない茂みに向けて、釣りをするようにくいっと曲げる。
「わああああ!」
という気の抜けた叫びとともに見えない糸に釣り上げられて、寸分たがわず花たちの前にしりもちをついたのは、少し前にいなくなったミリエルだった。
いたたたた、と腰をさすったミリエルは、自分を釣り上げた主を見てすごい速さで正座する。
ん?知り合いか?
「なあ、ミリエル。お前はなんでここにいるんだ?」
イルディンの問いに、分かりやすくガタガタ震えるミリエル。
だが、話は突如、中断される。
「見つけたぞ。」
低い声とともに、黒い集団に囲まれてしまったのだ。
先ほどの声から察するに、グランキン伯爵の追っ手っぽい。
「話の途中なんだが。」
冷ややかな声でイルディンが言う。
「すぐに同行してもらう。」
低い声が返す。
「ミリエル。だれかわかるか?」
「後で説明しますが、同行しない方が良いことだけは確かです。」
ミリエルが言うと、イルディンは「だ、そうだ。」と伝える。
「ならば力ずくだな。」
低い声と同時に、集団の皆が分かりやすく殺気だつ。
「ミリエル、彼女から離れるなよ。」
言われてミリエルは、花の腕をつかんで大きくうなづく。
・・なんか、しがみつかれてる感じがするけど。
戦闘は急に始まった。
イルディンは一言で言うと、めちゃくちゃ強かった。
「ファイラ」
手をかざして唱えれば、無数の火の玉が5、6人の黒ずくめに直撃し、そのまま彼らはぶっ飛ぶ。間髪いれず
「氷牙」
の声で後ろの5、6人が足を氷付けにされて怯んだ隙に
「ウィンド」
呟くと、イルディンの足が風をまとい、そのまま回しげりを叩き込んだら氷付けのご一行が吹っ飛んでいく。
えげつない攻撃だが、戦いは見ているだけなら、美しささえ感じられるものだ。だが。
(笑顔がこわいです!)
花の中でイルディンのあだ名はやはり魔王に定着する。
これだけ強いのなら、魔力が足りないがゆえに、言い方は悪いが山賊程度に捕えられたことは、かなりの屈辱だったに違いない。
うーん。じゃあ、この派手な戦いはストレス解消なのかな。なんとも不運な追っ手たちである。
そんな感じでイルディンが追っ手を大量に始末していくなか、彼らの狙いであるミリエルと花は放っておいてはもらえない。
イルディンが相手をしきれない数人が二人に近づいてくる。
(やばい!)
とっさに『粉もののイリュージョニスト』から鉄板を取り出して構えると、ほぼ同時にミリエルが
「ウィンドラ!」
と風魔法を発動していた。
奇跡のコラボレーション、だ。
すごい勢いで鉄板がぐいっと引っ張られ、その場で花は鉄板を持ったまま一回転。鈍い手応えと共に、追っ手たちが空高くこれまた吹っ飛んでいく。
斜め上にむかって振り抜く形になったため、ミリエルは髪の毛をかすったらしく、硬直しているが、無事である。運のいいやつだ。
結局二人のところに来た追っ手はその一撃分だけで、あとは全員、イルディンが倒してしまった。
「・・ひとまず引いたようだな。」
気配を探っていたイルディンが言うと、緊張が一気に解けてその場にしゃがみこんでしまう。へこんだ鉄板も、役割を終えて霧消する。
イルディンがいなければ、どうなっていたか、考えるだけで恐ろしい。
「で?説明してもらおうか。」
イルディンはといえば、渋い顔でミリエルを見つめている。
えーと。
「ミリエル、イルディンを知ってるの?」
ミリエルはイルディンの顔を伺い、イルディンがミリエルから目を離さないので、涙目で答えた。
「法務部の長官、ボクノボスデス。」
後半の片言具合が、精神状態を伝えてくる。と、いうことは。
「私の召還を強引に推し進めておいて、当日出張にだされちゃった、法務部のトップの人・・?」
「花!インプットの仕方に悪意があります!」
「おまえはどういう紹介の仕方をしてるんだ!?」
ミリエルの焦った声と、イルディンの怒りを含む声が同時。
が、イルディンは言いながらも若干の違和感を感じていたらしく、はたと考えている。
「私の召還?ということは、君はミリエルが召還した聖女様か?」
ミリエルを伺うと、うなずいてみせたので、正直に「そうです」と告げると、イルディンは改めて尋ねた。
「で、君たちはなんでここにいるんだ?」
山賊のお頭に一回話しているので、二回目の説明は我ながらスムーズだったと思う。ただ、話が進むに連れ、イルディンの顔は険しくなり、ミリエルは小さくなる。
「ミリエル。」
「ひゃい??」
上司と部下の会話は、容赦ない。
「お前には言いたいことが山ほどある。とりあえず、山賊に捕まった聖女様を助けに来るのが遅すぎる。」
「・・すみません。」
(いや、近くにいただけで驚いてます。てっきり逃げたとばかり。)
花は心でツッコミをいれつつ、とりあえず傍観。
「しかも、グランキンの言いなりになるとは。出張前に伝えておいたろ?なんか妨害してくるぞと。逆らったり裏工作したりまでは無理でも、当日お腹が痛くなるとか、怪我でできなくなるとか、出きることはあっただろ!?」
「お腹が痛いと言ったら、ならば痛み止めのいたーい注射を用意すると言われまして!!」
「それくらい我慢せい!」
訂正。上司と部下と言うよりも、もはや父と息子である。
「ただ、・・」
と、イルディンは続ける。
「牢に出向き、聖女様を救いだした事実だけは褒めてやる。お前にしたら上出来だ。」
「ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言うミリエル。
確か、聖女様に脅された結果じゃなかったかなあ、と思いつつ、今は花もスルーすることにする。
「で、これからのことだが。」
イルディンは考えながら話し始める。
「ミリエルの故郷というのはなかなか良い案なのではないかと私は思う。適度に辺境だし、私も知り合いがいるから匿いやすい。グランキンは癪だが、今は下手に戦わない方がいい。私も魔力が回復したことだし、今から飛ぶか。」
飛ぶ??
「イルディン様は転移魔法が使えます。確かにその方が追っ手の目もくらませるかもしれません。」
ミリエルも賛成のようだ。
「ならば、とりあえず移動、でよいかな?また追っ手が来ると面倒だ。」
わからないが流れに任せてうなづくと、
「では。」
とイルディンが言い、花とミリエルの肩を抱き、
「テレポート」
と短く唱えた。




