聖女は、山賊に襲われる。(3)
力無く座っているその男は、最初は動かなかったので、死んでいるのかと思った。
ピクリと動きこっちを見たその目と目があった時はさすがに声をあげて驚いてしまった。
年齢、一回り上くらいか。品のあるおじ様という感じ。
身なりも悪くないが、傷だらけ汚れだらけでちょっとひどい状態である。
花が
「大丈夫ですか?」
と聞くと、かすかに
「ああ、まあ・・。」
と返事が返ってくる。
それから、縛られて放り込まれている花を見て、
「縄、ほどこうか?」
と続ける。コクコクとうなずくと、ゆらりと動いて近づき、思いの外素早い手付きで縄をほどいてくれた。
お礼を言って、名乗りあう。彼の名前はイルディンというらしい。
旅の途中で捕まったのだという。
「しかし、女性を縛ってこんなところに放り込むなんて、ひどいやつらだ。すまない。魔法さえ使えればあんな奴ら一発なんだが。」
それから、MPポーション持ってない?と聞かれ、花が首をふると、分かりやすくがっかりしている。
どうやら、何らかの事情で魔力がギリギリの時に襲われ、反撃がほとんどできずに捕まったらしい。
魔法さえ使えれば!と悔しそうなところを見ると、かなり腕には自信あり、なのだろうか。
MPの回復か。
可能性はあるのだが。
「ここって、食事は与えられますか?」
イルディンに聞く。
「ああ、パンとかハムとか、ちゃんと出てくるよ。待遇としてはましなほうだな。」
ならば、なんとかなるかもしれない。
「お腹が空いてるのか?たぶんもうすぐ運ばれてくる頃だが。」
言った先から壁の一部があき、
「めしだ。」
と、器がさしだされる。
パンと、あとは、今日は生野菜のサラダのみらしい。
サンドイッチなら作れるかなと思っていた花は、それでも称号も必要要素かもしれないと、ステータスを開く。
えーと、なんかいいの、ないかな。
早く出きるもの。この材料で、できるもの。
手間暇かからないもの。
『よき混濁の創造者』
・・もう、いい加減、連想しないと元がわからないネーミングはやめていただきたい。
称号を開くと、ミキサー出現。いけそうだ。
サラダをとりあえず、全部ミキサーにいれる。
さて、コンセント・・
あ。
「あの。もう、魔力って0ですか?」
先ほどから、目を丸くして見ているイルディンに聞いてみる。
「ああ、ちょっとは回復しているよ。中級魔法すら無理、くらいの程度だが。」
じゃあ、いけるかな。
「電気を流すとか、できますか?」
「電気?」
あ、電気の概念はないのだろうか。
「えっと、、雷系の魔法ってないですか?」
ああ、と納得してもらえたようだ。
「どうしてほしいの?」
と言われ、コンセントを指して出来るだけ微量の雷を通してもらえるよう説明する。
「弱める方がかなり難しいからな・・一応、やってみる。」
イルディンは眉間にシワを寄せ、指先から、かすかな電気を出して、コンセントに繋いでくれる。
スイッチを入れて20秒。グリーンスムージーの出来上がり。
『スムージーソムリエ』の名に懸けて言うが、これは正しくはない。
スムージーとは冷凍した野菜や果物をシャーベット状にしたものをいう。生野菜のグリーンスムージーは、バランスを考えて、効果を最大限引き出すべくいろいろ計算された材料と配分で作るものだ。なんでもいれればいいってものではない。
とはいえ、できたものを、パンにつけて味見してみる。
まあ、控えめに言って、激マズである。
まだ検定試験を受ける前、ブームに乗っかり、
飲むサラダなんだから、と、野菜を適当に入れて初めて作った、なんちゃってスムージーに似ている気がする。
イルディンは、初めて見るミキサーに、
「これはおもしろい。魔法の加減調節の鍛練に使えるかも・・。」
とぶつぶつ言いながら、興味津々である。
そんな彼に、
「騙されたと思って一口!」
と飲んでもらう。
飲んだときは思い切り顔をしかめていたが、ステータスを確認してもらうと顔色が変わり、なんと、一気に飲み干してしまった。
二人分のサラダだから、そこそこの量はある。
しかし、飲み終わったイルディンの目が、ぎらりと光ったような気がした。
なんだか、雰囲気は、魔王、完全復活!みたいな。
「魔力が全回復だ。お礼はあとで。とりあえず、洞窟をぶっ壊して出ようか。」
そう言うと、イルディンは花を抱き寄せると、おもむろに手のひらを前に付き出して、
「ウィンドガ!」
と一声かけた。
・・ぴったり近くにいなければ、巻き添えで命の危険があっただろう。二人のいた部屋は、突風と竜巻で、洞窟もろとも破壊され、二人のいる場所から真っ直ぐに、外につながる一本道ができていた。とはいえ、洞窟自体がほぼ破壊されてしまったので、空が見えて、既に外と言えなくもない。
(助けを求める相手、間違ってないよね?)
想定以上のものをみせられ、花はちょっと、不安になった。