聖女は、検討する。
旅行者との打ち合わせは、ミリエルと花で行うことにしている。
「僕、やっぱりあの人苦手・・っていうか、キライです。」
ゴーシュには、ルートの最終確認と、めぼしい観光場所、美味しいものなどを書き出してもらっている。花も、少しずつ文字を学び、単語ならいくつか、読めるようになった。
こうやって、よく使うものから、実地で学ぶつもりだ。
問題は、ミリエルのメンタル。
先程カップを割ってしまったミリエルは、呑気なゴーシュの「ミリエル、大丈夫かい?」を完全に無視してさっさと片付けると、
「花、この後の相談をしましょう。」
と、無表情に言った。
さすがに感じ悪いよな、と思ってゴーシュをチラリと見ると、全く意に介さない様子で、
「離れがたいけどしょうがないね。行ってらっしゃい、花。」
と額に軽くキスされる。
・・まったくもって、どう反応するのが正解なのか、分からない。
「だいたい、どこの馬の骨か分からないくせに、馴れ馴れしくしすぎなんだ!」
ミリエルはぷんすか怒っているが、ゴーシュほど「馬の骨」が似合わない相手もいないだろう。見た目は完全に王子様、なのだから。
「まあ、でも、あの情報通っぷりは貴重よ?仕事には必要。」
花がとりなそうとすると、ミリエルはますます拗ねる。
「花に近すぎるのが、嫌なんです。あいつ、絶対に気があるんだ。」
拗ねてる原因には察しはついていたが、素直に表現されると、怒っているミリエルには悪いがちょっと嬉しい。
ぷいっと顔を背けたミリエルの背中にコツンと頭をつけて、「大丈夫だよ。」と、小さい声でつぶやく。
「え?」
ミリエルが急に振り返ったのでバランスが崩れて、わわ!とミリエルに抱き止められた。
なんとなく離れたくなくて、そのままぎゅっと抱きつく。
「覚悟してって言ったでしょ?私が一番そばにいて欲しくて、頼りにしてるのは、ミリエルデス。」
慣れない好意の表現は難しいし、恥ずかしい。
でも、ミリエルには知っておいてほしい。
永遠は、きっと存在しないから。だからこそ、今できることはしたいとおもうのだ。
「・・分かりました。我慢します。」
そう言って、ミリエルも、手を背中に回してくれる。
ぽそっと、
「花、ちょっとずるいよ。」
とつぶやいて。
かくして、一方通行の「朝の乱」は、終息したのだが。
打ち合わせもなかなか大変な仕事だった。
出張に行くという騎士は、一人は経験豊富そうな目付きの鋭いしゅっとした感じの男性。もう一人はどう見ても十代半ばのまだ幼さの残る青年だった。
(どっかで見たことがあるような・・。)
しゅっとした方はレオン、青年はオリバーと名乗った。
主にレオンがしゃべり、日程や行程を確認していく。
ルートについては、まだ問題が残っているためもう一度打ち合わせの約束をしたのだが。
(オリバーが暗い・・。)
打ち合わせの間中、一言もしゃべらないだけでなく、終始うつむいて、どきどき小さくため息までついている。
(出張嫌なのかな。)
騎士の仕事なのだから、もっとやる気を出してもいいとは思う。
この若さで騎士の称号を得ているのだから、才能もあるのだろうし、訓練も頑張っているのだろうし・・。
打ち合わせが終わろうとした時、花は、どうしても気になって、オリバーに話しかけてみた。
「オリバーさん、私たちの旅プランは、安全に行くだけでなく、その人の心を豊かにすることを大事に考えているんです。あなたは、何か好きなことは??」
名前を呼ぶとびくっとしてこちらを見たオリバーは、好きなこと、のフレーズに少し反応を示し、ボソボソっと何かつぶやいた。
「え?」
とミリエルが聞き返す。
しかし、オリバーは、
「なんでもない。」
とムスッとした顔で言う。
言葉づかいも態度も、全く騎士らしくない。なのに、厳しそうなレオンは、何も注意せず、むしろこちらに、
「すみません。では、また。」
とそそくさと礼をして切り上げてしまった。
変な関係性である。パッと見、新人と教育係に見えたのだが、どうやら違うらしい。
レオンが望むのは、穏やかな、安全な旅。ご飯は多少要望があったが、問題ない。
だが、花は、変な火がついていた。
せっかくの旅行代理店初仕事である。あの、ムスッとしたオリバーが、夢中になるような、満足のある旅にしたい。
ミリエルには聞き取れなかったようだが、あの時オリバーは「音楽」と言っていた。
そういえば、この世界では、音楽があまり日常的ではない。
楽器もあまり見ないし、歌も聞かない。踊り子は打楽器で踊るが、歌は無さそうだった。
(そのへん、リサーチしてみないとね。)
まずはゴーシュだろうか。
だが、騎士の出張に音楽。
旅行プランは、まだ、要検討である。




