聖女は、従業員を得る。
「・・意外だわ。」
花は、ぐったりしていた。
だいたい、こういった新事業は、うまく行かないのが王道。
閑古鳥がなく中、風変わりな一件の依頼がきて、それを数々の苦難を乗り越えて成功させ、徐々に事業も軌道に乗り始める。
それを若干楽しむつもりでいたのだが。
「花。お茶いれたので、少し休んでは?」
ミリエルが部屋をのぞく。
「ありがとう。もうちょっとで、とりあえず一段落よ。」
花は、かろうじて笑顔を向けたが、明らかに疲れていた。
旅の相談承ります。
そんな看板を出して、10日ほど。
日付を確認するために、花が作ったカレンダーには、旅のお供をお願いしたいという予約客でかなり埋まっていた。
この世界には暦が存在しない。
だが、ある程度暮らしてみると、前の世界とそう変わらないことが分かり、便宜上、花のカレンダーは、30日を一区切りで作られている。
ひとつき先の旅から入れ始めていて、今はある出張の旅の計画を練っているところだった。
「本当に花はがんばり屋です。イルディン長官のお墨付きも得たばかりなんですから、ちょっと休んでちょうどいいくらいですよ。」
お茶を飲みながらミリエルはため息をつく。
そう。
この事業、いきなり一般に開かれたわけではなく、最初はイルディンとフィラードによる試験があった。
内容は、この国の領地についての知識を問うもの。
そして、花の言う、旅行プランがどういったものなのか。実際に北の領地まで彼らを連れていくという実地試験があったのだ。
知識面は、ミリエルがすごく頼りになった。必要と思われることは分かりやすく説明してくれるし、何よりもミリエル自身の知識量がすごい。
試験の最後にイルディンが、
「まあ、ミリエルも一緒だしな。」
と言っていたくらいだ。
まあ、名誉教授のイルディンが見つけてきて育てたというのだから、きっと厳しく教育されてきたんだろうな。と花は予想する。
実地試験は。
めちゃくちゃ下準備をした。
まずは、北までの最短にして再楽、しかも安全なルートの確認。
そして、フィラードが、途中に立ち寄る町で有名な美味しいワインと魚料理が食べたいという条件を出したので、そのリサーチ。
ポチが、テレポートで飛んでくれたのでかなり助かった。
ちなみに、主である花の魔力がまさかの無限のため、ポチ自身も魔力が規格外にすぐに回復するらしく、イルディンに頼むよりかなり気楽だった。
宿や、食事の予約をとり、彼らにもカレンダーを渡して来る日を説明。
下見のために、自分でも実際に移動。
徒歩では果てしない旅だが、魔法を付与した馬車を使うと、行程はかなり楽なものになった。
揺れの補正と、馬の足への負担を減らすためのプロテクトだ。
その気になれば、二人とも、一瞬で北の領地へ行けるのに、わざわざ花のために無駄に見える行程を任せてくれるのだ。
万全に万全をきして臨んだ実地試験は、トラブルゼロではなかったものの、おおむね好評だった。
何より、まだ治安の安定しないこの世界で、花が同行すれば安全はほぼ保証される。それだけでも価値はある。
なんせ、魔法はオールマイティ、魔物や精霊は味方。襲われても負けない。
というわけで、無事に一般にもひらかれることになったのだが。
「やっぱり、知らない土地ってのがね。明日また、ゴーシュに聞いてみないと。」
ゴーシュの名前が出ると、ミリエルの笑顔がひきつった。
「僕、やっぱりあの人、ちょっと苦手だなあ。」
ゴーシュは、雇いいれることになった従業員である。
運送業をしていたそうで、この国の各領地にやたら詳しい。
いろいろ条件を出して募集したら、彼だけヒットしたのだ。
イルディンがステータス画面を確認し、身元については問題無さそうなのだが。
花の疲労の原因は、じつは彼にも責任はおおいにあった。




