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第二章 帝都の三人(5)

 観念したシェリーは一歩前に出て、刀を抜いた。

 赤毛の女が真っ先に視線をシェリーに向け、左右の傭兵たちも若い男も少し遅れてそれに倣った。


「何だい姐さん。この子のお守りかい?」


 赤毛の女は揶揄しながらも、目は全く笑っていなかった。構えに隙がない。

 シェリーの力量を侮りがたし、と一目で看破したようだ。


「違うわ。ここの元締さんには少々義理があるんでね。それに報いようってわけ」


 シェリーは静かに刀を中段に構えた。

 六尺棒の男が間合いをじりじりと詰めてくる。

 両手で持った六尺棒を斜めに構え、ゆらゆらと上下させていた。

 次に下段からでも上段からでも攻撃できる、という構えだ。

 鉄棍の男が、素早くその左に移動した。

 シェリーから見て左手に六尺棒、右手に鉄棍という状況だ。

 赤毛の女は飛びかかる隙を窺う若者を牽制しつつ、シェリーからも目を離していない。


 シェリーは間合いと呼吸を計る。

 たとえどんな強敵相手であろうと、人数が多かろうと、基本は変わらない。

 気息を整え、男二人の動きを見守りつつ、そろりそろりと横に移動する。

 それに合わせて男たちも動く。

 あくまでも左右から挟撃しようというのだろう。

 同時に打ち込まれてしまうと、シェリーでも回避するのは難しい。

 もちろん避けられないわけではないのだが、その隙を赤毛の女に突かれるだろう。


(いや、むしろそちらが本線か)


 シェリーの力量を、赤毛の女は見抜いている。

 負傷している若者は、気にする程の敵ではない。

 このような状況で、手馴れの傭兵ならばどうするか。

 騎士や貴族なら、正々堂々と一騎討ちを挑むだろう。

 侠客でも腕に自信のある者ならばそうする。

 だが、彼らは傭兵だ。

 傭兵は利と理を好む。情で動くことはほとんど無い。

 利とは金で動くという意味でもあり、この場合のように数に勝るという意味でもある。

 金のために戦う彼らは、名誉など求めない。

 常に戦いに勝つことが仕事なのだ。

 シェリーを三人がかりで仕留め、それから若者を斃そうとするだろう。

 仮に若者に逃げられても、すでに一人は倒しているからそれだけでも戦果にはなるのだ。


(全て計算尽く、か。フフ、それじゃ、その計算を狂わせてあげるわよ)


 シェリーは不敵な笑みを浮かべた。先日のような中途半端な連中とは違う。

 武術の心得があり、経験も積んだ手合いとの真剣勝負だ。

 武侠の血が騒ぐのを抑えられない。


 シェリーは態勢を一瞬低く沈め、左右の男たちには構わず、その後ろに控える赤毛の女に向かって猛然と迫った。

 男たちには背を向けることになるので危険ではあったが、意表をつくことには成功した。

 上段から刀を斬り下げる斬刀から、素早く中段に刀を払う払刀。

 双刀で器用にそれを受けた赤毛の女だったが、一瞬だけ足元に隙ができた。

 そこを足で払うと見せかけ、さらに上中下段にめまぐるしく打ち込んでいく。

 赤毛の女は防御に徹していたが、巧みにフェイントを織り交ぜるシェリーの刀捌きにずるずると押されていった。

 攻撃と攻撃の合間には隙ができるものだが、そこの『繋ぎ』がシェリーは非常に上手い。

 隙間無く続く攻撃に、赤毛の女の表情に焦りが浮かんでいた。


 シェリーは打ち込みを続けながらも、常に背後に気を配っていた。

 六尺棒と鉄棍の二人も追ってきているが、なかなか仕掛けることができずに焦れている。

 赤毛の女は受けるのに精一杯で、かなり疲労が蓄積しているようだ。

 戦いは攻撃よりも防御の方が疲労する。

 シェリーにとっては好機だった。

 

 シェリーはすぐさま踵を返し、六尺棒の男の懐に飛び込んだ。

 間合いの広い長柄物は、懐に入られてしまうと繰り出せる技も限定される。

 もちろん、そのような場合に備えて接近戦用の武器や体術も心得ているだろう。

 だが、それもまたシェリーの計算の内であった。

 男が迫り来るシェリーに対し、咄嗟に膝蹴りを入れようとした。

 素早く低く右に跳び、それを避ける。

 間合いが少し開いたところで、足元を棒で薙ごうとしてきた。

 だが、すでにシェリーは懐深く入り込んでいた。

 その速さに驚愕した男の顎を、掌底で打ち抜く。

 男が白目をむいて膝をがっくりと突き、気絶した。


 鉄棍の男が飛び掛ってくる。

 シェリーは刀を下げたまま、繰り出される鉄棍の連撃を踊るようなステップで避けていった。

 避けつつ、男の動き・呼吸を観察する。

 流派までは分からないが、それ相応の修行を積み、さらに実戦で磨いてきたのだろう。

 だが、シェリーは紙一重のところで回避し続ける。

 やがて男の呼吸が乱れ、繋ぎのところで隙が生まれた。

 相手の攻撃にタイミングを合わせ、わきの下を狙って刀で払おうとした。

 急所を狙われ、男が慌てて身を引く。

 だが、次の瞬間には鉄棍を握る右手を刀の峰で強打されていた。

 激痛に顔を歪ませ、鉄棍を取り落とす。

 男に態勢を立て直す余裕はなかった。

 シェリーの肘が喉笛にめり込んでいた。男は前のめりに倒れ伏す。

 油断することなく、シェリーは赤毛の女に向き直った。

 女はすでに呼吸を整え、怒りをあらわにして立っていた。


(続く)

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