白い雲と彼女と熟女と少女とバキ童な僕
白い雲が流れていくね。
まるでクリームパンみたいだなあ。
秋風は頬を優しく通り過ぎ、僕は少しだけ寂しい気持ちになる。
もうすぐ来る冬は、また、みんなの家でストーブが燃える匂いと共に、僕の元にやってくるのだろう。
さあて、そろそろ行こうかな。
僕はベンチから立ち上がって彼女に言った。
「そろそろ、妹が帰ってくるから帰るよ」
すると彼女の真鈴が僕のほうに歩いてきた。
うん、いつも通り可愛い、イヤ綺麗だな。
すらりとした肢体に、よく手入れされた髪と爪。
普通なら、下品で不良っぽくなるようなファッションなのだが、彼女は下品にならず、抜群に似合ってしまうのが不思議だ。
「へー、帰るんだ」
「ああ、妹に勉強を教える約束をしてるからね」
「勉強……か」
「受験生だからね、兄としても気を遣うよ」
父子家庭の僕は、忙しい父に代わって、妹を大事にしている。
僕は外人のように肩をすくめて彼女に笑いかけた。
途端に殴り倒された。
大事な事なので二度言う。《《殴り倒された》》のだ。
これは良くないな。
例え彼女と言えども、いきなり彼氏を殴り倒すのはいけない。
「ね、ねえ真鈴、いくら何でもこれは良くないんじゃないかな?」
「へー、クソゴミ変態害虫の分際で随分と生意気なのね?」
「クソゴミて……」
今度は本気のヤクザキックを貰った。
そして真鈴は僕の胸倉をつかんで、引きずって行き、さっきまで彼女が話していた女性の前に放り出された。
「さっきの事、もう一回言ってみて」
「え?でも、周りでみんな見てるし……」
「言ってみなさいよ!娘の彼氏の子供出来たって大声で言え!」
え、ウソでしょ? あの人って真鈴ママだよね?
家にお邪魔するとよく会うし、美人だなあとは思ってたよ。
でも僕の子供って何の話?!それってエッチしないと出来ないよね!
……撲、バキバキの童貞なんですけど?
いやいやいや、おかしい。
何故そんなことになってるんだろう。
身に覚えがない事で殴り倒されるとか、あり得ないよね。
しかしここは、まず、真鈴の誤解を解かねばなるまい。
「落ち着いて真鈴。僕はバキバキでピカピカのヴァージンさ!」
僕は、そんな事を大声でカミングアウトしながら、自信のある左45℃の角度で真鈴に微笑む。
真鈴も同じように左45℃のショベルフックを僕のレバーに叩き込む。
僕は思わず膝をついてしまい、彼女に謝りそうになる。
…なんだろう、彼女のフックって痛いとか効くんじゃないんだ。すいませんでした、御免なさいと、思わず言ってしまうんだよ。
「ねえ、真ちゃん。アタシ、真ちゃんが30代の奥様とか熟女好きなのは、知ってるよ?」
な・ん・で・す・と……
なぜ、真鈴が僕のトップシークレットを知っているんだ?!
ここは否定せねば、僕の社会的地位が脅かされてしまう。
「な、何言ってるんだい?僕が好きなのは君みた…」
「もちろん!アタシみたいなギャル『も』好きなのは知ってるよ?」
「でも、ボディラインが少し緩い感じの、巨乳のタレ目の熟女シンママとか大好物でしょ?ウチのママどストライクじゃない!」
何故だ?!
なんでそこまでバレているんだ?
知らぬ間に、何故に僕の性癖が真鈴にバレているのだろう…
真鈴ママも「あらあら、ウフフ」て顔で微笑むのやめて下さい。
……フラフラ近寄っちゃいそう。
じゃないわ!
「君は何か誤解しているのかな。僕は18歳の高校生だよ?真鈴のような、太陽のような笑顔の女の子と青春していたいんだ。そりゃあ、年上の美人な女性に憧れることもあるよ?でもそれは芸能人を見るのに近いだけさ。僕が好きなのは君みたいなちょっとギャルっぽいけど、清潔感のある笑顔が素敵な女の子だよ?」
僕は、普段は話さないような長セリフで、真鈴にプレゼンした。
しかし僕の全力のプレゼンは、真鈴に通じなかった。
「へー、じゃあ真ちゃんの検索履歴に『0930』とか『〇妻斬り』とかばかりなのはなんで?」
あれ?なんで僕のPCの検索履歴を知ってらっしゃるのかな?
僕はスマホで、エッチな動画は見ないのだ。
画面の小さなスマホでコソコソ見るなんて、僕のリビドーを慰めてくれる彼女たちへの冒涜だと思ってるからね!
それにスマホに変な動画残ってたり、履歴残らないように気を使ってたから、そんな履歴はPCだけしか、考えられない。
だが僕は、真鈴が遊びにくると言うときは、履歴なども綺麗にしているはずだが。
ブックマークフォルダも、名前を変えていたが、先週フォルダ自体を泣く泣く削除したくらいなのだ。
なのに、なんでやねん。
どうして消した検索履歴を知っているんだ?
知らぬ間に、僕の部屋に来た訳でも無いだろうし。
…一応聞いとこうかな。
「真鈴、ちょっと聞きたいんだけど?」
「何かしら?」
「僕の居ない間に、部屋に入ったりしてるのかな?」
「ええ。詩織ちゃんと良くお茶するの。真ちゃんの部屋で」
…えーと、僕の居ない間に、妹と僕の部屋でPCの履歴チェックしてたって事?!そりゃ性癖もバレるよね!
…じゃないよ、
ま、まて。検索だけならほんの好奇心だと言い訳出来るかな。
「や、やだな。ほんの好奇心と言うか。ほら、本間君がさ、見てみると良いって言ってたものだから」
ごめんよ本間君。
サ〇ゼのドリア奢るから、こんな俺をゆるしてくれ。
「ふーん。でもさ、そのサイトにアカウント有った上に、『人妻タレ目巨乳』ってプレイリストが作ってあったけど?」
な、あれを見られてたのか…
言い訳、言い訳を考えるんだ僕の頭脳!
「あとね…」
なんだい真鈴?
君はまだ武器を持ってるのかな?
僕のライフはそろそろ物理的にも精神的にも無くなりそうなんだけど。
「詩織ちゃんが『妹系』のプレイリスト見つけた後に、『気持ち悪い』って…」
グハッ!
思春期の女の子は嫌がるだろうと、あれだけエッチ系見せるのは気をつけてたのに。
よりによって『妹系』プレイリストが詩織に見つかるとは…
でもな、言い訳させて貰うと、『妹系』の動画と本物は違うんだよ?。
別に妹に欲情してるから、『妹系』見るわけじゃないのだが、分かってもらえないだろうなぁ…良い物なんだけどなあ。
まわりの人達は固唾をのんで見守っている。
まさか、彼氏が彼女の母親を妊娠させた修羅場だと見守っていたら、突然僕の性癖を聞かされたんだ、そりゃ混乱するよね。
でもこれじゃ、僕が特別スケベで変態な人間のようだ。
だから、僕は大きく息を吸ってまわりの人達に聞いたんだ。
「皆さん、自分は関係ないって顔してますけど、この中に、『0930』や『4610』って数が、なんかエッチだなって思う人は結構いますよね!」
男性の半分以上は、目を逸らした。
そうだろう。僕が特別スケベな訳ではないんだよ。
……ただ女性、しかも綺麗なお姉さんや、可愛い中学生が慌てて横向いてたな。うん、とても良いものを見た気がする。
「あのね真鈴ちゃん…」
真鈴ママが困った顔で、眉を下げて下から見てくる。
……けしからんなあ、真鈴のママじゃ無ければ。
じゃなくてね。
どうして貴女は僕の子供がいるなんて嘘を吐いたのですか?
いや、どうせなら僕の童貞もらってくれれば良かったのに。
「真ちゃん?」
「い、いや、僕のヴァージンは君の物だよ真鈴!」
再び彼女にボディフックを貰った僕は、片膝をつく。
「で?何か言い訳でもあるのママ?」
氷のように冷たい真鈴の声。
「あ、あのね、『真ちゃんの子供が出来た』じゃなくて、『真ちゃんが子供』になるの……」
「……意味わかんないんだけど?」
なるほどそうか! そういう事ね、真鈴の勘違いだよ!
僕は傷む腹を押さえながら、真鈴ママと向き合う。
「つまり、僕が子供の役で、バブ味を味わえるんですね?」
「そんなわけないでしょ!」
僕は後頭部にスクールバッグの一撃を貰う。
そこにいたのは妹の詩織だ。今日もウチの妹は可愛い。
「詩織、お前は今日も可愛いな。でもねいきなり人を殴るのは良くないよ。それじゃ真鈴になるよ?」
「ああん?!」
僕は真鈴から距離を取った。もうゲージが赤いのだ。
詩織は、綺麗にそろえられた黒髪を揺らして、僕に言う。
「お兄ちゃんの変態。なんなのあれ、気持ち悪い」
……応えるなあ。思春期だもんなあ、嫌だよねえ。
でも一応良い訳だけはしておこうか。
「あのな詩織。『妹物』ってのはジャンルであってだな……」
「なんなの『姉物』って!『妹物』だけで良いじゃない!そもそも本物の妹居るんだからこっちで良いじゃない!」
あ、あれ?
そっち?そっちで怒ってたの?じゃあ嫌われて無かったんだね。良かったー、…じゃなくて詩織?それはちょっとおかしいよ?
「ちょ、ちょっと詩織ちゃん?」
肩に延ばされた真鈴の手を払いのけて、詩織は言った。
「妹だから遠慮してたけど、もう遠慮しない!」
「詩織?どうしたんだお兄ちゃんは困っちゃ…」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃなかった。」
「はい?」
「私はね、死んだお母さんの妹の子供なんだって」
「え・じゃ、じゃあ俺達は従兄妹って事なのか?」
「うん。だから結婚できる。戸籍も大丈夫。お父さんに聞いた」
…えーと、彼女に殴られて、彼女のお母さんのお腹の中に僕の子供いるって聞かされて、公衆の面前で性癖バラされて、妹に殴られたと思ったら、その妹が従兄妹になって、結婚したいと言われたでゴザル。考えが追いつかないよ……
「これ、良かったらどうぞ」
20代位の女性が、僕にエナジードリンクをくれた。
「ああ、ありがたいです。遠慮なくいただきます」
「頑張って下さい!あ、これSNSにあげて良いですか?」
彼女は僕にアイポンを向けて言った。SNSは断った。
とはいえエナジードリンクで少し落ち着いたな。
僕は詩織に聞いてみる。
「なんで急に父さんはそんな事を詩織に聞かせたんだ?」
「お父さん、再婚するんだって」
「なんですと。誰とか聞いてるのか?」
詩織が黙って指さしたのが真鈴ママだった。
「街で会って挨拶してるうちに、なんか付き合い始めたんだって。結婚とか考えてなかったけど、赤ちゃんできたからって」
なるほど、じゃあその子供の父親は父さんで、『真ちゃんが子供』になるってのは義理の息子って事か。
でも、僕は父さんいるけど、詩織の両親って…
そんなことが顔に出てたのだろう、詩織は困った様に笑った。
「…事故だったんだって。顔も知らないから実感もないけどね」
「そうか…。まあ俺が兄ちゃんなのは変わらないから」
「ううん。それじゃダメ。」
「……?なんで。」
「ずっと好き。妹だから諦められた。でももう諦めないの」
そして詩織が飛びついてくる。僕はそれを受け止めた。
周りは、ハッピーエンドのドラマ見たわって空気だ。
……一人を除いて。
「何なのよ!ママは真ちゃんの父親と子供作って結婚?妹の詩織ちゃんはホントは従兄妹で彼女に立候補?なにそのラノベ? なのに私ときたら、母親のあんなバカみたいな発言で彼氏殴り倒して、ヤクザキックして、フックで沈めて、公衆の面前で性癖バラして……ダメダメじゃない!」
僕はマンガみたいに泣く真鈴をみて、
(後半部分は僕が被害にあってただけだよねえ)
と思って空を見上げた。
相変わらず白い雲が流れていた。
クリームパンの代わりにポ〇デリングのような雲を見つけた。
僕は嬉しくなって、詩織と真鈴に教えたんだ。
そして三人で笑って
「今日も良い日だったな」
と僕は心から思ったんだ。




